黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

焼成(食パン 型温度の視点から)

 それでは、連続式の(時間の経過と共に焼成温度を変えられる)オーブンを使用することで、どのような焼成方法が可能になってくるか(求められているか)を考えてみます。

 まずは、食パンの焼成について。

理想とする食型温度の推移

 焼成初期では生地温度の上昇に伴います炭酸ガスの溶出やアルコールの蒸発によって、生地体積が急激に膨張するいわゆる『オーブンキック』が生じることで、内相に縦目のすだちを形成します。

f:id:santa-baking:20181224165629j:plain

 この際、食型の側面と上面は、オーブンキックを促進する温度を保ちつつ、体積膨張を阻害させないように生地の糊化温度を大きく超えない温度に保持されていることができれば、結果として十分な縦目の内相が期待できます。

 外形が形成されれば、その形状を維持するためにそれまで加熱が緩やかであった、食型側面と上面を強く加熱して、水分を蒸発させてクラストを形成しつつ、生地の表面温度を規定の焼色に合わせるべく、できるだけ一定の温度を維持させます。

 一定の温度で維持することが求められる理由は、焼色の着色反応の速度が型温度に対して指数関数的に上昇するためです。

 つまり、焼成の過程において食型温度の変動が大きい場合、パンの焼色は一時的な温度の上昇によって著しく着色することに因ります。

 稀に食パンの底の一部分が焦げたように黒くなっている製品を見ることがありますが、これは点火バーナーの火力調整が不十分で局所的に極端な高温になっているケースに見られる症状です。

 焼成も終盤に掛かると、加熱は食型温度を保温するだけの熱量があればいいのですが、窯出しのタイミングまでに既に生地体積は収縮を始めていますので、ここでの温度変動は極力避けたいところです。

 こうして考えてみますと、焼成初期には生地温度を上昇させるための熱量が必要になる一方、焼成初期には温度を保持する程度の熱量で十分であることが推測されます。

実際に見られる食型温度の推移

 では、実際のオーブンで食パンを焼成する際の食型温度の推移は、どのようになっているのでしょうか。 

f:id:santa-baking:20181224165657j:plain

 一般的に熱源は、食型の上方もしくは下方にありますので、相対的に側面の加熱は強くありません。

 その意味では、比較的理想に近い条件が再現できると推測されます。

 しかし、外観形状がほぼ確定して以降も、(少なくとも)底面以上に側面を強く加熱することは特殊な改造をしない限り、困難です。

 そのような訳で、側面を上面・底面と同等の焼色にすることは叶わないのですが、焼成後期に入って(炉内温度を下げて)、もし食型の上面・底面の温度が一定になるように調整できれば、相対的に炉内温度との温度差が側面で大きくなるので、水分蒸発によるクラストの形成には有効に作用します。

結論

 食型のどの面を強く加熱するかといった課題もありますが、少なくとも強熱するタイミングは焼成初期にあり、焼成後期では強熱する必要性はあまり考えられません。

 従いまして、(現時点では詳細は割愛しますが)時間の経過と共に温度変化を付けて焼成することは、連続式オーブンに求められている機能のひとつと考えてよさそうです。