黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

失敗から学ぶこと 無残…初焼きの食パン

今年最初に焼いた食パン

 初焼きは少しオリジナリティを出そうと、これまでのテスト条件とは趣向を変えて、食パンを焼いてみましたが…。

 結果は、大失敗!

 要因も、今から考えますといろいろとあって、一度に重なるとこんな悲劇になると思い知らされた次第です。

 この焼成装置は、木箱の枠を設ける以前から使用していましたので、使い勝手は熟知していたつもりでした。

 そして、年初にあたって思いついたのが、『人気のない底面のクラストを薄く焼こう』ということになりました。

 設定温度は、食型の上面:130℃、側面&端面:140℃、底面:120℃、です。

 ちなみに一般的な食パンの焼色に着色させるのであれば、上面:145℃、側面&端面:135℃、底面:150℃、程度となります。

 つまり、今回の設定温度では、上面はやや薄く、側面&端面はやや濃く、底面は非常に薄く、クラストが着色されることが予測されます。

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 上の左右の製品の写真ですが、光の関係で同じ食パンで色が違って見えてしまいますが、ご容赦下さい。

 外観は、側面がしっかり焼けていて、まったく腰折れがしていません。

 しかし、上面が凹んだように折れてしまいました。

 上面の焼成温度が低かったこともありますが、焼成時間を36分と長く取り過ぎました。

 ただ、一応、底面はほとんど焼色を付けない状態で焼くことができました。

 ここで、その時の温度測定データを示します。

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 食型温度で制御していますので、端面以外は5分以内、端面も6分30秒程度で設定温度に到達していて、その後は、ほぼ一定温度で保持させました。

 はっきり言って、ここまで温度上昇の速いオーブンは、そうそうお目に掛かれないと思います。

 ちなみに、生地の中心温度は98.7℃まで上がっており、一般的な食パンより1℃以上高い温度まで上がっています。

  

 改めまして、上面が折れた要因を抽出しますと、

1.焼成時間を延ばした

 よくよく考えてみれば、水分蒸発が始まります100℃を超える時間は、通常の全面140℃の条件の時と比較しても変わるはずがないのに、1分長くした結果、窯痩せが生じ易くなってしまいました。

2.部屋の温度が極端に低い

 この日は、この冬一番の冷え込みで室温も低く(おそらく10℃以下)、焼き上がった食パンも(デパンニング以前の時間帯も含めて)急激に冷やされた形になります。

 言い訳にもなってしまいますが、通常この時期は装置の設計や作製の時期になっていて、パンを焼くデータ取りは春~秋頃にしか行っていませんでした。

 数ヶ月前からブログを書くようになって、初めてこの装置で真冬にパンを焼いたのですが、いろいろと考えさせられた1日になりました。

 それと部屋の温度が低い影響は、ベンチタイムの時に気付くべきだったのですが、中間発酵の時間は長く取ったものの、ほとんど膨らみは足りない状態でした。

 結果、十分なガス抜きの効果が得られず、焼き上がった食パンの内相もやや荒れた状態です。

リベンジ!

 ここまで、分かってくれば、来週にでも再度お目当ての食パンを目指して、再挑戦です。

 ポイントは、ベンチタイムと焼成時間、スムーズな型外し、等々といったところです。

 最後に、今回は品質的に決して良好な出来ではありませんでしたが、焼き上がった食パンを自宅に持ち帰って、翌朝にトーストして食べてみましたところ、焼色が薄い食パンの底面のクラスト部は、ソフトさや食感では結構いい感じでした。

 少しだけ、にんまりとした瞬間でした。

 では、次回の製パン結果は、適宜、ご報告致します。

 

木の箱でオーブンを作りました これって”木窯?”

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 この木箱…、後ろからコードが出ているのが、気になります。

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 少し引いてみますと、奥には制御盤と計測用のデータロガーが見えてきて…。

 実は、これ、食パン焼成の実験で使用している焼成装置、言い換えますとオーブンです。

 この装置、結構、いろいろなデータが取れるんですけど、今日は概要のみ解説します。

  

石で作ったオーブンが石窯ならば、木で作れば…

 そもそもオーブンの定義ですが、『熱した空気または壁面などから発する赤外線によって食品を加熱し、焼いて、または乾燥を行う閉じた空間の調理器具』と、あります。

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 この写真を見て、空間は?、と思われるかもしれませんが、食型の縁に沿って少し設けてあり、このスペースも重要な意味を持っています。

 どこから説明すれば、と思ったりもするのですが、石で作ったオーブンを石窯(オーブン)と言うのであれば、木製のオーブンは木窯?、って、…そこですか!

  

安心してください、燃えませんよ!

 まず、オーブンの材料に木材を選択した経緯ですが、主に以下の理由によります。

1.加工がし易い。

 時間を掛けず、経費も抑えて、となりますと、加工のし易さは大きな要因です。

2.比熱(結果として、装置の熱容量)が小さい。

 パンを焼いている時に発生する熱が、装置に蓄えられないようにするためです。

3.熱伝導率が低い(断熱性が高い)

 これは、純粋に省エネルギーです。

 地球に優しく、パンを焼きたい気持ちから。

4.パンを焼く目的に対しての耐熱性がある。

 木材の変性温度は180℃程度と言われています。

 このオーブンの使用温度は、通常の上限で150℃ですから、この使用条件下での耐熱性はOKです。

 安心してください、燃えませんよ!

 なお、150℃でパンが焼けるの? といった疑問があるかもしれませんので、それは追って解説していきます。

5.木で作られたオーブンを見たことがない・・・! 作ってみたい!

 もしかしますと、これが最大の理由なのかもしれません。

 しかし、思うのです。

 世の中にないものを創造することで見えてくる、次の世界があるのでは、と。

 作ってみたいというワクワク感が、新しいことに取り組んでいく力になってくれていると感じています。

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 では、今回、焼いたパンの説明等は、次回以降にしっかりと説明させて頂きます。

 それと、学会等で未発表の計測データはなかなか公表が難しいものですが、温度や重量、熱流束変化の計測データについてもできるだけ出していくつもりですので、ご興味のある方は、またお越し下さい。

 今回の装置は、プロトタイプ(試作機)ながら、今後の継続的な使用も考慮して、実用機としての仕様変更も検討中です。

 もしもですが、私が将来にパン屋さんを開店することになったら、この木窯オーブンで焼いたパンが店頭に並ぶかもです。

 そんな未来を想像しながら、今日はこのあたりで…。

 

街のパン屋さん ~ Le Supreme.(ル シュプレーム)…そして、ちょっと提案

栄生本店とJR名古屋高島屋

  名古屋ではおしゃれなパン屋さんといった評価が高いようで、確かに店内が見て楽しむことができるキャンパスのように、商品自体もアートと化している気にさせられてしまいそうです。

 商品は、ハード系製品の表面やペーストリー系の層の出来具合を見れば、パン作りのレベルの高さはある程度分かりますし、それに加えて商品をひとつの作品のように仕上げていくセンスが付け足されているのですから、リピーターが足繁く通うのも頷けます。

 さて、個人技を深堀りしていきますと話の展開が進み辛くなってしまいますので、購入した製品を見ながら、広く落とし込みができそうな案件を探してみることにします。

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 聞くところに因りますと、元々は和菓子を手掛けていたとか…、あんパン(中央上 160円(税別))は三角帽のような特徴的な形状ですが、食べてみて餡のおいしさも特筆ものです。

 外観プラスおいしさの商品でした。

  

 イチジクの形のイチジクパンです(下右 フィグ・ポアブル 220円(税別))。

 これも、おしゃれの一言です。

 ハード系の商品では、クープを入れて中身を見せる演出がされている商品が多いように感じました。

 カットの技術は、加工するパン生地の形状が工作機械のように高い精度がある訳ではないので、自動化を図るには正直なところ、かなり高難度の技術です。

 そしてドーナツ(左〇中 170円(税別))ですが、

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 一般的には、中央の生地をくり抜いてリング形状に成形するのですが、この商品では中心を通る3本のカットを入れて、それを外側へ開くようにして形を作っています。

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 この成形方法自体は、リテイルのベーカリーではそれほど珍しいものではないのですが、さて、生地のくり抜き方は丸くなくてもいいような…、と。

 そして、これも特に珍しい成形方法ではありませんが、外形が六角形のドーナツが市販されています。

 であれば、上記の二つを組み合わせてみると、少し良いことがあったりして、と思ったところを記載します。

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 六角形に切り分けられた生地に3本のカットを入れて開いても、おそらく先の商品と同様の形状を作り出すことは可能と思います。

 なぁんだ、同じものができるだけ?、とは思わないで下さい。

 一般的にドーナツはシート生地からくり抜いて成形されるのですが、その際に、どうしても外枠に入らない部分は使うことができません(下図 左)。

 まだ、中央の小さな丸い部分は、このままフライして商品化することもありますが、周囲の部分は発酵種として使うか、最悪、廃棄となってしまいます。

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 それが、中央を開く成形方法(上図 中央)では、この内の中心部分のロスを省くことができます。

 更に六角形の外形で、中央を開く成形方法(上図 右)になりますと、外枠からはみ出た生地部分もかなりロスを削減することが可能になりそうです。

 もっとも、生地を開く成形作業や成形後の発酵方法には課題が残るのでしょうが、課題が明確になっていれば、その分、対策も検討し易くなるはずです。

 生地の廃棄ロスの低減は、製パン業界全体の重大な課題です。

 食料自給率が低い(パン用小麦は3%程度)我が国の実状を少しだけ頭の片隅に置いて、ほんのちょっとだけパンの成形を考えてみました。

 

成形 圧延のもう一つの目的、それはガス抜き!

圧延

 以前は、成形工程の圧延に関しまして、次工程のロール成形に先立つ形状調整の意味について、解説しました。

 ただ、この圧延にはガス抜きという異なる側面からの意味も非常に重要ですので、追記で記載していきたく思います。

  

 ガス抜きというからには、当然、内部に発酵によるガスが蓄えられている状態の生地に対して行われます。

 中間発酵で分割時の生地ダメージを回復させた生地は、20分ほどの時間で内部に酵母の活性化によりますガスが発生した状態にあります。

 この時、ガスの気泡は大小様々な大きさのものが分散している状態で、このまま発酵を進めて焼成してしまいますと内相が歪で揃わない状態になってしまいます。

 当然、生地膜も厚い箇所ができてしまい、食べた際のソフトでしっとりとした食感からは遠くかけ離れた製品ができてしまいます。

 そこで、この気泡の中の大きく膨らんだものだけを潰して、細やかな気泡に揃える操作が必要になってくる訳です。

 気泡は、サイズが大きくなると外部からの力学的な力には強度が低く、容易に変形・破損させることができます。

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 つまり、圧延ローラーのクリアランスを狭くしていくことに伴って、 大きな気泡から順次破裂させていくことができ、より小さな気泡のみを残して分散させることができるようになります。

  

 最終発酵の終了時は、生地内の空隙率を揃えることになりますので、全体的な気泡サイズが小さくなれば、必然的に気泡の延べ表面積は大きくなりますので、結果的に生地膜の厚さは薄くなります。

 一見しますと、せっかく膨らんだ生地をわざわざ潰すような作業に疑問を持たれることもあるかもしれません。

 しかし、このような細やかな作業の積み重ねのひとつひとつが日本におけますパンの品質を支えています。

 それこそが、パンをソフトにしっとりさせる日本の製パン技術が世界的にも誇れるレベルにある所以だと思っています。

 ところで、圧延ローラーのクリアランスは狭くしていくことで、確かに気泡サイズを揃えることができるようになりますが、当然延ばしていくにも限界はあります。

 限界を超えてパン生地を薄くする(延ばす)ことは、パン生地自体の破断を招きます。

 大手製パンメーカーが導入しています一般的な連続製パンラインでは、機械耐性といった観点からパンの製法や配合が検討されていますが、この成形の工程は分割工程と並んで大いに注意が払われている工程と位置付けられています。

 

街のパン屋さん ~ 八天堂

くりーむパン

 純粋に『おいしい~!(個人的に)』で、感想はOKなのですが、やはりいろいろと作り方の情報を探っていきたいと思います。

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 今ではすっかりメジャーになっています、八天堂くりーむパンは、消費者が商品を口の運ぶまでが工程と考えれば、非常に特徴的な製造方法として説明することができます。

 カスタードクリームを包餡してから発酵・焼成すると、通常はパン生地内部にありますフィリング(ここでは、カスタードクリーム)の上部に空洞ができます。

 これは、焼成過程でパン生地部分が膨張する際に、決して膨張することがないフィリングとの間に蒸発したアルコールや水分が気体の状態で蓄積されていく為です。

 ところで、一般的なクリームパンはパーカー成形と言って、パン生地をふたつに折ってフィリングを包むような包餡方法が採用されているケースを多々見かけますが、この商品はパーカー成形を採用していません。

 焼成後の製品に水分を保持する等の理由でしょうか(パーカー成形ですと、比表面積が広くなって水分が蒸発し易くなります)、アンパンの包餡方法と同様の成形がされています。

 話を元に戻しますと、このままでもクリームパンとして十分商品になり得るのですが、この空洞を利用して後充填のフィリング(ホイップクリーム等)を追加して、差別化を図ることもできます。

 パン製品の多様化が進んでいます昨今、ホールセールの大手ベーカリーでも対応が進んでいる方法のひとつです。

  

 ところで八天堂くりーむパンですが、全体的な焼色は薄めながら、比較的上面にコントラストが付いて着色されています。

 このように焼くためには、オーブンの形態としてデッキタイプの輻射熱を利用した機種を使用し短時間焼成を行った場合に、このような状態になり易い傾向があります。

 もし、そのような焼き方をしているのだとすれば、生地中の水分に関して非常に注意を払われていることが考えられます。

 コンベクションタイプのオーブンでは、焼色のコントラストは付き難いですし、水分の蒸発量が著しいですから。

 商品は非常にしっとりしていて、消費期限も翌日まで、と日持ちが短くても、より特長的な食感を楽しんでもらいたいという作り手の思いが伝わってきます。

 保存方法も、要冷蔵10℃以下となっていることから、従来の菓子パンの常識とは逸脱しています。

 このくりーむパンを食べるシーンをイメージして頂きたいのですが、10℃以下の状態で包装紙から取り出しますと、よほど周囲が乾燥している状況でない限り、まず商品は乾燥せず、逆に湿潤します。

 10℃の飽和状態の空気は絶対湿度が非常に低く、くりーむパン周辺の空気中の水分が結露するためです。

 先に食感と記述しましたが、温度を加味すればクリームの食味についても、そのおいしさを引き出すための保存条件なのでしょう。

 価格は、くりーむパンカスタード、くりーむパン生クリーム&カスタード、共に210円(税込)です。

 感覚的には、菓子パンというよりもデザートの菓子に近いポジションに位置付けられる商品ですね。