黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

国産小麦のパン・ゆめちから ~ 超熟 国産小麦 パスコ(敷島製パン)

 以前の記事で、国産の強力小麦:ハルユタカと春よ恋について解説しましたが、その春よ恋からの流れで今回のゆめちからに関しましても私個人としては非常に思い入れの強い小麦です。

 

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 手前味噌で本当に恐縮ですが、春よ恋が品種登録されてから農林水産省の国家プロジェクト(21世紀プロジェクト、後に農林水産省の委託プロジェクト:ブランドニッポンに引き継がれます)がスタートし、そのプロジェクトメンバーの一人として春よ恋の国内利用について業務に携わっていました(私は機械屋さんなのに・・・大規模生産での小麦消費も視野に入れていたようです)。

 

 その国家プロジェクトが終了した後のある日、委託元の担当者だった方から『登録前の凄い小麦ができたのですが、もうプロジェクトには載せられないし、なんとか普及に手を貸してもらえないでしょうか』と、わざわざ北海道から名古屋まで足を運んでくれたのです。

 

 それが品種登録前の北海261号、今のゆめちから、タンパク質含量が従来の強力以上に含まれます超強力の小麦だったのです。(詳細はこちらの書籍に記載されていますが、この本を買って頂いても私には特に利益はありませんので、へぇ~程度に思ってもらえれば結構です)

 

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 そのようなゆめちからに関しまして、今回はやはり中心となって推進されてきましたパスコ(敷島製パン)の商品:超熟 国産小麦をメインに解説していきたいと思います。

 

【 目次 】

 

 ゆめちからを使用している商品はたくさん出ているのですが、今回購入しましたのは、この3品です。

 

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超熟 国産小麦

 超熟シリーズの山形食パンとして、国産小麦100%の商品をラインナップに揃えてきました。

 

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 個人的には角形食パンで商品化してほしかった気もありますが、山崎製パンの(超芳醇新食感宣言)のラインに対抗する意味もあって、パスコは山形食パンを選んだのかと、勝手に推測しています。

 

 

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 外観はイギリス食パン称される山形食パンの形状に倣(なら)っています。

 

 使用されています国産小麦中、ゆめちからは52%配合されています。

 

 基本的にゆめちから単独ですと、食感としておいしくないと言われていますので、適度なタンパク含量になるよう中力粉とブレンドするのが一般的です。

 

 タンパク含量の計算値と試作の結果、求められた配合比なのでしょう。

 

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 当然、超熟の名を冠していますので湯種製法を採用し、油脂にはバターを使用しています。

 

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 内相は、一言で言いますと綺麗そのものですね。

 

 全体の色は白く、縦目のすだちも出ており、それでいて詰みやカギ穴、気泡の大きなばらつきも見られません。

 

 食べた時の食感は軽くてもちもち、シンプルに小麦とバターの風味を楽しむことができます。

 

チーズクリームパン

 『国産小麦の・・・』は、シリーズ化されているようです。

 

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 こちらの商品には使用されています国産小麦中、ゆめちからは65%配合されています。(製品毎、微妙に違ってくるのですね~)

 

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 白焼きのクリームパンで外観の色もそうなのですが、形状としましても腰があって高さが出ていますので、見た目にもふんわりとしたソフトさをアピールしてきます。

 

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 生地底面には若干の焼色が付いていますが、製造条件としてはけっこうなポイントになっています。(プレス天板も使用していますね)

 

 白焼きのパンは、クラストの強度が低く、高さの出た形状を保持できないケースもある事から、主に下火で十分な火通りを確保します。

 

 リテイルベーカリーであれば、デッキ式オーブンの上火の設定を下げる程度で対応可能ですが、連続生産ラインのトンネル式オーブンとなりますと炉床が一般的にスチールプレート(デッキ式オーブンの炉床よりも熱容量が小)ということもあって、各ゾーンの温度設定にも工夫が必要です。

 

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 内部は下の層に包餡されましたチーズクリーム、上の層には焼成・冷却後に後充填で空間に詰められましたホイップミルククリームが見られます。

 

 生地がふわふわで、ホイップクリームも軽い食感ですから、それなりのスイーツ感は十分に出ているのでは、と思います。

 

ワッフル

 北海道牛乳を使用しました、ベルギーワッフルです。

 

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 こちらの商品も国産小麦は100%使用で、使用されています国産小麦中、ゆめちからは60%配合されています。

 

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 ベルギーワッフルについては、別の機会に改めまして詳細をご紹介しようと思っています。

 

 今回は、商品のご紹介だけでご容赦下さい。

 

サンタの豆知識

国産小麦の歴史

 パン用の強力粉の小麦を栽培して、日本の食料自給率を向上させようといった試みは、育種に携わられています多くの研究者の努力の結晶です。

 

 雨に弱い小麦は必然的に梅雨や秋の長雨という特徴的な気候の日本において、とても栽培が難しい穀物です。

 

 そのため、雨期のない北海道以外の本州以南では、従来天候の影響を受け難い晩秋から初夏にかけて作付けを行う秋播きの方法で小麦の生産を行ってきました。

 

 この時期は、夏物野菜等の裏作として二毛作が行えることもあることからも、一般的に小麦は秋播きとされてきた経緯があります。

 

 北海道におけます秋播き小麦の作付け面積の推移をグラフにまとめてみました。

 

 キタノカオリ、ゆめちから以外は、中力の小麦です。

 

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 秋播き小麦は、ゆめちからが2009年に品種登録されるまで(キタノカオリはわずかに栽培されていましたが)、ほぼ中力の小麦が占めていたことが分かります。

 

 あれっ、強力の国産小麦は他にもあったのでは? と、思われたかもしれませんが・・・。

 

 そう、最初に育種の成功を収めた国産の強力小麦の品種は秋播き小麦ではなく、春播き小麦:ハルユタカ(1987年に品種登録)でした(ハルユタカより以前に品種登録されたハルヒカリという幻の強力小麦があったそうです。今では、栽培されていないようです)。

 

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 ゆめちからが登場するまでの20年以上もの間、強力の国産小麦を牽引してきましたハルユタカと春よ恋は、今現在も健在です。(ハルユタカは、希少となってしまいましたが)

 

妄想

 ところで、日本に膨大な面積のある稲の裏作で小麦ができればいいのに、と思われた方はいらっしゃいませんか。

 

 それが、どうも稲の土壌の質が麦に合わないそうなんです。

 

 水はけの悪い粘土質の水田の土は水を抜いても麦には合わない、と。

 

 性格の曲がった私などは『本当に? 水はけをコントロールできれば・・・』って、勝手な妄想をしてしまうのですが、こんな時こそ農業の分野へエンジニアの出番なのかもしれませんね。