メディアで紹介されることも多い大阪府堺市の泉北にあります泉北堂は、2007年創業の比較的新しいベーカリーです。
私が学生の頃(ですから、”昔々あるところに”くらいのお話です)にオープンされていれば、近くに住んでいましたので通っていたかもしれません、そのベーカリーでフワフワの食感とずっしりとした重さで現在人気となっていますのが、極食パンです。
今回は、その極食パンのリポートと、デッキタイプの石窯オーブンついて解説していきたいと思います。
【 目次 】
極食パン
2斤サイズの山形食パンです。
製法としては、『生命の命を感じ取る独自』の中種発酵法を採用しているとのことですが、詳細は分かりません。
熱湯で生地を捏ねているそうですので、湯種法?と普通に考えてしまうのですが、あえて湯種法とは記載されていません。
まさかとは思いますが、熱湯で捏ねた後に冷却せずにそのまま本捏ねに入るとか・・・、いやいやさすがにそれはないですよね、パン酵母が失活してしまいますから。
原材料は、小麦粉、牛乳、砂糖、バター、ショートニング、食塩、全粉乳、パン酵母と、シンプルな構成となっています。(保存料等は、一切使用されていません)
そして、とても興味深い配合です。
牛乳を使用して更に生クリームや練乳ではなく全粉乳、バターに加えて無味無臭のショートニング・・・、きっとなにか意図があるのでしょう。
ちなみに全粉乳というのは、牛乳をそのまま濃縮・乾燥させた粉末状の乳製品で、およそ10倍の水を加えることで栄養的にも味的にも元の牛乳に近いものに復元します。
外観
成形方法は俵成形ではなく、玉生地成形で4つ玉を詰めています。
HPを見ましても掲載されている製品側面にケービングの見られる商品が写っていますので、随分オーブンで焼き込んでいることが推測されます。
石窯オーブンで焼成している割には、この製品高さで上面の焼色が抑えられている感がありますので、上火の設定温度はそれなりに下げられているのでは、と思ってしまいます。
製品重量は840g(1斤420g)ですので、山形という事を考えてみましても、随分重い重量感です。
話が飛んでしまいますが、そうして考えてみますと、やはり『ぱんみみ』の食パン(1斤460g)は突出していますね。
そして話を戻して生地上面の光沢ですが、普通に艶出しコートを塗布していると思われますが、もしかしますと焼成時のオーブン投入直後に蒸気を使用しているかもしれません。(焼成初期に蒸気を使用しますと、水分が凝縮する影響で生地重量が一時的に増加します)
山形食パンでの焼成では、ボリューム増や上面の光沢を目的に蒸気を使用することが多々ありますし、表面のシワからも蒸気加熱を連想させられます。
底面
底面にはくっきりと食型のガス抜き穴の跡が付いています。
穴の跡がここまでくっきりと見られること、底面の生地が比較的一様に型に接触していた感じから、最終発酵は随分長めに取っていると推測されます。
それは、窯伸び(オーブンキック)を抑えて、側面のケービング(腰折れ)を防ぐ意味もあるのかもしれません。
断面
山形食パンですので、全体的に気泡サイズは大きく、やや不揃いの状態です。
生地膜は薄く、内相は白くてきれいです。
山形食パンの傾向として製品の上方が収縮している感がありますが、湯種、最終発酵、焼成条件のどれに大きく由来しているかは、やはり不明です。
触感・食感
全体的にソフトな手触りですが、弾力がやや強く、ゴム性が感じられます。
クラスト部はやや引きが強く、歯切れが少々といった感じです。(けっして、食感の良し悪しを言っている訳ではありませんので、誤解のなきよう。あくまで、このような食感と感じましたままの表現です)
この点からも、蒸気加熱の可能性はありそうな気がしています。
風味・食味
食べて感じますのは、ミルクの風味と軽い甘さです。
山形食パンで、この食味は同じ大阪のベーカリー:レブレッソの商品に近いかと思いますが、外観、内相、食感は、まったく異なります。
今では高級食パンも激戦の様相を呈してきていますので、どのようなパンを目指しているか、しっかりとコンセプトが定まっていて差別化が図られている商品が残っていくのでしょうね。
石窯オーブンについて
パン屋さんのこだわりの中でよく見かける文言に、石窯オーブンを使用して焼成している旨の謳い文句をよく目にします。
では、石窯オーブンの特性とは、どのようなものなのでしょうか。
一般的に、言われていますのは、石から放射されます遠赤外線の効果と石が保有している熱エネルギーです。
遠赤外線は確かに放射されますし、石の熱容量が大きく(扉の開閉時でも)壁面の温度変動が小さいことから放射される熱量は安定しています。
ただし、金属パネルのデッキ式オーブンでも遠赤外線は同様に放射できますし、制御が正確で・あ・れ・ば・安定性も問題はありません。
では、石窯の特長はないのでしょうか。
そんなことはありません、石質の単位重量当たりの保有熱量は金属と比較すれば数倍高いので、強力なオーブンキックと高温での焼成を必要とする焼き方をしたい時には炉床が石もしくは石質板のオーブンを採用することをお奨めします。
泉北堂のオーブン
泉北堂のHPに『大谷石の石室窯を採用』と、ありました。
おそらく、コトブキベーキングマシンのデッキ式オーブンを採用されていると推測します(業界の人なら、すぐに分かることですが)。
ちなみに大阪の生食パンベーカリー:乃が美でもコトブキベーキングマシンのデッキ式オーブンを採用しているようですが、こちらは石室窯ではなく、一般的なキャメルオーブンのようです。
このキャメルオーブン、私が知る中では数あるデッキ式オーブンの中でも機能・性能面でかなりレベルが高いことを確認しています。
おそらく、泉北堂では山形食パンの焼成方法に合わせて、石室窯の方を選択されたのではないでしょうか。(あくまで個人の感想です)