まだ、ブログを始めて間もない頃、本当に拙(つたな)い内容ながら当時はそれでも頑張ってまとめていました冷凍生地製パン法について、今回、改めて刷新しています。
この製パン法が脚光を浴びてから、既に40年ほどの時間が経ちますものの、未だに未解決の課題も残っています。
今後の発展につながると信じて、今回は製造条件の中でも比較的地味な冷凍パン生地の保存条件(物流を含む)に付いてまとめることにしました。
【 目次 】
冷凍保存での適正条件って何?
冷凍パン生地を取り扱います際に、冷凍や解凍の工程は操作が入りますので、留意点が色々と出てくるイメージがありますが、保存工程は冷凍されていればいいんじゃないの程度と思われがちです。
冷凍でも、保存でも、解凍でも、目的はパン生地中の氷結晶を成長させない、パン酵母を失活させないといった条件は同様です。
しかしながら、現実問題として冷凍庫の扉の開閉や物流段階での冷凍庫⇔搬送車の積み換え等、一定の温度で生地を保存することはまず不可能ですので、やはり気を付けるべき点はしっかりと押さえておく必要があります。
それでは問題です
下の図に示されています①~④の4つの冷凍保存条件の内、最も適正な保存条件はどれでしょう?
仮定としまして、すべてのテスト区で常時凍結温度以下には保たれています、①②は酵母の失活温度以上、③はその温度を跨いでおり、④はその温度を下回っています。
そして、変動する温度幅はどのテスト区も同等とします。
解答
あえて、この中で最適な条件を選ぶのであれば、答えは②の条件です。
解説をしますと、氷結晶の成長の観点から見ますと④がベストですが、④はパン酵母の失活温度を下回っていますので、コンボへの障害が生じます為、良好な条件とは言えません。
そして、③の条件は最悪です。
パン酵母は失活温度以下で障害を受けると説明しましたが、障害は失活温度を下回るという操作で発生しますので、これを繰り返されることで障害の程度は悪化します。
①②はパン酵母の失活温度に至っていませんので、酵母への障害は免れますが、①は温度が高いことで同じ温度幅の変動でも、氷結晶の成長が早くなります。
どうして、同じ温度幅なのに高い温度の方が氷結晶の成長が早くなるのでしょう。
これは、凍結温度が -3.15℃の冷凍パン生地に関して、凍結率(物質中の液体が固体に凝固している割合)を示したものです。(グラフでは、点線のハイスの式を参考にして下さい。コンピューターシミュレーションの入力値に使用しました値も載せていますが、後日の解凍条件で説明しますので、今回はスルーして下さい)
-10℃では70%弱、-20℃では82%程度の凍結率となっていることが分かります。(ちなみに、マグロ等の遠洋漁業で使用されている冷凍庫の温度が-50℃というのは、凍結率がほぼ100%に近い事から設定されています。一方、某電気家電メーカーの冷凍冷蔵庫で『切れちゃう冷凍』といった謳い文句の機能がありますが、これは-10℃以上で凍結率を下げて包丁を入れやすくした結果です)
つまり、同じ温度の変動幅であったとしても解凍される氷の量は-20℃より-10℃の方が大きいことから、氷結晶の成長を促す結果となってしまいます。
この数値を基に、氷結晶が成長していくメカニズムを解説しますと、次のモデル図のようになります。
大小さまざまなサイズの氷結晶が混じっている状態でパン生地の温度が上がりますと、どの氷結晶に対しましても解凍が進みますが、小さなサイズの氷結晶は持っている熱容量自体も小さいので、解凍は進み易く、さらに進みますと結晶自体が消失してしまいます。
そして、次に温度が下がった場合、残っています氷結晶は同様に成長しますので、焼失した氷結晶分だけ残った氷結晶は大きく成長することになります。
追記ですが、今回のテスト区を無視して最適な冷凍保存条件を同じ温度変動幅の条件で示しますと、上グラフの紫色ののようなラインとなります。()
なお、そんなに心配するほどパン生地の温度が変動するの?、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、少し物理的な数値を以下に示します。
・パン生地の比熱 : 冷凍前 ⇒ 冷凍後 1/2~1/3に低下します。
・パン生地の熱伝導率 : 冷凍前 ⇒冷凍後 2~3倍に上昇します。
つまり、水分を含みます大方の物質は同様の傾向を示しますが、パン生地を凍らせますと、凍る前と比較して『熱の影響を2~3倍受け易く、熱の伝わりも2~3倍速くなる』ということになります。
(イメージです)
重宝されている冷凍パン生地ですが、守るべき注意点は確実に押さえて使用して頂きたいと思います。
まとめ
1.冷凍パン生地の一部は、常に解凍されている。
2.パン生地は冷凍状態にあると、熱の影響を受け易くなる。
3.生地温度の変動があった場合、低い温度帯の方が障害は少ない。
4.ただし、パン酵母の失活温度を跨いだ温度変動は著しくパン酵母へ障害を与える。
5.冷凍耐性のあるパン酵母であれば一般的な冷凍庫での保存に大きな問題はないが、失活温度が高い場合には保存温度も酵母に合わせて高めに設定する必要がある。