黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

中種法と製パン機械設備 ~ 第一醗酵室

 パンを作るための製法は様々ですが、必要とする製パン機械設備は多くが共通して使用されています。

 ここでは、製法ごとに特に必要とされる装置設備を抽出して解説していきます。

 日本の多くの大型の連続製パンラインで、採用されています中種法ですが、これは原材料の一部(一部とは言っても、70%中種法が一般的に採用されていますから、最終生地の半分以上の量となっています)をあらかじめ種としてミキシングしておいて、2~4時間の発酵熟成を行う製法です。

 この製法では、中種の仕込み量も決して少量ではありませんし、なにより発酵に要する時間が長いので、必要とするスペースも当然広く取らなくてはなりません。

第一発酵室

 連続生産ラインでは、中種を降ろしたドウボックスを第一発酵室に並べますので、従来は平面で広い面積が必要でした。

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 それであって、中途半端に天井の高さを必要とする設備ではないため、どうしてもスペース効率が低くなってしまうのが、悩みの種でした。

 実際にどの程度のスペースが必要なのでしょう。

 仮に本捏ミキシングを20分サイクルで行った場合、中種はその半分の10分サイクルで回すことになります(当然、中種ミキサー1台に対して、本捏ミキサーは2台が必要です)。

 つまりロット間にほぼ空き間がなく、連続的に生産した場合、4時間(240分)の第一発酵の時間内に、(240/10=)24台のドウボックスを収容できるスペースが必要であることが分かります。

 上の写真にはドウボックスが10台写っていますので、この2.5倍程度のスペースにドウボックスが並ぶイメージです、いかがでしょうか。

 近年では、自動搬送機能が付いた立体倉庫タイプの第一発酵室を導入している工場もあり、中種ミキサー⇒第一発酵室⇒本捏ミキサーの生地搬送さえも自動化され、省人化が図られています。

 中種法のデメリットに、設備の多さがよく指摘されていますが、実感するところでは機械というよりはスペースといったところかと考えています。

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 一方、店舗や試作室のようなところでは、10ℓ程度の容量のドウボックスを用いてキャビネットタイプの発酵室を使用されている場合も多いかと思います。

 もちろん、中種法のみを用いている訳でもないと思いますので、例えば上写真のような2室独立タイプの発酵室であれば、(冷凍生地の)解凍庫、第一発酵室、フロアタイム用に兼用で使用されていたりもするのではないでしょうか。

 

 

製パン機械設備の実際 ~ 縦型ミキサー

縦型ミキサーの特徴

 最近になって、海外へ行く機会が増えてきましたことから、日本での常識は必ずしも海外で当てはまるということではないことを実感しています。

 ですが、それでも日本式のソフトなパンが高い評価を受けていることから、日本式を意識しつつ各工程で使用する装置について解説していきたいと思います。

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[出典:関東混合機工業]

 中国では、ケーキ用として認識されている縦型ミキサーですが、日本では当然縦型ミキサーがパン用として一般的に使用されているミキサーです。

 参考までに、中国製の縦型ミキサーはボウルの強度や固定の確実性に問題があるようで、仮にパン生地をミキシングした際の故障に関してはメーカー保証の対象外になるとの話でした。

 その特徴は、以前にも解説しましたようにミキシングの際に生地に掛かる圧力が大きな要因として考えられますことに加え、非常に正確な捏ね上げ温度が求められますコントロール面でのニーズによるところが大きいのでは、と考えています。

 つまり、本捏ねミキサーの場合、生地の物性と温度の両方をベストの状態に揃える事が必要になってきます。

 仮に、生地がまだできあがっていない時点で温度が捏ね上げ温度に達していた場合、同時に冷却を掛けなければ、更にミキシングを続けてしまいますことで、当然のことながら生地温度は目標とする捏ね上げ温度を超えてしまいます。

 ボウルが回転しているスパイラルミキサーではミキシングをしながら生地を冷却することは困難ですが、縦型ミキサーであればボウルの底を氷水で冷却することで生地温度をコントロールすることができます。

 これは、作業上の問題ではありますが、根本には正確な生地温度が再現できてこその日本式のパンの品質と捉えられるのではないでしょうか。

 

コートという単位

 小型のミキサーには、ボウル容量の単位でコートという単位が良く使用されています。

 これはヤード・ポンド法における体積の単位「quart(クォート)」のことで、1ガロンの4分の1を意味しています。

 1コート=0.946ℓ ですので、例えば 30コート=約30ℓ と覚えてもらえればいいと思います。

 そして、おおよそですが、ボウル容量30ℓ(コート)のミキサーであれば、吸水率68%のパン生地の場合で、0.3×25kg = 7.5kg程度までの粉を含めた固形物を一度に仕込むことができ、12kg程度の生地ができます。

 一般的には、1台の縦型ミキサーで、例えば20コートと30コートのミキサーボウルを使用できるようになっていますので、仕込み量に合わせて使い分けるようにするといいと思います。

 当然ですが、ボウルを替えた場合には、ミキサーフックもそのサイズに合ったフックを使用しますので念の為。

 

 

ベーカリーチャイナ ~ 2日目:日本企業も頑張ってます(機械メーカー編)

 ベーカリーチャイナ2019の報告ですが、最終の今回は日本の機械メーカーをリポートします。

 コピーをされてしまうと、どうしても中国製品に価格面でハンディを負ってしまうのが製パン機械設備の実状ですが、精度や耐久性まではまだまだレベル的に優位にあるようです。

 加えまして、装置の設計にあたってのソフト面の配慮がされている点で、表には出にくい部分で日本製品の評価は高いと感じています。

マスダック

 マスダックのブースでは、スフレケーキの連続生産ラインがデモンストレーションで製品を製造していました。

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 安定したスフレケーキがサンドイッチの形状になって作り上げられていく状況は、中国でも注目されていました。

 思えば、単体の菓子の機械設備はこの展示会でも多く目にしましたが、連続生産ラインとなりますと極端に数が減ります。

 それだけ、ラインの設計にはノウハウが含まれていると感じました次第です。

 しばらく、ブースの周りで眺めていますと、中国の人から質問を受けている光景に出会いました、『このライン、いくら?』、やっぱり金額が気になるみたいです。

三幸機械

 三幸機械は、中国に製造拠点を持っていて、中国での展開を図っています。

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 なんでも、前回の出展時にブースでの製パンのデモンストレーションが非常に好評だったとのことで、今回も実際にパンを作りながらの出展です。

 三幸機械は、国内のモバックショウ等の展示会でも同社オーブンを使用してのデモンストレーションを実施していますので、要領は熟知しているのでしょう。

 スタッフの人に聞いたところでは、やはり展示会場で参加者の目を引く工夫が必要とのことで、普通は見られないカラフルなオーブンも展示したということでス(写真では、デモンストレーションの奥に少し写っています)。

 前述のように、三幸機械は中国国内に生産を有していますので、日本では炉床に使います高価な天然石も、返って中国では安価に入手することができるそうです。

 当然、その材料を日本へ持ってくることも可能な訳で、同社の天然石仕様の炉床のオーブンが他社と比較して廉価に提供できる所以がここにあります。

レオン自動機

 非常に多くの中国メーカーが、その機械仕様を模造した装置を開発しているのが、レオン自動機です。

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 以前には、同社の包餡機『火星人』をコピーした機械装置は100社を超えるメーカーが製造していたそうです。

 現在でも、多くのブースで同様の装置を目にしますが、非常に淘汰されてもこの数なんだとか。

 同社の製品はそれなりに知っているつもりですが、最新の装置はこの展示会でお披露目されることはなさそうです。

オシキリ

 製パン工程の全ラインに対応する機械設備をラインナップに揃えますオシキリも出展しています。

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 今回出展していたのは、横型ミキサーや食パンのスライサーといった装置類で、今や同社の代名詞となっていますジャイレーター:カップ式ラウンダーは見ることができませんでした。

 ちなみに、日本の展示会では一般的にご法度となっています写真撮影も、この展示会ではほとんど問題はありませんので(私も日本の展示会では遠巻きにブースの写真程度しか撮れませんでしたが、今回は多くの装置を間近で撮影できました)、それなりに枚数が増えました。

 ただし、今回の日本企業のブースでの写真は、ちゃんとブログ用と許可を頂いて撮影しています。

 総じて、日本メーカーの装置は高額ながら、精度が高く、耐久性も(装置によっては)中国製の5倍以上稼働するとのこと。

 2倍の金額を払って、5倍の期間使用できる装置ということで、中国での評価も年々変化が見られているとのことでした。

 

  

ベーカリーチャイナ ~ 2日目:日本企業も頑張ってます(原材料メーカー編)

 2019年5月6日より4日間の日程で、上海浦東新国際博覧中心にて開催されました製パン製菓関連の展示会:ベーカリーチャイナ2019ですが、会場は、原材料、機械設備、包装関係に分かれていて、例えば五つあります機械関係の会場のひとつでさえ、東京ビッグサイトの各ホール以上の広さがありそうです。

 そのような訳で、とても1日ですべてを見て回ってくるのは会場に入って早々に無理と判断しました次第です。

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 そのような広大な展示会場で、日本企業も複数出展していましたので、そのような日本企業についてリポートすることにしました。

 今回は、原材料メーカーを紹介します。

不二製油(すみません、写真を取り忘れました)

 不二製油は中国へ進出し、油脂類の製造・販売を行っていますが、やはり事情は日本と少し異なっているようです。

 中国のパン製品に使用する油脂には、マーガリンが多用されています。

 日本ではパンの風味と言いますと、長時間発酵法によります熟成したアルコール臭やストレート法によります小麦の風味を楽しみますが、中国では小麦の風味を楽しむ習慣はまだ馴染みが薄いようです。

 そのため、無味無臭のショートニングを使用することがあまりなく、フレーバーの効いたマーガリンが好まれるとのこと。

 なんでも、中国では通常中国産の小麦がパンに使用されるそうなのですが、この小麦の風味があまり好ましいものではないとか。

 追って、中国産の小麦に関しても調べてみたい気がしています。

 余談ですが、ここのブースの周囲では、あたり構わず大音量で音声を流しているブーが密集していて、とても会話になる環境ではありません。

 運営サイドも、もう少し周囲への配慮を検討してもらえれば、と思った次第です。

理研ビタミン

 原材料メーカーが乱立する中国にあって、生地改良剤のように幾多のテストを経て改良が加えられたような原材料には、データの蓄積がある日本企業に一日の長があるようです。

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 理研ビタミンの製品も中国市場には広く浸透しており、生地物性、製品のソフトさ、日持ち等に多大な効果が認められています。

日清製粉

 中国産小麦が主に流通しています中国市場において、日本式の製粉技術で差別化をPRしていますのが、日清製粉です。

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 ブース内に入りますと、向かって左側には様々な成形方法を施した食パンの数々が並んでいます。

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 そして、何気にブース内の表示が日本語になっているところも、日本式を印象付ける構成になっているかと…。

 先の中国のパン事情でもご紹介しました通り、日本式の評価は至ってポジションにありますから。

 

 

街のパン屋さん ~ 豆一豆 から ブーランジェリー セイジ アサクラ へ

品川エキュートを歩いていると…

 『小麦と酵母 満』の食パンを購入して近くを歩いていると、ふと目に留まったあんパン屋さんがあったそうです。

豆一豆

 まめ - まめ? まめいちまめ? お店の名前は、なんて読むのだろう?

 正解は、『まめいちず』です。

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 東京駅の文字が焼き印で付けられています、このお店の一番人気「東京レンガぱん(287円 税込)」は、小豆が混ぜ込まれた生地の中に赤練り餡と白餡入りのオリジナルクリームの2層構造のあんぱんです。

 看板商品の東京駅の赤レンガをモチーフにしたあんパンですが、外観は上下面に焼色が付いていて、側面は薄っすらと付いている程度です。

 あんパンとしましては珍しい角形の形状に、(側面が白いことから)見た目にソフトなイメージが伝わってきます。

 おそらく、金属や樹脂のケースではなく、金属枠を使用して平天板に並べ、発酵・焼成を行ったのでは、と思います。

 このような製品は下火が十分に効いていますので、見た目の薄い焼色以上に火通りはしっかりとしていて、まったく問題ありません。 

BOULANGERIE SEIJI ASAKURA(ブーランジェリー セイジ アサクラ)

 品川駅北口を出て、品川プリンスの横を通って高輪警察署と消防署を過ぎたところにブーランジェリー セイジ アサクラがあります。

 こちらの食パンも、雑誌「&Premium」(アンドプレミアム)が選んだ、『日本の食パン 名品10本』に選出されているのですが、その商品はとても個性的です。

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 ここのベーカリーは、自家製酵母を使い分けているとか、種に非常に強い思い入れがあることが感じられます。

 それは購入してきたパンを見て、ある意味、日本人気質とは少し異なった感覚でパンを仕込んでいるように思えてきたことに因ります。

 まずは、名品10選に選出された食パン(アロマホップ生クリーム食パン(389円 税込))ですが、外観や内相以上に風味を最優先している印象を受けました。

 ある意味、支持されるお客さんも分かれると思いますが、店舗の個性・カラーが全面に出されていて、とても好感が持たれます。

 このような主張のあるパンは、私も好きですし…。

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 その他に気になったところで、発酵バターを使用していますクロワッサン(275円 (税込))とアサクラ人気No.1のチーズカレー(346円 (税込))を購入しました。

 クロワッサンは、作り手のこだわりが見た目の外観にそのまま出てきますので、食パンに次いでよく購入する製品です。

 サックリした食感と食味、発酵バター由来の風味は、満足できるものです。

 そしてチーズカレーは、スイス産のグリュイエールチーズを使用しているとのこと。

 ヨーロッパでは、チーズフォンデュラクレットといった主に調理用に使われる材料です。

 このチーズを選定した理由は直接作り手の方に聞いてみないと分かりませんが、きっと強いこだわりがあるのでしょうね。(…やっぱり風味?)