黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

最終発酵(搬送②)

ファイナルプルファー(以下、FP)の搬送方式と特徴

 ここでは、主に連続生産ラインで採用されていますラック式、トレー式、スパイラル式の搬送方式による機種を例に挙げて解説します。それぞれに用途や特徴がありますので、製品アイテムによって使い分けが検討されるところです。

①ラック式

 ラック式には、主に手押しラックを押し込んでいく方式と庫内を立体式に可動する方式があります。

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 手押しラックをプレハブ内に押し込んでいく方式では、多品種少量生産を行っているライン向きです。

 近年ではラックがFP内を自動で搬送される機種もありますが、一般的には直線の通路の入口から入れて、反対側の出口側から取り出すシンプルな設計です。

 通路は複数設けられており、通路毎に異なる発酵時間を設定することが可能ですので、温度・湿度の条件が同じならば、アイテムを変えて発酵時間が異なっても対応できるフレキシブルさを持ちます。

 もちろん、空調の空間を区切れば、区切りの数だけ異なる温度・湿度の設定ができます。

 ただし、この方式ではラックの高さ方向に温度・湿度の若干のバラツキが生じ易く、均等な発酵条件が求められる製品にはやや不向きかもしれません。

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 ラックが稼働する方式(上図は、横から見たモデル図です)は、今回示した機種の中で最もスペース効率が高い特徴を持ちます。

 逆の言い方をしますと、同じ生産能力を持ったFPであれば、装置サイズをコンパクトに納めることが可能です。

 同じ発酵条件の製品が続いて生産されているラインでは、最も適した機種と考えられます。

 やはり前述の機種と同様に、ラックの高さ方向には温度・湿度の若干のバラツキは生じ易いので、菓子パン類等天板で焼成する製品が対象とし易いのではないでしょうか。

 構造的には、ラックや動力の伝達部に強度を持った部品の設計が可能ですので、ラックの破損や動力チェーンの伸びといった経年劣化は比較的小さい特徴があります。
②トレー式

 トレー式FPは、送られてきた天板を横1列毎に搬送する方式です。

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 スペース効率は前述のラック式とほぼ同等ですが、製品は進行方向に関してすべて同じ経路を通過しますので、横方向の温度・湿度のバラツキがなければ、製品間の発酵条件は非常に揃ってきます。

 その意味では、菓子パン類の他、発酵条件がシビアな食パン類でも対応は可能と考えられますが、横列のトレーの機械的強度はラック式と比較すると劣る為、重量の重い食パン類で使用するためには横方向のサイズの制約が危惧されるところです。

 加えて、駆動部の構造がやや複雑になります(駆動部のターン数が多くなるため)ので、その分メンテナンスも必要となってきます。

③スパイラル式

 この機種では、1本のコンベアのドライブチェーン上にすべての製品が載っていますので、FP庫内の温度・湿度が安定していれば、同様の発酵条件を安定して与えることができます。

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 ただし、周回するコンベアの中央部分は確実に空間となってしまうため、前述のFPと比較しますとスペース効率は劣ります。

 これまで記載の装置もそうですが、すべての機種にメリットとデメリットがあります。

 日本におけますマーケット市場の事情から、大型ラインで生産されます食パンのように、最優先事項となる発酵の条件が安定性であれば、少々のスペース効率には目をつぶってでも、品質重視でスパイラル式を選択するでしょうし、仮に食パンラインであっても中型程度のサイズのラインであれば、前述のトレー式の選択肢も浮上します。

近未来は…

 さて、ここで解説が終わってしまっては、少々つまらない感も否めません。

 せっかく、課題が明確になっているのですから、その課題をクリアできれば次のステージが見えてくるはずです。

 単純に考えれば、ラック式のFPで高さ方向の温度・湿度ムラをなくすか、もしくはすべての製品が同じ経路を通過する搬送システムであって、余計な空間が生じない設計をするか…。

 決して簡単ではありませんが、まったく意識もしないで業務に就くのと、頭の片隅にでも留めておきながら時間を過ごすのとでは、いずれ最終的な結果に差が出てきそうな気がしているのは私だけでしょうか。

最終発酵(搬送①)

ファイナルプルファーの機種選定

 店舗等での小規模ベーカリーでは一般的にキャビネットタイプの機種が使用されていますが、連続生産ラインではラック式、トレー式、スパイラル式等の搬送方式による機種があり、それぞれに用途や特徴があります。

 その搬送機能に触れる前に、パンの製品アイテム毎における外観品質上の留意点について、記述します。

 それは大きく、型を使用する製品か、もしくは天板を使用する製品か、です。

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 つまり、パンのボリュームが大きくなってきた場合に、菓子パン類のように天板を使用する製品では、ユークリッド座標(直交座標)上におけるX-Y-Z軸の3方向に膨張しますので、外観の寸法は増大するボリュームの(1/3)乗に比例します。

 例えば、最終発酵で見掛けの生地体積が4倍になったとしますと、縦・横・高さのそれぞれの寸法が等しく増長した場合、寸法の増長率は4^(1/3) = 1.59倍になります。

 同様に、もしボリュームに10%のバラツキがあったとしても、各寸法は3%程度の範囲内に収まる計算になります。

 この3%なのですが、私の経験ではなかなか悩ましい誤差なんです。

 よく改善活動で、例えば『この案件で、*%の省エネになります』とか、『生産効率を*%上げられます』といった効果を声高々と掲げて、その一方で『製品品質への影響はほとんどありません!』といった状況に出会うことがあります。

 そのような時、本当に製品品質への影響が出ていないのか、もしかしたら確実に出ている影響が軽微で把握できていないだけなのか、で評価は大きく変わってきてしまいます(当然ですけど)。

 そして更に怖いのは、そのような3%の影響が3つ重なった場合です。

 これも私の経験ですが、2つ重なって影響が6%ちょっとになってきますと、別の場所で見た時には『なんとなく違っているような気がする』程度で、並べて比較しますとはっきりと区別できるレベルと理解しています。

 それが3つ重なって影響が9%超えとなってしまった場合には、これは別々の場所で見たとしても明確に違いが把握できるレベルに達しています。

 さて、何が怖いかと言いますと、そうなってしまいますと何が原因でどう直せばいいのかといった判断が難しくなる事なんです。

 上記の場合、要因は3つありますので、その内のひとつを解決しても元には戻らないんです。

 加えて、逆もまた真なりで、解決した3%の効果をもしかしますと判断できない可能性も出てきます。

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 やっと、本題に戻りますが、天板を用いる製品であれば、多少のホイロ条件のバラツキは許容範囲内に入ってしまいますが、食パンのような型を使う製品ではどうでしょう。

 バラツキは、高さの1方向に集約されてしまいますので、ホイロのバラツキはストレートに焼成後の外観品質に影響を及ぼします。

 前述のような10%のバラツキが出るとは考えにくいですが、それでももし仮にそのレベルのバラツキが出てしまったら、どうなるでしょうか。

 角形食パンなら、確実にボウズ(膨張不足)とレンガ(膨張過多)の製品が入り乱れているでしょうね。

 ここまでの内容を基に、搬送の機械仕様に関しまして次回に解説します。

連続生産ラインではラック式、トレー式、スパイラル式等の搬送方式による機種があり、それぞれに用途や特徴があります。

最終発酵(空調)

ファイナルプルファー(空調)

 最終発酵を行うための装置がファイナルプルファーであり、日本ではホイロ(焙炉)と呼ばれます。

 ホイロという呼び名は装置の他、最終発酵のプロセスを指すこともあります。

 今回は、最終発酵工程での装置設備であるファイナルプルファーにおいて、その空調設備の解説をします。

 最終発酵では、パン生地に適度な温度・湿度を与えて良好な発酵を促します。

 一般的に食パンや菓子パンに使用されている高温・高湿『38℃、85%』、ドーナツなどに使用される乾ホイロ『40℃、60%』やハースブレッド等に使用される『32℃、75%』等、があります。

 この他、シート生地でロールイン油脂を使用したデニッシュペストリーやクロワッサンでは、折込みの層を綺麗に出させるために[油脂の融点-5℃]に設定します。

 他の製パン工程では、風速等のパラメーターも考慮するケースがありますが、最終発酵の環境を制御する対象としては、温度と湿度が主となります。

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温度と湿度

 ファイナルプルファーの温度を昇降する方法はシンプルにヒーターのON/OFFで対応は可能です。

 ところで、細かいところなのですが、後述の操作も含めまして、どの操作も単独にひとつのパラメーターのみを制御することは叶いません。

 温度に関しては、空気の温度が上がることによって同じ相対湿度を維持するための蒸気圧も上がってしまいますので、結果として相対湿度は下がってしまいます。

 また、温度を下げる際には冷却部で空気中の水蒸気が結露してしまいますので、温度の低下と共に湿度も低下します。

 では、湿度を上げたい時はどうでしょう。

 操作方法として蒸気を使用する場合には、蒸気を噴出させることで湿度が上がりますが、同時に温度も上がってしまいます。

 よく家庭用の加湿器に見られるようなミスト(微細な水滴)を使用する場合には、逆に蒸発潜熱を奪って庫内の温度は下がります。

 湿度を下げる場合は、前述の温度を下げる時と同様で、視点を温度から湿度へ移してもらえれば、湿度の低下と共に温度も低下することが分かります。

 でも、そんなことは家庭用のエアコンでもできていることでしょ、と思われる方がいるかもしれません。

 原理的には正しいのですが、特に湿度の設定値が高く、加えてより精度の高い制御が求められていることで必要とする熱や蒸気のエネルギー量は格段に高いものになってしまう危惧があるのです。

 少しの温度や湿度の変動で加熱/冷却、加湿/除湿を繰り返していたのでは、膨大なエネルギーを浪費することにもなりかねません。

 乾ホイロの場合は別にして、本来最終発酵時でもパン生地に与えたい条件は、一定温度で相対湿度100%です、…生地は乾かさずに湿らせない。

街のパン屋さん ~ セントル ザ・ベーカリー

【 目次 】

 

セントル ザ・ベーカリーの食パン

  昨今の食パン専門店ブームの火つけ役として注目されています、銀座のセントル ザ・ベーカリー。

 

 先日に家族が東京に出掛ける都合に合わせて、ここの食パンを買ってきて、とお願いしました。

 

 ここで販売されているパンは2斤サイズの食パンが3種類で、北海道産小麦のゆめちからを使用した角食パン:角食パン(864円)、アメリカ・カナダ産小麦使用の角食パン:プルマン(864円)、山型のイギリス食パン:イギリスパン(756円)と、なっています。(価格は、税込み)

 

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 今回購入した角食パンは、湯種・液種法が採用されているとのこと。

 

 湯種、液種共に、製造の手間は掛かりますが、仕込んでから使用までの時間のアローワンスは長く取れますので、安定した製品を造るには合致している製法です。

 

 ネットのニュースによりますと、この食パンは本捏ねをする際に、水ではなく脱脂乳を使うそうです。

 

 オーナーが経営する北海道の美瑛の牧場では、バターの副産物として脱脂乳ができるので、フレッシュな状態で手に入るためらしいのですが、脱脂乳は乳糖を含むのでパンの着色がよくなるそうです。(確かに上面の焼色は、やや濃いめとは思います。)

 

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 製品はスライスされていませんので、やや厚切りの幅にカットしてトーストしました。

 

 クラストは全体的にやや色が濃いのですが、それが厚いといった感じには至りません。

 

 食べてみますと非常に歯切れが良くて、私がこれまでに食べてきました食パンの中でも確実に上位にランクされる食感です。

 

 食味も発酵による熟成した部分と褐変化した部分のバランスが良くて、いい意味で癖がなく、(私の主観ですが)とてもおいしいです。

 

嬉しい発見

 (トースト前に)クラムを見てみますと、内相は非常に目が細かく、膜も薄く伸びています。

 

 このようなパンは、クラムが白く見えます。

 

 トーストして食べてみますと、とにかくソフトな触感がダイレクトに伝わります。

 

 しかも、買ってきてもらって2日目の時点でも同じように感じましたので、湯種と液種の効果が…、と思いながらも、もうひとつ気になる点が…。

 

 成形方法は俵成形のように見えたのですが、もしそうだとすると成形には非常に工夫をされているのでは、と思ってしまいます。

 

 以前に食パン成形の解説のところで、圧延でのガス抜きについて述べましたが、薄い膜を造るために薄く伸ばそうとしますと十分に伸展性のある生地の造り方と共に、伸ばされた後の生地のロール成形の方法が課題になってきます。

 

 つまり、ロール生地の長さが出てしまったのでは、俵成形ができないはずなんです。

 

 いやいや、想像の域を出ませんが、試してみたい成形方法も考えられますし、これを連続生産ラインへ導入できる装置設備が開発できたら、別の意味でおもしろいですよね。(工学屋さんは、こんなことを考えているのです!)

 

 成形に気を取られ過ぎて、クラムの食味について書き忘れるところでしたが、傾向はクラストと同様に小麦本来の味と発酵のバランスが取れていて、どちらも目立ち過ぎるわけではなく、おいしく頂けました。

 

 前述のニュース記事では、パンには誰もが楽しめる間口の広さのほかに、手頃な価格で外国の食文化や、高級レストランの美食の一端をかじることができるという魅力もある、との記載がありました。

 

 その魅力を、より多くの方々に伝えられれば、と思います今日この頃です。

 

 

成形(菓子パン ロール成形)

ロール成形

 今回は菓子パンを対象とした、ロール成形に関して解説します。

 成形の流れは食パンと同様ですが、生地重量が一般的に小さくなって、取り扱う生地重量の範囲が非常に広くなります。

 もしかしますと、生地重量が変わっただけなのに?、と思われる方もいるかもしれませんが、それに対応させるための機械設備の仕様は大きく異なってきます。

圧延

 手作業を考えてみますと、生地重量が小さくなっただけでは作業はほとんど変わりません。

 ベンチタイムを取った生地を圧延してガス抜きをし、カーリングして巻いていきます。

 ところが、例えば30gと100gの生地では寸法比でおよそ2:3となりますが、ガス抜きをする時の生地厚さはほとんど変わりません。

 つまり、モルダーの圧延ローラーのクリアランスに関しては両者の設定値に大きな違いがないことになります。

 この事は、パン生地の分割重量が小さい場合、生地の圧延によって伸ばされる程度が小さくなることを意味しています。

 伸ばされる程度が小さいのであれば、食パンの時のように生地が破断するまでの伸び代を考慮する必要性も低くなります。

 結果としてクロスモルダーのような構造が装置に求められることはなく、ストレートタイプのモルダーで十分対応が可能となります。

ロール成形

 続くロール成形ではどうでしょう。

 先ほどの、30gと100gの生地を例にとりますと、寸法比が2:3ですので、仮に同じ回数を巻こうと思いますと、展圧ベルトの有効長に2:3の差が生じてしまいます。

 この差を展圧板の傾きで調整するのは、かなりの経験が必要と思われます。

 そこで、近年では下図のような展圧ベルトが可動式になっている仕様のモルダーが開発されました。

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 この可動式の展圧ベルトは、どのようにして使用するのでしょうか。

 もし、100gの生地をロール成形する際に展圧ベルトは動かさない状態で適正な巻き数が得られたとします。

 その設定で30gの生地を流すと半径は (2/3) になっていますので、1回巻く際の進む距離は100gの生地を流した時と比べて (2/3) になります。

 それは、巻く回数が (3/2) = 1.5倍になることを意味し、巻き過ぎてしまいます。

 そこで、時間:t でパン生地が距離:L を移動するとしますと、

 L = (1/2)(u1+u2) t     (1)

と表され、全工程での巻き数:N は、

 N = (u1-u2) t / (2πr)     (2)

となります。そこで、(1)式の t を(2)式に代入しますと、

 N = (u1-u2)/(u1+u2)・L/(2πr)    (3)

⇒ 訂正です。shufuinvestさん、ご指摘ありがとうございました。

 N = (u1-u2)/(u1+u2)・L/(πr)    (3)

が得られます。

 そして(3)式に、r = r1、 u2 = 0、を代入した N = L/(2πr1)    (4)

     r =(2/3)r1、を代入した N = (u1-u2)/(u1+u2)・L/(2π(2/3)r1)    (5)

の2式の連立方程式を解いて、U2 を求めますと、 u2 = (1/5) u1     (6)

となり、下部コンベアと同じ方向に(1/5)のスピードで展圧ベルトを動かせば、同じ巻き数のロール生地が得られる計算結果となります。

 なお、生地重量が変わってサイズの変更があった際には、(3)式に生地サイズと基準となります展圧ベルトの速度を代入すれば、生地変更を行った際の展圧ベルトのコンベア速度が求められます。

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ご連絡

 成形の方法は実に多彩で、そのすべてを解説していますと、なかなか次の工程の解説に移ることができなくなってしまいます。

 そのような訳ですので、他の成形方法は発酵工程以降の工程と並行しながら、適宜、解説していきますので、ご容赦下さい。