黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

食べ方提案に電子レンジ ~ ネオバターロール・フジパン

ありそうでなかった、電子レンジ加熱商品

 日本では、通常パンはトーストするか、もしくはそのまま食べるのが一般的です。

 少し手を加えますと、サンドイッチやハンバーガーのように具材を挟んでアレンジを加えることもありますが…。

 しかしながら、(総務省統計局 平成26年全国消費実態調査より)20年前で既に普及率が90%を超え、直近のデータで平成26年には97.8%に達した電子レンジですが、意外にも、この家電製品に対応している商品の少なさに驚かされます。

 本題に入る前に、電子レンジのマイクロ波加熱に関する説明を少々。

 食品を加熱するために使用される電子レンジは、水分子の誘導加熱に最適な周波数(約10GHz)に設定されていません。

 その理由は、最適な周波数にしてしまいますと、食品の表面で全てのマイクロ波が吸収されてしまって、表面だけが加熱されて、中心部は冷たいままという状態になってしまうためです。

 つまり実際の電子レンジの周波数は、エネルギーが食品の中心部まで深く浸透するように設定されている(2.45GHz)のです。

 そして、もうひとつ、マイクロ波は食品に達したところで、どの角度から照射されても表面に対して垂直に進行する性質を持っています。

 その結果、球状に近い形状の食品に関しては、レンズ効果と称されます中心が加熱され易い状態になる訳です。

 ところで、どうしてパンを電子レンジであまり加熱しないのでしょうか。

 ひとつには、パンをマイクロ波加熱して温度を上げ過ぎると異常なまでに硬くなってしまうことにあるのではないでしょうか。

 つまり、加熱することでパンを美味しくすることが非常に困難だった、これに尽きると思っています。

?日本で唯一 電子レンジ加熱を意識したパン

 そのような中、電子レンジ加熱を推奨する商品が登場しました。

 それが、フジパンのネオバターロールです。

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 外観は、一般的なバターロールなのですが、2分割してカットしてみますと、生地の中心にはマーガリンが充填されています。

 バターロールなのに、とは思わないで下さいね。

 パン自体の名称がバターロールなのですから。

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 そして、そのバターロールを包装紙に記載されています設定(バターロール1個につき、500Wで10秒)で加熱します。

 すると、マイクロ波の浸透性とレンズ効果によって、中心のマーガリンが適度に溶け出す状態にまで加熱されます。

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 実に絶妙の熱し方で、パン自体のソフトさも損なわれず、かつ温度も過度に上がることもなく、それでいて中心部のマーガリンは程よく溶けていて、食べてみるとジンワリとマーガリンが風味を伴って口の中に広がってきます。

 もう一点、記載しなければならないことがあるのですが、パンの場合、マイクロ波の浸透深さはせいぜい数cmといったところです。

 つまり、ネオバターロールのこのサイズもマイクロ波が中心のマーガリンに届く、適度な形状と大きさになっていることです。

 正直な感想ですが、このネオバターロールはマーガリンを充填するところまでの商品であったなら、それほどの衝撃はなかったと思いますが、これまでの発想と異にした『家庭に大いに普及している電子レンジをする』といったコンセプトが見事に製品特徴として生きていることがすばらしい!

 開発されたスタッフの方に尊敬の意を表したい、そんな商品です。

FOOMA2019 ~ ③写真撮影をお願いしてみると…その2

七洋製作所

 前回からの続きで会場での雰囲気を伝えたかったわりには、冒頭に撮影が叶わなかった製パン機械設備を紹介します。

 七洋製作所のダブルデッカーと呼ばれます2段式のオーブンが、初お目見えしました。

 キャタピラ式のトンネル式オーブンでリターン機能が付いている機種は、これが初かもしれません。

 特許申請中だそうです。

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 会場でのデモンストレーションでは、上図にあるような感じで、正にオーブンの入口に設置されたデポジッターを通して生地を充填し、板バウムを焼成していました。

 上段から投入された生地トレーは、先端の?が付いた部分で折り返し、下段から戻ってきます。

 見学して分かったことは、先端の黒いプレートの部分と?の部分が共に天板1枚分の長さとほぼ等しくなっていることです。

 推測しますと、おそらく黒いプレートの部分は急送の送り込みコンベア、?の部分が昇降装置ではないでしょうか。

 私の経験上、パン以上に菓子類の焼成では、焼成温度の変動、特に温度低下に気を遣います。

 基本的に、焼成途中におけます加熱温度の低下は生地内部での水分の戻りや体積収縮を引き起こすため、極力避けることを心掛けています。

 蛇足ですが、そのような意味では、よくリテイルベーカリーで固定オーブン内の製品の焼きムラを解消するために、焼成後期に扉を開けて天板位置を変更している操作を時々目にしますものの、品質的にはあまり推奨していません。

 話を元に戻しますが、焼成の中央に加熱が弱まる工程があるとすれば、それは短時間で済ませたいはずです。

 ゆっくりとしたオーブンのドライブコンベアの速度で生地を移動させることは、生地温度の著しい低下を招くことが危惧されますので、この箇所は短時間で操作できる機構にされているのではないでしょうか。

 イメージしますと、2段のデッキ式オーブンの前面に予備室のようなものがあって、上段オーブンから下段に素早く天板を入れ替える感じです。

フジサワ・マルゼン

 そして、製パン機械設備では老舗のフジサワ・マルゼンです。

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 横型ミキサーですが、ミキシングボウルの部分が宙に浮いている感じがしませんか。

 このミキサーでは、清掃性を高めるために粉が溜まり易い軸のジョイントカバー部分が容易に外せる設計になっている他、通常はボウル下にある動力をサイド部へ移設させることで本体下の清掃がし易くなっていて、作業者に優しく考えられています。

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 そして、モルダーも潤滑油が不要なベルト駆動方式が採用され、注油作業の削減と異物混入への配慮がなされています。

 ところで、同社はデバイダーも手掛けているのですが、以前に掲載した生地ストレスについても担当者と協議を交わしてきました。

www.santa-baking.work

 次の進展につながることを期待して…。

関東混合機工業

 同社は、ミキサーの専門メーカーとして1918年に創業し、昨年記念すべき100周年を迎えました。

 国産初のスパイラルミキサーを開発・商品化する等、イノベーションにも余念がありません。

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 今回の展示会は、パン・菓子だけではなく食品全般でしたので、十分な情報交換も叶わなかったのですが、最も重要な工程のひとつであるミキシングにおきまして、生地の出来具合と吸水に掛かります新たな機能を模索していく為には、今後もコンタクトを続けていこうと思っています。

街のパン屋さん ~ ポール ボキューズ キャレ 生食パン専用ブランド

本・生食パン

 まだまだ高級食パンのブームは、衰え知らずで続いています。

 今回は、名古屋栄にあります松坂屋名古屋店が、今年3月に南館2階フロアを全面リニューアルした際にオープンしました、ポール・ボキューズ・キャレの製品を紹介します。

 ここはフランスの名店ポールボキューズと大丸松坂屋がコラボした、生食パン専門

ブランドの店舗です。

 そして、この店舗で取り扱っている商品は、今のトレンド真只中の高級生食パン、この1品種のみです。

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 『本・生食パン 2斤972円税込』は、先行します他の高級食パンと比較しましても、強気のこの価格です。

 キャッチに『耳までやわらかく、生で食べて美味しい』と謳っているだけあって、ビニール袋の上から触っても、パンのソフトさが伝わってきます。

 それと、なんとなくなのですが、外観品質のホワイトラインにはずいぶんこだわりがあるように感じます。

 全体的に、たとえ若干ボウズ気味の外観形状になったとしても、レンガの製品は出さないといった意図と捉えてしまうのは、私だけでしょうか。

 耳までやわらかく、というのは、外観形状がレンガになってしまっては叶いません。

 並んでいます製品を眺めていますと、全体的にややボウズ気味でホワイトラインも若干太く出ている傾向があるように見て取れます。

 使用している原材料は、食パン用高級小麦粉に国産米粉ブレンドしているそうです。

 米粉を入れることで、日本人好みのもっちりした食感が得られます。

 製法に関しましては、具体的な内容は一切明記されていません。

 近年、よく目にします湯種法でもないのかもしれません。

 さて、購入しました本・生食パンをスライスしてみますと、内相の肌目は非常に細かく、色合いも白く良好です。

 見た瞬間に、丁寧な仕事ぶりが分かる製品です。

 食べてみますと、やはり見た目の内相から連想されます通り、しっとりソフトな食感が最初に感じられます。

 甘さも強過ぎず、適度に抑えられています。

再び成形方法に関する疑問

 さて、先週はパン学校とFOOMA2019があって、食パンの成形方法についての新たな見識があったばかりですが、ここで再度食パンの成形方法に関して疑問が湧き上がってきました。

 リテイルベーカリーで採用されている食パンの俵成形ですが、手成形での製造ではなく、モルダーを2回通して行っているのは、なぜだろう? と、いった点です。

 200数十gの生地を圧延・ロール成形するのであれば、間違いなくU字成形の方が容易にかつ確実に作業することができると思われます。

 けっして、U字成形した食パンの内相が劣っているとも思えません。

 わざわざ、ロール成形した生地を再度モルダーに掛ける、…クロスモルダーの考え方とも逆になります。

 あと残された異なる点は、型詰めした後の生地間の間隔となるのですが、すぐに結論が出る問題でもないと思いますので、もう少し時間を掛けて詰めていきたいと思っています。

 リテイルの技術を、ホールセールに転用する格好の課題かもしれませんし…。

FOOMA2019 ~ ②写真撮影をお願いしてみると…その1

進化する製パン機械設備

 昨日まで東京ビッグサイトで開催されていました国際食品工業展(FOOMA2019)ですが、基本的に会場内では写真&動画の撮影は禁止です。

 とはいえ、画像もなく、説明することも大変ですので、今回は個別に写真撮影をお願いして、了承を頂きましたメーカーの製パン機械設備を紹介することにします。

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 日本パン技術研究所の維持会員企業である戸倉商事は、社名にそぐわず装置メーカーでもあるのですが、今回はイタリアのARTEZEN社製のデバイダーとラウンダーを展示していました。

 写真撮影の許可を頂いてカメラを構えていると、陽気なARTEZEN社の社長さんが装置の中央に立ってポーズを!

 それはさておき、この装置の特徴なのですが、特に分割機の方では一般的に使用されるデバイダーオイルが不要とのことです。

 分割方式は、ポケットにパン生地を押し込む容量分割方式で、どのようにしてオイルレスを達成しているかは説明が聞けませんでした。

 やはり、そこはノウハウでしょうから、簡単には教えてはくれないでしょうけど。

 それと、分割重量の範囲に関して、最もサイズの小さいモデルでは、25~230gの生地が分割できるそうです。

 日本であれば、スナックパンから食パンの生地分割までも使えそうな装置です。

 

 そして、次の写真撮影OKだったブースが、国内で唯一の樹脂ベルト専業メーカーであるフォルボ ジークリング ジャパン社です。

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 この会社が取り扱っているのは、コンベアベルトです。

 会場ブースでは、様々なシチュエーションに合わせたコンベアのサンプルが揃っていて、手で触れて感触を確認することもできました。

 もしかして、コンベアベルトと聞いてトーンが下がっていたりしませんか?

 コンベアベルトは、製パン工場の機械設備であれば、ほぼ使用されている部品です。

 そして当然のことながら、目的に合わせて実に多様な製品がラインナップされています。

 シート生地のワークコンベアでは、少量の手粉でべた付かずに加工ができる製品や、ラウンダーのコンベアであれば、生地加工に力を加える時には抵抗があって、更に加工後にはコンベアから離れ易いといった相反する特性が求められる製品まで、といった具合です。

 耐熱性、耐久性、耐油性、等の技術はもしかしますと地味に見えるかもしれませんが、その見え難いところに最先端の技術が含まれているものです。

 

  今年の2月に幕張メッセで開催されました、モバックショウではほぼ会場の雰囲気と会社説明しかできませんでした。

www.santa-baking.work

 今回のように、各ブースで写真撮影の交渉をしておけばよかったと後悔しきりです。

 

FOOMA2019 ~ ①食パンの成形設備で新発見

食の技術の総合トレードショー

 東京ビッグサイトで毎年開催されています国際食品工業展ですが、来年の東京オリンピックの影響もあって従来の会場が使用できず、今年は西展示棟と新たに建設されました南展示等で行われました。

 それでもトータルの会場床面積は減ったそうで、確かに各ブースもやや狭くなったような感じが…。

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 それでも、会場の雰囲気は例年と変わらず、ブースが狭くなったとはいえ、しっかりと連続生産ライン(↓マスダックマシナリーのどら焼き製造ライン)を出展・実演しているメーカーもありました。

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  ところで、今回の展示会で興味深かった機械設備を紹介しようと思っているのですが、往々にして最新の情報はパンフレットがなかったり、お願いしても写真の撮影は丁重に断られたりと、思った通りの解説がし辛いケースが多々あります。

 ここで紹介したい設備は、まだ未発表の装置ですので、写真を添えての解説は叶わないのですが、それでもなんとか表現できればと思っています。

 唐突ですが、リテイルベーカリーの商品で餡を織り込んだ食パンを見かけることがあると思います。

 生地に餡を挟んでロール成形をして型詰め成形する…、とても機械設備によります連続生産は見込めないと思われそうなのですが、その試作機でした。

 流れとしましては、【ベンチタイム後の圧延(通常のモルダー)】⇒【延ばされた生地に餡をトッピング(通常のデポジッター)】⇒【餃子の成形のように包む(今回の開発設備)】⇒【縦長の方向でロール成形(通常のモルダー)】といった内容です。

 なんでも10月の展示会以降は、公表するそうですので、もしかしますとこの時期にテストも可能かもしれません。

 この食パンと成形方法が近い製品に、これまでも数多く紹介してきました、リテイルベーカリーの食パン:俵成形の角形食パンがあります。
www.santa-baking.work

 この製品もモルダーを2回通せば、成形が可能だと知りました。

 ホールセールでの装置設備が、必ずしもリテイルベーカリーでの使い方を網羅していないことを知るいい機会となりました。

 実は、展示会の前日がパン学校第214期(日本パン技術研究所)の授業日となっていて、たまたまリテイルベーカリーの講習会も開催されている日程だったのです。

 有名ベーカリーのシェフが実技を指導していたのですが、そこで目にしたのは、通常のロール成形後に、その円筒形のパン生地を再度モルダーに通す方法でした。

 多くの機械設備を見てきたと自負してきた私には、まったく目からうろこの光景です。

 こんな使い方もあるのだと…。

 ひとつ勉強になったところで、装置化のネタもひとつ増えた、とほくそ笑んでいた一日でした。

次回のFOOMA

 来年の2020年は会場をインテックス大阪に移して、6月23日(火)~26日(金)の4日間で開催される予定です(やはり東京オリンピックの影響のようです)。

 半年前の12月23日になりましたら、早々にホテルの予約をしないと…。

 この展示会の時には、間近ではなかなかホテルを押さえることが大変ですから。