課題
冷凍生地の障害について述べる時、評価方法として『一定の保存温度&保存期間の後、凍結前の生地と比較してガス発生量が**%でした』といった表現を未だに耳にします。
ところで、この表現で酵母の評価ができるでしょうか。
温度が変動して、更に保存期間が異なった時に十分に活用できるのでしょうか。
最近でこそ減りましたが、以前はいざ使おうといった時に全然発酵してこないといったトラブルが頻発していました。
酵母の緩やかな発酵力の低下だけであれば、このようなことが起こるでしょうか。
下のグラフを見て下さい。
これは、一般的なパン酵母(冷凍耐性酵母ではありません)で生地を仕込み、-10℃で
凍結後、異なる温度で保存して解凍後のガス発生量を調べたものです。
ちなみに、未凍結のパン生地では-10℃で1時間保存のガス発生量とほぼ同等です。
グラフに戻りますと、1時間保存でも、6日間保存でも、ある保存温度を境にガス発生量が顕著に低下していることが分かります。
酵母は、冷蔵状態でも日を追ってガス発生量が低下します。
決して、冷凍生地に特有の現象ではないんです。
私が言いたいのは、発酵の時のガス発生量の低下率を見るだけではなく、障害を起こす温度を特定してくれた方が格段にその酵母の取扱いは容易になるということです。
酵母が障害を起こして失活する条件(温度、凍結速度、等)が分かれば、いかに冷凍障害を抑えて冷凍生地を使えるか、といった対応策にもつながってきます。
また別の展開としましても、どのような機能が有効か、装置の改良や開発につなげていくこともできるでしょう。
今回のグラフは、一般的なパン酵母を使ったテストの結果ですが、近年では冷凍耐性を持った、冷凍生地製パン法に適した酵母も多く開発されています。
私の知る中では、冷凍耐性を持った酵母の失活温度は-30℃を下回る菌種もあり、ずいぶん使い易くなってきていることを実感しています。
ただし、これでも汎用性の単段式冷凍機の溶媒の蒸発温度は-40℃程度ですから、真冬の寒い日などに冷凍する場合には冷え過ぎて解凍後のパン生地が十分に発酵しないといった状況が起こらないとは限りません。
『設定温度を-30℃にすれば、いいのでは?』と思われる方もいるかもしれませんが、一般的な冷凍庫では冷気の噴出し口と温度センサーの場所はある程度の距離があります。
頻繁な入切を防ぐためです。
つまり、冷凍庫内を制御するポイントは指定の温度にコントロールされていても、庫内のすべての場所において、その温度が保証されている訳ではないのです。