クーリングコンベアとブレッドクーラー
焼き上がったパンは、焼成後加工、包装を行うために冷却しなければなりません。
リテイルベーカリーであれば、オーブン周辺のフリーの空間にラックを並べてパンを冷却することが一般的ですが、連続生産ラインを持つ工場ではどのような設備で対応してクーリングしているのでしょうか。
このパンを冷却する設備に関しては、歴史的な時代背景が装置の設計に大きく関与しているところを多分に感じます。
私が大学を卒業して就職しました35年前は、いずれの工場でも後工程でスライス等が必要な食パンのような製品には強制冷却装置を備えたブレッドクーラーが設置されていた生産ラインもあったと思いますものの、焼き上がってからほとんど手を加えずに包装するような製品が主要のラインではクーリングコンベアが主流だったと思います。
基本的にコンベアは搬送装置であり、焼き上がったパンをオーブン出口から包装室まで運びます。
この運んでいる時間内に既定の温度までパンの温度が下がるようにレイアウトを設計したものがクーリングコンベアです。
であれば、広い工場内をどのような経路でパンを包装室まで搬送しようとするでしょうか。
工場スペースの有効活用を考えれば、それは必然的に天井付近のフリーなデッドスペースを活用することを思いつきます。
これは日本国内に留まらず、海外の工場でも同様の傾向が見られます。
ですから、以前のパン工場では焼き上がったパンがオーブン近くを周回している状況ですので、工場内は非常に温度が高く、作業環境としては厳しいものとなっていました。
ところが、近年では前述のブレッドクーラーがいずれの製品に対しても導入されるようになりました。
なぜでしょうか。
それは、パンの期限表示が賞味期限から消費期限に変わって、消費者の日持ちに関する意識と要望が高まり見せてきたことがひとつの要因として考えられます。
焼き上がったパンは、それ以降の工程でカビ等で汚染されますとその対応を図るのは至って困難な状況になります。
その為、焼成から後の工程は衛生環境に格段の注意を払い、パンを冷却する空気が汚染されないように生産ラインのレイアウトを組んでいる企業も増えてきていると思います。
余談ですが、ブレッドクーラーが設置されるようになって、製パン工場内の作業環境も随分良くなってきていることは想像に難くありません。
エピソード
とある講演会で聞いたエピソードですが、ある男性が講演者に『**製パンのパンはなにか悪いものでも入れているに違いないから、日にちが経ってもカビが生えてこないんだ。それと比べて家で焼いたパンには何も悪いものは入れていないので、数日でカビが生えてくる。』と言ってきた際に、『それは悪いものが入っているとかではなく、あなたの家にたくさんのカビ菌が浮遊しているからなんですよ』と、その講演者の方は答えられたそうです。
その男性は随分と憤慨されていたそうですが、将来、商品のレベルアップを期待するのであれば、正しい評価の上で、消費者の方に目を向けた製パンメーカーの企業努力も認めてあげないと、本来進んでいくべき技術開発にブレーキが掛かってしまいます。
この技術の進歩は、いずれ私たちに恩恵をもたらしてくれるのですから。