黒猫サンタさんのパン作りブログ

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成形 ~ 思い込みは怖い? シート生地の圧延と流体力学?

シート生地の圧延(ストレッチャー)

 先日の記事の中で、パン生地を圧延する際、以前の機械設備では厚さ方向に均等に伸ばされないことに触れました。

パン学校 2日目 第213期 ~ そしてPain連載も一区切り - 黒猫サンタさんのパン作りブログ

 今日は、その内容について解説していきます。

 前回の記事では、パン生地は流体なので動きの速い部分と遅い部分とでは、流動性(粘性)が変わってくることを記載しました。

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 しかし ながら、パン生地は非ニュートン流体で、流速が遅ければ(ゴムのような)弾性体に物性が近付いていく性質を持っています。

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 上図で点線で示されるように、ゴムの変形は厚さ方向に等しく変化していきますので、伸ばして厚さが薄くなっても伸びの変化率が場所によって変わることはありません。

 しかし、水のような流体は粘性によって力が伝わりますので、実線のような状態に移動する訳です。

 そして、パン生地はその中間の粘弾性体ですので、その中間の物性を示す訳ですが、加工方法によって、いかに動的物性を弾性体に近付けられるかが、均一な層のデニッシュペーストリーやパイを造る課題となってくるのです。

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 シート生地を延展する装置をストレッチャーと言いますが、以前のストレッチャーはコンベア上に流れる生地をローラーで伸ばす操作を行っていました。

 特に深く考えずに作業を行っていますと、生地の伸ばされ方について疑問に思ことはないのでしょうが、製造現場の作業者は経験から連続生産ラインのシート生地は品質が劣っていることを感じていました。

 リテイルベーカリーで一般的に使用されているリバースシーターを使った方が、きれいな内相のクロワッサンやデニッシュを作ることができていたからです。

 それでは、歪に延展されたシート生地の断面をコンベアの進行方向から見た状況を推測してみます。

 

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 折り込み油脂をサンドして、それを何層かに折って生地を造っていく過程では、きれいな内相を造るために均等な間隔でパン生地と油脂が層をなしていなければなりません。

 ゴムのような弾性体であれば、等間隔で平たく理想的に伸ばされていくのですが、パン生地は粘弾性体ですので、動きの速いローラー側の生地がより伸ばされることになります。

 すると、上側の生地が横幅方向へ移動して、結果的には上図の3段目のような断面のシート生地ができあがってしまう訳です。

 少し視点を替えますと、コンベア上の摩擦が小さければシート生地の底面もそれなりに動きますので、コンベアにはシート生地との低摩擦性が求められていることは当然です。

 それでは、このような状況から、現在へはどのように延展装置(ストレッチャー)は進歩してきたのでしょう。

 それは、また改めて解説することにします。