リテイルベーカリーに端を発した高級食パン・生食パンといった食パンブームは、大手のホールセールベーカリーでも当然注目されています。
今回は、イトーヨーカドーでの限定販売ながら、タカキベーカリーで製造されていますシルクブレッド(278円 税込)を紹介します。
加えて、食型の形状やサイズに関しましても、解説を加えていこうと思っています。
【 目次 】
食型について
購入しました商品の品質等に関しては、後ほど記載するとしまして、ここでは使用されたであろう食型のサイズから、その用途と目的に関して考察してみます。
シルクブレッドの外形サイズは、
長さ:195mm、巾:85mm=(86mm+84mm)/2、高さ:77mm
でしたので、各辺2mmの収縮を想定して、下図の形状の食型を想定します。
そして、私が計測試験で使用しています3斤サイズの食型を以下に示します。
もちろん、製品重量の安全係数をどれだけ見込むかで型のサイズは変わってくるのですが、そのことは踏まえた上で、ここで興味深い計算結果が見られました。
私が使用しています食型の寸法から、上記の想定されました食型での重量相当分を計算してみますと、
(197mm×87mm×79mm)/(372mm×120mm×130mm/3) = 0.700 斤
と、0.8斤どころか、0.7斤相当分の体積しかありません。(1斤は、340g以上)
この食型で0.8斤の重量の食パンを焼くということは、通常の製品よりも約14.3%(= (0.8/0.7-1)×100)も多い重量の生地を型入れすることを表しています。
それでなくても、食型の巾と奥行きの寸法を小さくすることで、ケービング(凹みの事です)を抑えることができます。
つまり、よほどケービングが起こり易い生地物性の製品を、それでもできるだけ外観形状を崩さない様に作ろうといった、開発担当者の意図が見えてきます。(生地密度を高くして、発酵による膨張を抑えることで)
なお、タカキベーカリーから発売されています同様のサイズの他商品では、重量の表記が『7/10斤』となっていましたことを付け加えておきます。
シルクブレッド
改めまして、生食パン:シルクブレッドについて記載していきます。
重量
生地重量は 322.0gで、斤表記は8/10斤ですので、322g>272g(=340g×0.8) と表示法上はクリアされています。
次に焼減率(焼成及びクーリング工程での水分蒸発率)を11%と仮定して、型生地比容積を計算しますと、
19.7cm×8.7cm×7.9cm/(322g/(1-0.11))=3.74(cm3/g)
と、やや低いものの一般的な比容積(3.8~4.0)の値に近い数値となっています。
原材料
原材料表記では、小麦粉(小麦:カナダ産)、生クリーム、砂糖、バター、はちみつ、還元水あめ、パン酵母、食塩、食酢、酒精、ビタミンC、ホップ、となっています。
乳製品は生クリームで全てを補い、糖類は砂糖、はちみつ、還元水あめを併せて使用しています。
外観
全体的な焼色はやや薄めで、きれいなホワイトラインが形成されています。
上面と側面にはケービング(凹み)が見られ、クラストの弱さが推されます。
これだけの食型と比容積の対策を立てても、十分なケービング対策には至らない程、取り扱いが難しい生地なのですね。
そして、側面と底面の双方を見てみますと、生地はN字成形で2玉使用して、型詰めされています。
一般的に食パンの成形には、ロール成形からM字、N字、U字、等といった成形方法があり、M字は装置化ができていますものの、N字とU字成形は対応できる装置は未だ開発されていないと思いますので、このシルクブレッドはラインで手作業により、型詰めされていると思われます。
食感・風味・食味
生食パンですので、トーストせずにそのまま食べてみましたところ、食感は非常にソフトで生食パンと称して納得できる柔らかさでした。
また、ミルクの風味、やや甘い食味がはっきりと伝わってきて、リテイルベーカリーで販売されている生食パンと比較しても十分上位に食い込むことができる品質と判断しました。
ただ、価格は1斤に換算して348円(=278円/0.8斤 税別)ですので、リテイルベーカリーならいざ知らず、ホールセールベーカリーの食パンとしては、けっして安い商品ではないのですが、高価な原材料を使用しているようですし、ラインとはいえ手作業がそれなりに入りそうですので、理解できない価格でもないか、と思います。
包装
包装形態は、ピローバッガーと呼ばれます方式の包装設備を採用しています。
この設備は、一般的な食パンのように出来上がった包装紙にひとつひとつ商品を押し流して入れるのではなく、ロール状に巻かれた包装紙で連続的に流れてきます食パンを囲い、つなぎ目と両端をシールして袋状に包装する方式です。
おそらく一般的なサイズの食パンラインとは別のラインで製造しているが為、設置されていた包装機の関係ではないかと推測します。
義母と娘のブルース
綾瀬はるかさん主演の日曜ドラマの関係で、以前に放送されていました『義母と娘のブルース』が再放送されていました。
このドラマでは、店長役の佐藤健さんが『耳までおいしいパン』を開発するシーンがあって、モデルとなりました、渦潮ベーカリーくずは店で人気の白い食パンらしき商品もお目見えします。
考えてみますと、当時既に薄焼きのソフトな食パンは脚光を浴びていて、そのトレンドは今でもなお継続されているのだと実感している次第です。
もう放送されてから1年以上経っているようなのですが、実は当時、セットの製パン設備が気になって、あまりドラマの内容が入ってきていませんでしたので、来週の最終話はしっかりと録画して楽しみたいと思っています。
ちなみに先述の渦潮ベーカリーくずは店では、(ドラマのセットと同様の)25年使われてきたキャメルオーブン(コトブキベーキングマシン社製)が使われているようなのですが、このオーブン、近年では乃が美を始め、高級生食パンのベーカリーで多く採用されている機種となっています。