私は選択定年退職するまでの30年間大手製パン企業で製品開発業務(と言っても機械屋さん目線です)に携わってきましたが、そこではパンの作り方だけではなく、パンの食べ方についてもいろいろと調査・検討してきました。
最近は食パンをそのまま生で食べるシーンも増えている感が出てきましたが、やっぱりオーソドックスなのはトーストしてカリカリ(外)、もっちり(内)の食感を楽しむところにあるのでは、と思っています。
今回は、その為の家電機器・トースターについて、熱源であるヒーターをテーマに解説していきたいと思います。
【 目次 】
トースターについて
トースターは家電製品の中では比較的お手頃感があります。
そのようなトースター市場に、ネット販売価格でもゆうに1万円越えの高額機種が登場しました。
アラジン
上部ヒーターにグラファイトヒーターを採用しました、日本エー・アイ・シー株式会社製のアラジンです。(下部ヒーターは、従来の石英管ヒーター2本を採用)
このアラジンの特徴は、わずか0.2秒で発熱する株式会社千石の特許技術「遠赤グラファイト」を世界で初めて搭載し、短時間かつ高温で焼き上げることです。(下写真はイメージです)
商品説明に因りますと、ほんの数秒でグラファイトヒーターは1200℃に達するのとこと。(この温度で使用できることも、特徴のひとつです)
一般的なニクロム線ヒーターの温度が800~900℃であることを考えますと、単位面積当たり発熱量の比は、2.49~3.55倍になります。(発熱量は、絶対温度の4乗に比例するというステファン-ボルツマンの法則に因ります)
ただ、ここで加熱調理する家電製品には、例えば800Wとか1200Wとかの定格の電力量があるけど、と思われる方もいらっしゃるかと思います。
そうなんです、たとえグラファイトヒーターでもニクロム線ヒーターでも1200Wのヒーターであれば、ヒーターから発熱されます総熱量はどちらも同じ1200Wです。(当たり前です! これが違っていたら、大問題です!)
つまり、両者の違いはどのような事かと言いますと、トースターの場合、上部ヒーターからパンへの熱移動形態は大部分が輻射熱であり、線状のニクロム線ヒーターと比較して、面状のグラファイトヒーターはより広い面積からの輻射が可能となることで、輻射熱の比率が高い、つまり効率が高いということになります。
逆の言い方をしますと、ニクロム線ヒーターの方は、発熱の一定量がパンよりも先に、まず最初は庫内の空気を暖める熱として消費されることになります。
食パントースト時の変化
食パンをトーストすると、表面温度の上昇と共に水分蒸発ときつね色の焼色の着色が生じます。(10秒間隔で100秒までトーストしたテスト資料を参照下さい)
理想としては、全体が程よく均一に着色してくれるといいのですが、シンプルな構造ゆえに焼き具合と焼きムラの問題は板挟み状態です。
例えば、同じトースターを使用して食パンをトーストしても、厚切り食パンのようにパンの上面が上部ヒーターに近付きますと焼きムラが生じることもあります。
かといって、ヒーターの位置を高く設計して火力を抑え過ぎますと、トーストに時間が掛かって必要以上の水分が蒸発してしまいます。
結果、トースト内部のふんわり感が損なわれてしまいます。
もし、私がトースターを選ぶとしましたら、とりあえず①上下共にヒーターは2本以上あるもの、②ヒーター配置の間隔が食パンの長さの1/2程度に離れているもの、を選ぶと思います。
食パンをトーストするメカニズム
ここに食パンを一般的なトースターでトーストした時の温度と焼色を測定したデータがあります。
左の第1縦軸は、食パンの上部表面の温度です。
右の第2縦軸は、食パン表面の焼色(明度)で、100:白、0:黒、を表しています。
トースト開始後、50秒を過ぎたあたりから焼色が付き始めます(明度が下がり始めます)が、その時の食パン表面温度は130℃程度にまで上昇しています。
この程度の温度にまで上昇しないと、短時間での着色は明確に分からないことが示されています。
そして、別のテストデータとなりますが、一見して安定した温度上昇のように見えます食パンの表面温度ながら、その傾き(温度上昇率)を計算して、同じグラフにプロットしますと上のようになります。
実は、トースト開始後の10~30秒あたりの時間帯で大きくトレンドから外れて、温度上昇率が鈍くなっているところが見られるのです。(その時の食パン表面温度は、70~90℃程度です。詳細の解説は次号にて予定しています。)
あとがき
次回は、トースターの水分蒸発編?蒸気編?を考えていますが、今回の記事と併せて、どのような機能がトースターに求められているのかを考えてみたいと思っています。
トーストしてパンをおいしく食べるために!