黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

焼成(菓子パン類 生地表面と天板の温度の視点から)

理想とする生地表面と天板の温度の推移

 今回は、連続式オーブンの中でも使用されている頻度が高いトンネル式オーブンで、型ではなく天板を使用して焼成する菓子パン類の製品について、焼成条件を解説していきます。

 天板を使用してパンを焼成する場合、頻繁に上火と下火といった言葉を耳にします。

 型を使用する際に意識していました側面という見方はあまりされません。

 菓子パン類を焼成する場合でも、その工程において作用する現象は食パンのケースと同様です。

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 ただし、生地側面と上面が露出していることによって、この箇所のパン生地は少ない熱量でも温度が著しく上昇します。

 菓子パン類となりますと、非常に種類が多くなりますので、主だったアイテムについて、加熱によります加工のメカニズムを解説します。

焼成初期

 焼成初期では、生地温度の上昇によってボリュームが増大しますが、上火と下火のバランスによって作用が変わってきます。

 下火が強い場合、生地膨張の速度が高い一方で生地の糊化も早く起きますので、底面が広がり難くなることから腰高の製品になり易くなります。

 逆に下火が弱かった場合、生地が糊化せず体積が増大しますので、横方向に膨らんで高さの出ない製品になります。

 上火が強い場合は、早い段階で生地表面が糊化して固まってしまいますので、ボリュームが出難くなります。

 よく製造の現場では、菓子パンを焼成する際のオーブンの設定を、入口ゾーンで下火を掛けて、上火を落とす、ことを言われますが、腰高でボリュームを出すための焼成条件と考えられます。

 ちなみにデッキ式オーブンで焼成した場合には、普通に焼いても、この焼成条件に合致します。

焼成中期

 焼成の中期では、上火は徐々に上げていき、下火の設定温度は思い切って下げます。

 以前に熱の移動形態について解説しましたが、主に輻射で加熱する上火は一定温度でも生地上面温度は上昇傾向を継続しますし、生地底面の温度を保持したい下火は既に炉床や天板が十分な熱量を保有している状況ですので、パン生地への移動熱量分を補充する程度の熱エネルギーがあれば十分だからです。

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焼成後期

 焼成後期で最も気を遣う心は、製品上面の焼色です。

 連続式オーブンで大変なのは適宜焼色を見てベストのタイミングで焼成時間を決めることができない点です。

 しかも、設定温度が中央~出口ゾーンで同等であった場合、出口ゾーンでの着色速度が最も速いことになってしまいます。

 そのような理由から、製品の焼色の安定性を求める場合、出口ゾーンの温度をあえて中央ゾーンより若干下げる設定も理に適った対応と考えられます。

さて、クイズです!

 さて、最後にちょっとした問題を考えてみましょう。

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 最終発酵が終了した丸玉生地の表面にゴマ付けもしくは油性ペンで上図のような等間隔のマーキングを行った場合、焼成後にはその間隔がどうなっているでしょうか?

 ただし、オーブンはトンネル式オーブンを使用して、上火は低く、下火は高く、温度を設定しました。

 答えは、『C』の生地側面の間隔が広がる、です。

 生地表面温度が上昇して糊化する際、最も加熱され難い箇所が生地側面であり、生地中心部の温度が上昇するまで継続する生地体積の膨張の影響は、この固まりきれていない側面に集中することになるのが、その理由です。

 この業界では、ホワイトラインと呼ばれます側面の白い部分は、このようにして形成されます。

 なお、上火が主に対流熱で作用するスパイラル式オーブンでは、『B』のようにほぼ等間隔に膨張して、結果的にホワイトラインが出難くく、ボリュームも小さい製品になる傾向があります。

焼成(③ 連続式オーブン)

オーブンの入口と出口

 突然ですが、パンを焼成するとオーブンキックで生地が膨張します、これはご存知ですよね。

 では、この焼成中に生地体積が収縮を始めていることをご存知でしょうか。

 パンがオーブンから出てくる頃には、パンのボリュームは既にピークを越えていて収縮している状態なのです。

 そして、この生地膨張・収縮の現象は、パンを焼成する時間の確定に大きく関与してくることから、焼成時間に関連するオーブンの構造にも注意が必要です。

 先に解説しましたスパイラル式オーブンですが、搬送コンベアによります天板等の移動速度は比較的高くなっています。

 すると、オーブン内への移動による焼成開始や、オーブンから取り出されることによる焼成終了のタイミングは比較的明確です。

 改めまして、焼成の開始と終了はどのように判断すべきでしょうか。

 それは、天板等が加熱され始めてから加熱されなくなるまでの時間帯であり、オーブン内にあるか否かといった状況と大きな相関があります。

 つまり、天板等が明確にオーブンの内か外かにあることを判断できることは、非常に重要なことなのです。

 更に、ファイナルプルファーから流れて来た天板等が短時間でオーブン内へ投入されることや、オーブンから取り出された天板等がすぐに次の操作(ショック、蓋外し、型外し)に移すことができることも製品の品質上、重要な意味を持ちます。

 なお、次工程の内容は、改めて解説することにします。

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 それでは、トンネル式オーブンではどうでしょう。 

 トンネル式オーブンでは、炉内を横数枚の天板等を1列に並べて搬送します。

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 例えば、上図のトンネル式オーブンで先のスパイラル式オーブンと同等の生産能力の場合、コンベアの搬送速度は(1/5)以下になります。

 『以下』と記載しましたのは、スパイラル式オーブンでの天板等の間隔も搬送速度に関係してくるためです。

 さて、搬送速度が遅くなるとどのような影響が出てくるのでしょうか。

 まず、入口では焼成開始のタイミングが把握し難くなります。

 極端な表現では、ひとつの天板等の中に焼成開始の早い部分と遅い部分が混在する状況となります。

 ただし、全自動式のオーブンであれば、入口部にはローダーと呼ばれます『オーブン炉内への押し込み装置』がありますので、この装置が確実に炉内まで天板等を送り入れてくれる状態であれば、この課題はクリアできるでしょう。

 また、出口には同様にアンローダーと呼ばれます『オーブン炉外への取出し装置』があります。

 なぁんだ、それなら問題ないじゃないですか、と言わないで下さい。

 先に『この課題はクリアできるでしょう』と記述しましたのは、パンの焼成初期の条件がクリアできるからであって、同晩期での焼成条件には合致しません。

 しかも、出口で天板等を取り出すタイミングは一般的に天板全体がオーブンの外に出たタイミングで起動するような設計になっています。

 つまり、焼成が終了しているか否かのグレーゾーンを確実に通過してから取り出しているのです。

 この事が、なにを意味するかイメージしてみて下さい。

 出口に関しまして、更に…、と続くのですが、これも改めて解説することにします。

焼成 (② 連続式オーブン)

搬送と収容量

 大型生産ラインが入っている工場では、ラインの生産能力をオーブンの能力を基準として設計するのが、一般的のようです。

 それだけ、設置スペースと生産能力の双方に関与する機械設備といった位置付けなのでしょうか、もしくは能力の増強が困難との理由からでしょうか。

 型詰めもしくは天板に載せられたパン生地を加熱して、時として湿度も関係して…、となりますと、先に解説しましたファイナルプルファー(以下、FP)と仕様面で類似している点も多いようですが、加工条件から確認していきたいと思います。

 まず、機種の選定において加熱ムラを避けたいということであれば、FPと同様にスパイラル式が最も適しています。

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 FPと同様にスパイラル式のオーブンでは、すべての製品が同じ経路を通過しますので、炉内が安定していれば加熱ムラの心配は非常に低くなります。

 異なる点としましては、FPのように炉内を一様に加熱することはなく、数回周回する各段に点火バーナーが設置されているところです。

 食パン、菓子パン共に、焼成の進行に伴って温度条件を変えていく方が特長的な製品が焼けますので、時間の経過と共に焼成温度を変える機能は必要な仕様です。

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 ところで、先にFPではスパイラルタイプの機種について、スペース効率があまり高くない旨の記載をしました。

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 オーブンでも同様なのですが、理由の一つに流す天板もしくは食型は一定の間隔を開けて並べなければならないことにあります。

 この間隔はスペーサーとかスペースカウンター等々で呼ばれます機能で確保するのですが、この間隔が狭いとカーブ部分で天板同士が接触してしまい、最悪のケースではコンベアから脱落してしまうトラブルを起こしてしまうからです。

 このようにスパイラル式のオーブンもFP同様に決してスペース効率は高くないのですが、少々事情が異なる点は他のタイプのオーブンと比較した相対的なスペース効率がそれほど低くないことにあります。

 端的に言えば、他のタイプのオーブンもあまりスペース効率は高くないということです。

 オーブンでは、FPのようなラック式といった仕様の設備を見たことがありません(誤解されないように、手押しラックで焼成するラック式オーブンは実在します。あくまで、連続可動方式のラックタイプを見たことがないということです)。

 また、トレー式といったオーブンもありますが、これもターン数は1回(1往復)のみの設備が、主流です。

  主流となっていますトンネル式オーブンは、各天板等を詰めて並べることができるのですが、オーブン本体を積み重ねて設置することはほとんどありませんので、空間といった考え方ではやはり効率が下がってしまいます。

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 搬送の内容を記載してきましたので、次回はこれと関連してオーブンの入口と出口の構造がパンの焼成条件にどのように関わってくるかを解説してみようと思っています。

焼成(食パン 型温度の視点から)

 それでは、連続式の(時間の経過と共に焼成温度を変えられる)オーブンを使用することで、どのような焼成方法が可能になってくるか(求められているか)を考えてみます。

 まずは、食パンの焼成について。

理想とする食型温度の推移

 焼成初期では生地温度の上昇に伴います炭酸ガスの溶出やアルコールの蒸発によって、生地体積が急激に膨張するいわゆる『オーブンキック』が生じることで、内相に縦目のすだちを形成します。

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 この際、食型の側面と上面は、オーブンキックを促進する温度を保ちつつ、体積膨張を阻害させないように生地の糊化温度を大きく超えない温度に保持されていることができれば、結果として十分な縦目の内相が期待できます。

 外形が形成されれば、その形状を維持するためにそれまで加熱が緩やかであった、食型側面と上面を強く加熱して、水分を蒸発させてクラストを形成しつつ、生地の表面温度を規定の焼色に合わせるべく、できるだけ一定の温度を維持させます。

 一定の温度で維持することが求められる理由は、焼色の着色反応の速度が型温度に対して指数関数的に上昇するためです。

 つまり、焼成の過程において食型温度の変動が大きい場合、パンの焼色は一時的な温度の上昇によって著しく着色することに因ります。

 稀に食パンの底の一部分が焦げたように黒くなっている製品を見ることがありますが、これは点火バーナーの火力調整が不十分で局所的に極端な高温になっているケースに見られる症状です。

 焼成も終盤に掛かると、加熱は食型温度を保温するだけの熱量があればいいのですが、窯出しのタイミングまでに既に生地体積は収縮を始めていますので、ここでの温度変動は極力避けたいところです。

 こうして考えてみますと、焼成初期には生地温度を上昇させるための熱量が必要になる一方、焼成初期には温度を保持する程度の熱量で十分であることが推測されます。

実際に見られる食型温度の推移

 では、実際のオーブンで食パンを焼成する際の食型温度の推移は、どのようになっているのでしょうか。 

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 一般的に熱源は、食型の上方もしくは下方にありますので、相対的に側面の加熱は強くありません。

 その意味では、比較的理想に近い条件が再現できると推測されます。

 しかし、外観形状がほぼ確定して以降も、(少なくとも)底面以上に側面を強く加熱することは特殊な改造をしない限り、困難です。

 そのような訳で、側面を上面・底面と同等の焼色にすることは叶わないのですが、焼成後期に入って(炉内温度を下げて)、もし食型の上面・底面の温度が一定になるように調整できれば、相対的に炉内温度との温度差が側面で大きくなるので、水分蒸発によるクラストの形成には有効に作用します。

結論

 食型のどの面を強く加熱するかといった課題もありますが、少なくとも強熱するタイミングは焼成初期にあり、焼成後期では強熱する必要性はあまり考えられません。

 従いまして、(現時点では詳細は割愛しますが)時間の経過と共に温度変化を付けて焼成することは、連続式オーブンに求められている機能のひとつと考えてよさそうです。

焼成(連続式オーブン①)

連続式オーブン

 ホールセールの製パンメーカーの工場では、概ね連続式オーブンを導入しているところが多いと思います。

 連続式オーブンの代表的な機種はトンネル式ですが、スパイラル式やトレー式といった仕様の設備もあります。

 トンネル式にせよ、スパイラル式にせよ、同じオーブンでも固定式オーブンとの仕様の大きな違いは把握したうえで、製パン機械設備を取り扱うことが重要です。

 目的は『理想のパンを焼く』、これに尽きますので、いかに安定して理想とする焼き方を再現できるかを考えます。

 では、各種連続式オーブンの仕様については、別途解説するとしまして、ここでは広く連続式オーブン故の焼き方について、留意点を述べることにします。

 連続式オーブンは、一般的にはコンベアに製品を載せて炉内を搬送します。

 オーブン内の経路は複数のゾーンに分かれていて、そのゾーン毎に焼成温度を設定してコントロールしています。

 製品は、そのゾーンを通過する訳ですので、時間に伴って焼成温度を変えたい場合には、非常に都合の良い構造となっています。

 ところが、ここに神経を使うポイントがあります。

 それは、生産開始時の先頭の製品がオーブン内に投入される時です。

 固定式のオーブンであれば、(温度ムラを考えなければ)すべての製品が同じ温度で焼成されますが、連続式オーブンの場合は投入される列毎に焼成条件が変わってきてしまいます。

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 つまり上図のように、あるゾーンに製品が流れ始めてきた時、ゾーン内には製品の進行に伴ってゾーン内で温度の差が生じてしまいます。

 そして、ゾーンの温度をコントロールするためのセンサーは概ね進行方向のほぼ中央の位置に取り付けられていて、この1点の温度で熱源であるガスバーナーや電気ヒーターの出力を入切する訳です。

 上図の状況を解説しますと、先頭の製品が温度センサー位置まで届いた時点で温度センサーは炉内温度が低くなったと感知して点火バーナーの出力を上げようとします。

 しかし、この時には製品がまだ届いていない先の場所はパン生地のような熱を吸収するものがありませんので、炉内温度は過剰に高くなってしまいます。

 その過剰に高くなった炉内を先頭の製品は通っていく訳ですので、当然のことながら先頭の製品は焼色が濃く、焼け過ぎの状態になってしまうのです。

 工場には、オーブンの癖をよく知っている担当者の方がいたりして、巧みにバーナーコントロールを施して焼色を揃える技術を持っていたりしています。

 この技術は、是非制御技術に応用したいですね。

 下図のような、天板毎にゾーンを造ってパンを焼くような連続式オーブンは決して世に出てこないでしょうから。

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