黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

食パンの腰折れを考える③ ~ 成形方法による違い

U字成形、N字成形、M字成形

 これまで食パンの腰折れについて、焼成~クーリング時での力の発生やクラストの強度の観点から解説をしてきました。

 ところで、クラストの強度という点に関しては、成形方法が起因しているところも挙げられますので、少し工程としては遡ってしまいますが、今回はこの課題について記述していくことにします。

 食パンの成形作業は、ガス抜き⇒圧延⇒カーリング⇒展圧(ロール成形)と流れて、その最終作業は、ロール成形した生地を食型に型詰めすることです。

 ところで、棒状のロール生地は、その長さ(=生地重量)によって、一般的にはU字、N字、M字成形の方法が採られます。

 下の図は、概ね3斤サイズの角形食パンを製造する際の生地重量を計算し易い値にして示したものです。

 U字なら240gで6玉、N字なら360gで4玉、M字なら480gで3玉、と単純に総生地重量から生地サイズと成形方法を結び付けただけのものです(生地重量は、計算し易い値を入れました)。

 ところで、これらの成形方法にもいろいろな事情が絡んできます。

 リテイルベーカリーでは、大型の成形機を導入することが難しいため、それほど重量が大きくない生地を扱うことになりますので、U字成形を採用される傾向にあります。

 もっとも、ガス抜きとロール成形にこだわりがあるベーカリーでは、俵成形をされている店舗もあろうかと思います。

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 次にN字成形ですが、これは生地重量がU字とM字の中間サイズです。

 正直、あまり採用されているところを見たことはありません。

 そして、これらの成形方法では型詰めは基本的に手作業となります。

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 次に、M字成形ですが、この成形方法のメリットは生地重量を大きくすることで1製品当たりの生地数量を減らすことができ、大量生産に寄与できることにあります。

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 単純にU字成形の半分の生地個数で製造することができますが、その分、製パン機械設備は大型化します。

 ガス抜きのローラーも単段で一気に圧延することは叶いませんので、複数の圧延ローラーを備えて対応することになりますし、ロール成形のコンベアも幅広の仕様にしなければなりません。

 

腰折れとの関係

 さて、それでは先述の成形方法で、どれがもっとも腰折れし易いと予想しますか?

 答えは、M字成形におけます下図の箇所になります。

 ちなみに、この現象は多くの文献でも紹介されている事象でもあります。

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 工学的な視点で考察しますと、 建築物で言うところの梁がない部分ということになります。

 しかし、それであれば他の側面(上図、U字の下側、N字の上下側。M字の上側)でも同様の折り返し面はあるように見えますが、実際に並べてみますと側面のクラストに占めるフラットな面の占有率は、このM字の下側が断トツに広くなっていることが分かります。

 機会があれば、その事が確認できる製品を購入して、皆さんにお示ししたいと思います。

 さあ、腰折れを起こし易い条件がいろいろ出てきました。

 そして、メカニズムも解明されてきています。

 そうなれば、解決法も検討できますよね。

 続きは…、どこまでの内容を公表するか、もう少し検討します。

カフェのパン ~ ダウニークラシック

挟んだ食材を食べてもらうためのパン

 地元では、パンケーキで有名なお店:ダウニークラシックで家族とランチをしてきました。

 ランチは、ハンバーガーやパンケーキがメインのメニューになっていて、私はエビとアボカドのパンケーキ、家族はクラッシックバーガーを注文です。

 私としては、パンケーキの食感にサラダ等々という組み合わせには少々違和感があるのですが、新鮮と言われれば、あえて否定もできず、そのような表現もできるかもといったところです。

 やはりパンケーキ自体が非常にソフトな食感ですので、これに慣れればマイブームになるのかもしれません。

 もう少し時間は掛かりそうですけど。

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 一方、家族の注文したハンバーガーですが、使用されているバンズは大手ファーストフード店でよく見かけますものと比較しますと、少々内相の肌理が粗く感じます。

 ただし、決して膜が厚い訳ではありません。

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 このハンバーガーを一口食べさせてもらいますと、概ね想像した通りの食感です。

 最近のパンに謳われがちなしっとりさはあまり感じられず、歯切れの良さが最初に伝わってきます。

 けっしてパンが具材の野菜やハンバーグの邪魔をせず、素直に挟んだ食材に歯が到達するといった感覚です。

 それでいて、口の中では適度な空間を持って具材を包み込んでいて、全体でバランスのいい商品に仕上がっていると感じました。

パンの評価

 ところで、パンについて解説する際、これまではパン単体での評価がほとんどだったと記憶しています。

 ただ、パンを食するシチュエーションとしましては、当然、具材を挟んだりして、メインはパンではなく、具材を食べてもらう状況といった事も多々想定されます。

 おそらく、今回のハンバーガーバンズを単独で食べていたとすると、おそらくおいしいと感じる人は少数派なのではないでしょうか。

 ですが、そのバンズをハンバーガーに使用して[バンズ+具材]として食べた時、トータルバランスで非常に美味しいと感じる商品になっていると思います。

 工学系のエンジニアとしましては、評価パラメーターがひとつ増えますと、その組み合わせで解析すべき項目数が増えていきますので、正直なところ、悩ましいところではあります。

 特に食感に関しては、ホイップクリームのような極めてソフトなフィリングから、少々粘弾性が高くなるとジャムや小倉餡、さらにはカリッとしたクリスピーなものとか、今回のような惣菜系まで、一緒に食べてベストであるパンを選定できるスキルを身に付ける必要性を感じるこの頃です。

 

クーリング ~ 連続して焼いた時のパンの冷やし方

パンを冷却する時に守るべき条件

 まさかとは思いますが、焼成したパンの冷却を『放置』と考えている方はいないと思います。

 パンが焼き上がったら、次工程のために常温程度まで冷やさなければなりません。

 しかし、この工程も重要な加工工程で、加工方法を誤れば、それはたちどころに品質に表れてしまいます。

 まずは、基本的なところで冷却のメカニズムと加工条件に付いて解説します。

 焼成したパンの温度が下がる要因は、大きく2つです。

 ひとつは主に対流による熱移動と、もうひとつは水分の蒸発による潜熱です。

 どちらも結果的に熱の授受があるのですが、ここには非常に注意すべき点があります。

 それは、冷却する製品周りの温度は、経時的に下げることは構いませんが、決して上げてはいけない、ということです。

 なぁんだ、そんなこと?、と思われた方もいるかもしれませんが、たったそれだけのことを忠実に守って本当に製造できているのでしょうか。

 物理的な量を示すものは概ね高い方から低い方へと流れていきます。

 電気も、濃度も、熱も、水も…です。

 つまり、一度冷却されたパンが再度暖められますと、熱が移動して温度が上がるだけではなく、水分も移動して含水率が増えるということになります。

 この事が何を意味しているか、お分かりですよね。

ラック取りとブレッドクーラー

 さて、具体的に焼き上がったパンをラック取りで冷却するケースを考えてみましょう。

 一般的に、後から焼き上がったパンは先に冷却している製品のラックの上段へ挿します。

 先に冷却している製品の下段に入れてしまいますと、せっかく冷却していますパンが後から挿したパンの熱で温まってしまうからです。

 このような操作は、製パンの現場で普通に教育されて身についているものと思います。 

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 それでは、連続製パンラインでブレッドクーラーを装備しているケースを考えてみます。

 ここでは、既に製パン設備が導入されている状況ですので、その装置を運転するしかないのですが、(皆さんの工場では)焼き上がったパンは下図のようにブレッドクーラーの上段から入っていますか?

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 製パンの理論が分かっていれば全然難しい問題ではないのですが、問題となりますのは設計する人がまったくの機械屋さんだった場合です。

 機械屋さんは、往々にして(これも当然必要なのですが)スペース効率や生産効率を最優先にしてラインの設計をしてしまう事があります。

 つまり、オーブンの低い位置からパンが出てくると、そのパンをわざわざ高い位置まで上げていってブレッドクーラーへ入れるような面倒なことを避けてしまう懸念が出てくることです。

 もしも、ブレッドクーラーの下段から焼き上がったパンが入っていたとしたら、…その状況は考えたくないですね。

 最後に、パンを中心部までしっかりと温度を下げようとした場合、空調設備を利用して低い温度の環境下で冷却することになります。

 ただ、焼成直後のパンの冷却に空調の効いた空気が必要でしょうか。

 40℃のパンであれば20℃の空気で冷やした方がいいと思いますが、90℃のパンであれば(猛暑日の)35℃の空気でも十分に冷却することができます。

 空調を効かせた空気はお金が掛かって高価な空気になっています。

 コスパを考えて、装置も設置する方がいいですよね。

 

街のパン屋さん ~ ラ・パナデリーア 新業態は焼成後冷凍パン

ヨーロッパでは一般的な焼成後冷凍パン

 みなさんは、いま、ヨーロッパでちょっとしたパンのイノベーションが起こっていることをご存知ですか。

 少し以前まで年々落ち込んでいたパンの消費量が、回復基調にあることを。

 ヨーロッパの方々はパンに対するこだわりが強く、賃貸住宅の家賃でもパン屋さんの近くは高めに設定されているということさえ耳にします。

 そのような地域で、トラディショナルな焼き立てパンを廉価で供給できる形態が近年脚光を浴びています。

 技術的な要因も多々あるのですが、今回はその中でも焼成後冷凍パンについて、解説することにします。

特徴的なパン屋さんの新形態

 北海道札幌市にあります、ラ・パナデリーアは、”パンで世界を旅しよう”というキャッチの下、世界を提案するベーカリーをコンセプトに、海外の本格パンを提供するセレクトショップです。

 発祥国の原材料を使って、その国で製造したパンが一番美味しいはず、と思われた消費者の要望に応え、ラ・パナデリーアで取り扱っているパンの多くは、海外で製造後に急速冷凍し店頭で解凍しているとのことです。

 最新の急速冷凍技術を使っているとの説明文もありましたが、具体的な方法については推測の域を出ません。

 あの方法?、それとも別の?、と妄想は広がていくばかりです。

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 ただ、対象となる製品アイテムは、ハード系生地のパンを中心に対応されているようで、特にプレッツェルには注力されている印象を受けました。

 この焼成後冷凍のパンですが、もしかしますと[保存用]⇒[おいしくない]と思われる方もいるのでは、と推測します。

 結論からお話ししますと、それは完全に間違いです。

 条件によるところもありますが、クラムの食感などは冷凍前と比較して返ってソフトでもっちりするケースさえあります。 

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 今回、購入しました商品は、サッカーボールの形状のプレッツェル(サッカーボールブレッツェル  ¥240 税込 )です。

 サッカー大国の本場ドイツならではの商品です。

 通常のプレッツェルと比較して、厚みがあるせいでしょうか、随分歯切れがよく、食べやすい印象を受けました。

 このサッカーボールブレッツェルですが、賞味期限は、冷凍状態で約1ヶ月、解凍後2日となっています。

大手製パンメーカーでも

 焼成後冷凍パンは、国内の大手製パンメーカーでも取り扱いを開始したようです。

 敷島製パンでは、石窯で焼成しましたハード系製品を冷凍し、通販サイトで取扱いを開始しています。

 製品の特徴としましては、国産小麦、ルヴァン発酵種、低温熟成等々を謳っています。

 L’Oven(ル・オーブン)と銘打った製品群には、バゲット、カンパーニュ、ブールといったハード系のアイテムが並びます。

 ちなみに、まだ私は購入していませんが、スーパーマーケットで通常販売されています同社の石窯製品と食べ比べてみたいですね。

食パンの腰折れを考える② ~ 焼成後のショック

ショックを与える意味

 製パン工程でのパン生地の変化について、これまで記載してきました内容を紐解いていきますと、なんだか今回のテーマ:焼成後のショック の結論に辿り着きそうな気がします。

 パンの焼成が完了してオーブンから取り出すと、即座にショックを与えることはご存知かと思います。

 ところで、なぜ焼成直後のパンにショックを与えるのでしょうか。

 少なくとも、私が以前に在籍していた製パンメーカーでは、30年前にこの質問をしたすべての人が異なる理由を並べ、まったく統一された見解は得られていませんでした。

 また、当時の上司からおもしろいエピソードも聞かせてさせてもらいました。

 その上司がさらにその先輩から聞いた話で、以前の製パン工場ではパンは柔らかく、とても壊れやすいものだから、型から外す時も大事にやんわりと取り扱っていたのだとか。

 それでどうだったかというと、腰折れしたパンだらけだっと、と。

 しかし、それはやんわりと扱うレベルが低いからと考え、さらに大事に扱う工夫を重ねていた、とのことでした。

 その当時の常識を打ち破ったのは、ある製粉メーカーから出された特許であったと聞いています。

 誰も考えが及ばなかった、真逆の操作で劇的にパンの品質が向上したのです。

ショックを与えるべきタイミングとは

 それでは、焼成後のパンにはどのタイミングでショックを与えるべきなのでしょうか。

 その結論を述べる前に、もうひとつだけ確認しておくべき現象があります。

 それは、パン生地内部の気泡の連通についてです。

 パンは、空隙率の高い製品ですと80%以上が気泡で占められています。

 発酵が進んで、外観のボリュームが増えてきましても、基本的に内部の気泡はそれぞれが独立した状態を保っていて、内部の気体が外に漏れることはありません。

 ところが、もし、この状態が最終製品に至るまで継続されていたとするとどうなるでしょうか。

 これは膨らんだ餅が縮むように、元の成形時のサイズまで収縮する可能性もあります。

 岐阜大学農学部の西津教授は、冷却後のパンの内部をX線解析し、その構造を解析されました。

 そこで分かってきたのは、焼成後の生地内部の気泡は、その90%以上が連通している、つまり90%以上のスペースへ外部の空気が入り込んでいる、という結果でした。

 

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 そこで、焼成後のパンのショックを与えて腰折れを防止しようとするのであれば、どのタイミングで行えばいいのでしょうか。

 必要となる条件は、

1.パン生地の中心部まで十分に火が通っていること

2.パン生地が収縮し始めていて、内部への力が働いていること

3.パン生地の表面から水分が蒸発する妨げがないこと

と、考えます。

 であれば、オーブンから出た直後がベストのタイミングと結論付けられそうです。

 至って、ありきたりな結論でしたね。

 ところで、パン内部に発生した負の圧力は、一般的には位置による偏りがなく、均一に作用しますので、ショックを行うと即座に大部分の気泡が連通する可能性があります。

 逆の言い方をすれば、このタイミングを外すと大きな効果を得ることが難しくなる裏返しとも考えられます。

 ですから、先日のトンネル式オーブンの出口で解説したように、このタイプのオーブンには十分な注意を払って運転を操作するように心掛けたいものです。