最近はドラッグストアの出店が、身近なところでも目立つようになってきました。
これは随分以前から聞かれていたことなのですが、そのドラッグストアでパンが激安で売られている実状があって、価格破壊といった言葉も飛び交っていました。
そのような中、最近になって近所にできましたドラッグストアで販売されていました激安食パンがありましたので、今回はそのご紹介を。
はたして、そのコストパフォーマンスは?
【 目次 】
食型の底に開いている穴の効果
今回紹介します後述のドラッグストアの食パンは、穴開きの食型を使用して焼成しています。
ところで、ペンギン侍 (id:ysnyn658)さんは、ご自身で試行錯誤を重ねられ、非常に質の高いパンを焼いておられるブロ友さんです。
過日のペンギン侍さんの記事の中で、穴開きの食型を検討されているようでしたので、食型の底に開いています穴の効果について、少し解説します。
私も角形食パンを焼成してデータを取っていたりする訳なのですが、私は穴なしの食型を使用しています。
上のグラフですが、横軸は焼成時間、縦軸は型からパン生地への熱の流れ(熱流束)を示しています。
食型の各面を一定温度で制御しますと、通常は型温度が上昇するまでの間、熱流束が上昇して、その後全体の生地温度が上がってきますと、徐々に熱流束も下がってきます。
今回は、食型の底に開いています穴の効果について着目していますので、青色のラインを追ってみましょう。
私のテストでは2~3回の焼成に1回程度、このように不規則に食型底面からの熱がパン生地に流れ難くなる時間帯が生じるケースが見られます。
このような現象は、成形時、生地底面にできました凹凸からガスが抜けきらず、断熱層を作ってしまった結果に生じるものです。
つまり、食型底面に開いています穴は、この焼成初期のガス抜きを促し、安定した焼成条件を与えることに寄与します。
ただし、留意点としましては、
①穴に焼けカスが溜まって異物混入リスクができるため、食型の清掃等、メンテナンスが必須
②焼成初期に穴から離型油が出てくる懸念があり、オーブンの清掃が必要となる
③食パンの底面に、へその様な跡が残る
と、いったところでしょうか。
穴開きと穴なし、どちらの食型を使用するかは、製パン作業者の判断に委ねられています。
ゲンキー
我が家から仕事場へ車で向かう通勤路沿いにできましたドラッグストアが、福井県坂井市に本社を置くゲンキーです。
この日の主目的はマスクや仕事で使用します消耗品の購入だったのですが、最近のドラッグストアは食料品もずいぶん充実していて、ふとパンコーナーに目を向けますと目を疑うような食パンが・・・。
見た目に1斤サイズの食パン(ゲンキー専用商品のようです)が、なんと69円!
フジパンの本仕込食パンと並べられて(『トップブランドと比べてください』のPOP付)販売されていました。
販売者は、ゲンキー株式会社、製造所は、大黒天物産株式会社飛騨パン工場、となっています。
ちなみに大黒天物産というのは、岡山県倉敷市に本社を置く小売業、総合食品卸売業で、小売業としては、ディスカウントストア(ラ・ムー、ディオ、ディオマート、ザ・大黒天)、100円ショップ(バリュー100)、ディスカウントコンビニ(ら・む~マート)を展開する東京証券取引所1部上場企業だそうです。
『安物買いの銭失い』にならないかと、ふと気にはなりましたが、そこは勢いで買ってみることに。
小麦のひかり
包装
包装紙を見て、最初に感じました違和感は、消費期限の印字です。
表示法が厳格化されて以降、おおよそのホールセールベーカリーでは印字ミスの防止を目的に、消費期限表示は白ベタ印刷の上に印字するようになりました。
印字検査装置で、誤印字の検査を行うためです。
おそらく、この商品は印字検査を行っていないのでは、と推測します。
口元のライトシールは、安定性が比較的高いドット仕様の方式です。
今回も、きれいに剝がすことができました。
ところで、包装紙の上部についています2ヶ所の穴はバッガー包装でホルダーにセットする際に留めてあった箇所で、1つずつ製品が包装紙に送られる毎に、1枚ずつこの箇所が切れて剥がれていきます。
製品重量
先述に『見た目に1斤サイズ』と書かせて頂きましたのは、測定してみますと、製品サイズが11.8cm×11.8cm×12.3cm ながら、製品重量は、315.5g だったためです。
サイズは一般的な1斤サイズなのですが、重量が1斤(340g以上)に足りません。
記載するのでしたら、0.8斤かギリギリ0.9斤となるのでしょうが、この食パンには斤数表示がありません。
消費者庁及び公正取引委員会認定の官報告示で、『「包装食パンの表示に関する公正競争規約」において、「1斤」、「1斤は340g以上です。」等の包装食パンの斤表示(保証内容重量の表示)が平成24年5月31日から従来の任意表示から必要表示事項として義務表示に変更されました。』と、なっているのですが。
比容積
そこで、焼減率を11%として比容積を計算してみますと、
(12cm×12cm×12.5cm)/(315.5g/(1-0.11)) = 5.08(cm3/g)
と、一般的な値(3.8~4.0)からはずいぶん逸脱していることが分かります。
仮に比容積を一般的な4.0(cm3/g)にした場合、製品重量は405gとなり、これであれば1斤(340g以上)表示ができるようになります。
どのような意図で、このような分割重量に設定したかは定かではありませんが、売値の69円を考えますと、普通に原材料費の削減では、と思ってしまいます。
外観
焼色は標準的な明度・色彩・色調で、ホワイトラインはきれいに出ています。
成形はU字成形のようですので、手作業で型詰めされているのではないでしょうか。
底面から側面の焼色は、特に側面におきまして下から濃い焼色のグラデーションが出ていますので、上火と下火の設定がある(トンネル式オーブンのような)オーブンが使用されていると推測します。
側面のケービングは強度の高いU字成形の両端部の方で起きています。
少しでも腰折れに耐えられる面を上にして、物流時のケーシングを行っているのかもしれません。
底面には、食型の穴の跡がくっきりと付いています。
内相
ミキシング~分割・成形での生地作りが非常に良好なのでしょう、クラム全体の色は白く、縦めのスダチがきれいに出ています。
詰み、かぎ穴、スジシマもなく、膜厚も薄くて、よく伸びています。
至って良好な内相です。
風味・食味・食感
風味・食味としては、一般的な食パンのそれで、ミルクやバター、特別な糖類の香りや味は特段する訳ではありません。
ところが、食感は口当たりが軽く、しっとりしていて、歯切れ・口溶けも良好で、この点ではかなりの高評価ができると判断しました。
あとがき
今回の激安69円食パンは、通常の価格帯の商品と並べても、その品質は十分に魅力的な製品力のある食パンと判断しました。
この食感に嵌る人にとっては、トレンドとなっていますリテイルベーカリーの高級生食パンでさえ、このような食感の商品を私は知りませんので、こちらの食パンを選ばれても納得できます。
なお、最後に誤解のなき様、すべての激安食パンが高い評価を得ているという訳では当然ありません。(ゲンキーでも、別の店舗では大黒天物産株式会社飛騨パン工場製以外の商品が棚に並んでいるかもしれません)
実はその後に別のドラッグストアで他メーカーの激安食パンを購入しましたが、こちらはもうリピートはないであろうことを追記しておきます(商品名は、あえて伏せておきます)。