黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

パン作りの油と脂 ~ オリーブクロワッサン・フジパン

 パンの原材料として、油脂は製パン性や製品品質に対して、非常に重要な役割を担っています。

 

 今回は、パンの原材料の中でも、油脂に着目してお話をさせて頂ければ、と思っています。

 

【 目次 】

 

オリーブクロワッサン

 前書きのように、油脂に関します生地を書きたいと思いながら、スーパーマーケットのパン売り場をうろうろしていましたところ、ちょうどよさげな商品が目に入りました。(この行動ですが、家族からは不審者に思われるから、と再三に渡って忠告を受けています。)

 

 いや、もちろん、おいしそうだからという理由もあってのことですので、その点は誤解のなきよう。

 

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 フジパンが製造しています、オリーブクロワッサンです。(包装紙に採用している色の数や写真まで使っているところから、ずいぶんコストを掛けている感があります。)

 

原材料表示

 裏面の原材料表示を見てみますと、小麦粉、マーガリン、オリーブオイル、砂糖、発酵種、パン酵母、食塩、卵、等々と、なっています。

 

 オリーブオイルは成形時のパン生地に挟んでも流れてしまいますので、折込み用には使用できません。

 

 したがって容易に、折込み用にはマーガリン、練り込みに一部マーガリンとオリーブオイルを使用していることが推測できます。

 

外観

 内包数は4個、長さを抑えた形状になっています。

 

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 この商品は、おそらく連続生産ラインで製造していると思われますので、どうしても継ぎ目の部分が表に出ますと、(必ずしもそうなるという訳ではありませんが)中央左の製品のように表皮が剥がれ易くなってしまいます。

 

 リテイルベーカリーでリバースシーターを使用しているところであれば、常に継ぎ目はシート生地の端になりますから、このような状況は起こらないのですが、この点は連続した1枚のシート生地から成形します連続生産ラインの辛いところです。

 

内相

 内1個を縦にカットしてみました。

 

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 少し大きめの空洞が・・・。

 

食味・食感

 表面のカリッと感と内側のもっちり感は、十分に伝わってきます。

 

 ほんのりとオリーブオイルの風味も感じられて、これはこれでありだといった感想です。

 

 ただ、私は朝食でトーストしてからマーガリンを付けて食べてしまったのですが、よくよく考えてみますと、この商品は他の食材を挟んでクロワッサンサンドで食べた方が、挟んだ素材を生かすパンになっていたのでは、と後悔しています。

 

ネオバターロール

 ところで、食事パン系の商品で油脂というキーワードから最初に連想される商品は、やはりネオバターロールではないでしょうか。

 

www.santa-baking.work

 

 バターロールは、油脂(バター)が対粉で15%程度配合されるパンです。

 

 ただし、ネオバターロールの場合、同じ油脂であるマーガリンがフィリングとしてパンの中心に充填されていて、今回の主旨(パン作り=生地作り)とは異なります為、紛らわしいので、あえて外しました。

 

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 ただ、せっかくですので、とりあえず電子レンジ加熱でマーガリンが解ける状態だけでもご覧下さい。

 

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サンタの豆知識

油と脂の違い

 油脂とは、常温で液体である油と同じく固体である脂を総称した呼名です。

 

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 パン作りには、どのような油脂が用いられて、そしてどのような作用があるのでしょうか。

 

 パン作り、特に生地作りには一般的に常温で固体の『脂』の方が使用されます。

 

 油脂の使用は製パン時のべたつきを抑え、製パン性を上げることもそうですが、最大の理由はできあがったパンのソフトな食感を保持する役目が大きいと考えています。

 

 パン生地の本捏ミキシングでは、油脂以外の原材料を混合した後、油脂をミキサーボウルへ投入して再度混合します。

 

 この操作には、粉に水分が十分に吸着したうえで、油脂のコーティングを施す意味があります。

 

 そして、重要なのはパンを焼成して冷却した後、コーティングした油脂が凝固して生地から水分の蒸発を抑える役割を持つためです。

 

 つまり、常温で流動性のある油では十分に水分の蒸発を抑えることができないことから、性質上、常温で固体の脂の方が用いられる訳です。

 

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 パンに使用される油脂には、

・バター : 15℃前後で可塑性のある状態となり、室温(20℃程度)で固体脂指数が15%に近づき、十分に軟らかい状態となる。そして、30℃前後では融解が始まり(融点は28~35℃と言われています)、35℃を超えると固体脂指数は0%、つまり完全に液体となります。

・マーガリン : 詳細なデータがなかなか見つからないのですが、融点等は全体的にバターと比較して5℃程度低いようです。

ショートニング : 融点は40℃以上

という物理的な特性をそれそれ持っています。

 

 ある文献に因りますと、パン生地の油脂の働きのひとつにパンのボリュームをアップさせる働きが挙げられています。

 

 油脂の効果で発酵時の状態に差ができ、更には製パン性に大きな違いがでてくるという訳です。

 

 しかし、この油脂も固形脂であることが前提で、液状の油脂ではこの働きはしません。

 

ちょっとした疑問

 ペーストリー等の折込み油脂には、その風味からバターが多用されています。

 

 バターの融点は、28~35℃と記しましたが、実は、28℃では7%くらいしか固形脂がなくなっていることに比べ、ショートニングは40℃でも固形脂が残っているそうです。

 

 さて、無味無臭のショートニングですが、ペーストリーへの使用に意味はないのでしょうか。

 

 将来のテーマのひとつに考えてみようと思っています。