日経POSデータを見る機会も最近ではほとんどなくなってしまっていますが、それでも過去のデータでは食卓ロールのカテゴリーで1位となっていましたのが、パスコの超熟ロールだったと記憶しています。
山崎製パンのロイヤルバターロール、フジパンのネオバターロール等々を抑えての、堂々第1位です。
今回は湯種製法を用い超熟シリーズの第2弾として市場に投入されました、このロールパンについてリポートします。
また、製パン工場の連続生産ラインにおけます、ロールパンの成形装置に関して解説を加えます。
【 目次 】
ロール成形装置:モルダーの遍歴
以前の記事を振り返りますと、なんとも拙(つたな)い構成で、いずれリライトしないと恥ずかしい限りの内容です(そのような意味では、多少は記事の執筆にも慣れてきたのかもしれません)。
下記の画像は食パン用のモルダーですが、ガス抜きしました生地をロールする部分:展圧板に張られているベルトは固定されていますので、通常の使い方ですと生地重量の違いに関わらず、すべての生地が同じ距離を巻かれることになります。
つまり、仮に重量の少ない生地を流す場合、ロール生地の径が小さい故に巻き過ぎとなり、生地にダメージが加わってしまいます。
その為、特に菓子パンのラインのようにいろいろな重量の生地が同じラインを通る場合、かつては下図のように展圧板の入口側を持ち上げて、展圧ベルトの途中から生地が巻かれるように(過度のダメージが加わらない様に)製造現場での対応がなされていました。
ところが、最近になってモルダーの上部展圧ベルトが可動式の機種が開発・登場したことによって、流す生地にとっての最適な巻き数がプログラミングできるようになってきています。
(出典:㈱オシキリ)
この機種では、展圧ベルトが生地の進行方向に対して正転・逆転が可能で、その運行速度も調整可能です。
計算過程は、以前の記事と重複しますので割愛しますが、全工程での巻き数:N は、
⇒ 訂正です。shufuinvestさん、ご指摘ありがとうございました。仰る通りです。
と式化できますので、結果的に分割重量(サイズ)の異なるパン生地を流しても、予め求めた条件に従って最適な巻き数でロール成形することができるようになりました。
超熟ロール
これまでに食パンを始め、イングリッシュマフィンやフォカッチャ、かつてはスティックパンに及ぶまで超熟の冠を配したシリーズ製品がラインナップに並びましたが、シリーズ化するためのもっとも重要なシリーズ第2弾の商品こそが超熟ロールでした。
大ヒットした食パンの後継として超熟の名を掲げる以上、メーカーとしては失敗は許されません。(などと私が口走るのも、おこがましいのですが)
しかしそのような緊迫した状況の中、超熟ロールは湯種製法由来のもっちり・しっとりしたソフトな食感が高い評価を受け、食パンカテゴリーに続いてロールパンのカテゴリーでも首位を奪取しました。
外観形状
最近でこそ見慣れた形状ですが、発売当時は食事パンのロールパンと言えばバターロールが主流で、ドッグロールの形状は家庭向け商品としてはマイナーなアイテム群だったと記憶しています。
生地重量は36.2gですので、焼減率を16%(ベーキングロス:14%+クーリングロス:2%)と仮定しますと、分割生地重量は、43.1g(=36.2g/(1-0.14-0.02))程度と推測されます。
生地の側面にはきれいなホワイトラインが出ており、しっとりしたパンに仕上がっていることを連想させます。
腰(生地の高さ)も十分に出ており、焼色は標準的な濃さに焼き上げています。
生地の底面にはくっきりとした段差が確認できます。
プレスタイプの天板を使用して、生地高さを出しているのでしょう。
内相
生地の膜が薄く、よく伸びていて、ソフトな食感を連想させます。
底詰みも鍵穴もなく、きれいな内相です。
そして、生地上面が標準的な焼色ながらクラストの厚さが厚くないということは、オーブンでの焼成工程において短時間での着色がなされていることが推測されます。
機会があれば、短時間での焼色の着色を行うための条件についても解説できればと思います。
風味・食味
程よい甘みのバランスが好ましいです。
このパンは、切れ目を入れて食材を挟み、食べられるケースが多いのではないでしょうか。
私は、マーガリン+ジャムといった組み合わせが好みですが、ソーセージ等を挟んでソフト食感のサンドウィッチも外せません。
イレギュラーな課題
パンの製造ラインでは厳密に製造条件を設定して、チェックを行っていたとしても、どうしても規格外の品質の製品が出てしまうことが極稀にあります。
すみません、これは決してクレームという意味ではなく、課題と要因の提起として捉えて頂きたく思います。(異物の混入は問題ですが、このパンは実際に食べてみても、品質にまったく問題はなく、おいしく頂けましたので)
今回購入した商品の中に、たまたまひとつのロールパンの成形時の結着が不十分で、その境界が上面に出てきてしまっていたものが入っていました。
手作業の場合、ロール成形したパン生地は作業者が中央の結着面を下に向けて天板に並べるのが基本です。(当然、結着が不十分であれば、都度、手粉やモルダーの設定を調整します)
こうすることに因って、境界以外のきれいに延ばされた面を表面に出すことができるためです。
ところが、大量に連続生産される製造ラインではランダムに流れてくる生地のすべてを向きを揃えて並べることは至難の業です。
では、どう対処するかですが、そのためには結着面が見分けられない程、きれいに成形を仕上げることが求められます。
注意するポイントとしてはベンチタイム(中間発酵)での湿度、ガス抜きの際の手粉、そして、ロール成形での力の加え方といったところでしょうか。
今のような冬の空気が乾燥した季節では、成形時の生地表面が乾燥しない様に万全の注意を払う必要があります。(この業界では、分割~成形の生地に対して『湿らさず、乾かさず』といった難題が課せられています)
多くの成形機:モルダーにはロール成形時に生地長さがそれ以上伸びないようにする目的で両サイドに生地ガイドが設けられていると思います。
私的にはイレギュラーに伸びた生地の長さを抑える保険的な目的で生地ガイドは使用されると認識していますが、海外では過剰の負荷が掛かってもすべてのパン生地の両サイドを押さえて成形時の形状を揃えるベーカリーもあるようです。
形が揃っても、ダメージを受けて成形後に伸びない生地では最終的な品質に高いレベルは求められないと思うのですが・・・。
PS.PCでお読み頂いている皆さまへ 背景の画像を変えてみました。少々くどかったかもしれません。