ショックを与える意味
製パン工程でのパン生地の変化について、これまで記載してきました内容を紐解いていきますと、なんだか今回のテーマ:焼成後のショック の結論に辿り着きそうな気がします。
パンの焼成が完了してオーブンから取り出すと、即座にショックを与えることはご存知かと思います。
ところで、なぜ焼成直後のパンにショックを与えるのでしょうか。
少なくとも、私が以前に在籍していた製パンメーカーでは、30年前にこの質問をしたすべての人が異なる理由を並べ、まったく統一された見解は得られていませんでした。
また、当時の上司からおもしろいエピソードも聞かせてさせてもらいました。
その上司がさらにその先輩から聞いた話で、以前の製パン工場ではパンは柔らかく、とても壊れやすいものだから、型から外す時も大事にやんわりと取り扱っていたのだとか。
それでどうだったかというと、腰折れしたパンだらけだっと、と。
しかし、それはやんわりと扱うレベルが低いからと考え、さらに大事に扱う工夫を重ねていた、とのことでした。
その当時の常識を打ち破ったのは、ある製粉メーカーから出された特許であったと聞いています。
誰も考えが及ばなかった、真逆の操作で劇的にパンの品質が向上したのです。
ショックを与えるべきタイミングとは
それでは、焼成後のパンにはどのタイミングでショックを与えるべきなのでしょうか。
その結論を述べる前に、もうひとつだけ確認しておくべき現象があります。
それは、パン生地内部の気泡の連通についてです。
パンは、空隙率の高い製品ですと80%以上が気泡で占められています。
発酵が進んで、外観のボリュームが増えてきましても、基本的に内部の気泡はそれぞれが独立した状態を保っていて、内部の気体が外に漏れることはありません。
ところが、もし、この状態が最終製品に至るまで継続されていたとするとどうなるでしょうか。
これは膨らんだ餅が縮むように、元の成形時のサイズまで収縮する可能性もあります。
岐阜大学農学部の西津教授は、冷却後のパンの内部をX線解析し、その構造を解析されました。
そこで分かってきたのは、焼成後の生地内部の気泡は、その90%以上が連通している、つまり90%以上のスペースへ外部の空気が入り込んでいる、という結果でした。
そこで、焼成後のパンのショックを与えて腰折れを防止しようとするのであれば、どのタイミングで行えばいいのでしょうか。
必要となる条件は、
1.パン生地の中心部まで十分に火が通っていること
2.パン生地が収縮し始めていて、内部への力が働いていること
3.パン生地の表面から水分が蒸発する妨げがないこと
と、考えます。
であれば、オーブンから出た直後がベストのタイミングと結論付けられそうです。
至って、ありきたりな結論でしたね。
ところで、パン内部に発生した負の圧力は、一般的には位置による偏りがなく、均一に作用しますので、ショックを行うと即座に大部分の気泡が連通する可能性があります。
逆の言い方をすれば、このタイミングを外すと大きな効果を得ることが難しくなる裏返しとも考えられます。
ですから、先日のトンネル式オーブンの出口で解説したように、このタイプのオーブンには十分な注意を払って運転を操作するように心掛けたいものです。