黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

『おいしいパン』の為、冷凍パン生地の解凍方法を科学する ~ 冷凍生地製パン法⑤

 これまで、冷凍生地製パン法(生地玉、成形冷凍)の冷凍と保存の条件に付いて解説してきましたが、今回は解凍の条件に付いてです。

 

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 ところで、冷凍生地の解凍は多くのケースで、生地を作った人と別の人が行います。

 

 つまり、様々な多くの作り手が生地解凍後の工程で携わる環境の中で、ポイントを押さえて確実に良好な製品に仕上げられるための解凍条件が求められます。

 

【 目次 】

 

冷凍生地製パン法の工程

 先述にもありますように、冷凍生地製パン法では一般的なストレート法の工程中、丸目、もしくは成形まで進んだパン生地を一旦冷凍して、保存、解凍します。

 

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 解凍作業としては、冷凍庫から必要数のパン生地を取り出してトレーに並べ、乾燥しないようにカバーをして解凍庫に挿入するか、ラック置き(自然解凍)します。

 

パン生地解凍中の温度変化

 大まかなパン生地の温度は下図のような変化を辿りますが、私が最初に気になった点は『冷凍時の温度変化を上下に反転させたグラフ形状にはならない』といったことでした。

 

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 少し面倒な話ですみません、冷凍時には凍結温度にしばらく留まっていた後に凍結完了後ゆっくりと温度が低下していきますが、解凍時には凍結温度に留まることはなく、その温度にまで上昇したところで、直後、急激に温度上昇します。

 

コンピューターによる数値シミュレーション

 この傾向は、数値シミュレーションを行った結果からも見て取ることができます。

 

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 上のグラフは冷凍パン生地を解凍した時の生地温度の変化を実測値と共に計算結果を併記したものですが、計算の条件に凍結率を考慮しないと冷凍時と同様に凍結温度で温度変化が止まってしまいます。

 

(凍結率に関しては、保存条件に関する記事中で解説しています)

www.santa-baking.work

 

 ところが、ちゃんと凍結率を計算条件に加えたシミュレーション結果では、解凍の時間がずれてしまいましたものの、類似した傾向を求めることができました。(これで、幾等かは計算結果の信頼性が高められたのでは、と思います)

 

テスト条件

 実際に解凍条件の異なる冷凍生地を使って、パンを焼いてみます。

 

 使用しましたパン生地の凍結温度は-3.2℃で、解凍の条件としては、

① 3℃

② ‐3℃(14時間) ⇒ 3℃

③ ‐3.5℃(14時間) ⇒ 3℃

④ ‐5℃(14時間) ⇒ 3℃

の4テスト区で、外観形状、内相、梨肌、生地のガス保持率、等を比較します。

 

 結果は、③ < ④ < ②・① でした。

 

 結論として、凍結温度の少し低い温度帯で氷結晶の成長が進んでしまうと、やはりパンの生地構造が破壊されてしまうようです。 

 

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 これまでの生地では、シミュレーションによります生地内の温度分布等を示してきましたが、今回は『最大氷結晶生成帯(凍結温度とそこから-4℃の温度帯)の滞留時間の分布』のみに絞りました。

 

 改めまして上のグラフですが、①と④の条件のもので、④では長時間に渡って最大氷結晶生成帯に滞留していることが分かります。

 

 なお、グラフの形状としてはほとんど分布がない平面のようなグラフ形状で、見ていてもちょっとつまらないですね。

 

 凍結しているパン生地は、凍結前と比較して比熱が小さく、熱伝導率が高いことから、温度が変化し易くなっていることが理由と推測します。

 

まとめ

① 冷凍パン生地を解凍する際の適正な条件とは、解凍開始直後から凍結温度以上の温度で常時加温する。

 

といった、至ってシンプルで当たり前のような結論に落ち着きます。

 

 すべてのパン生地の凍結温度を調べた訳ではありませんが、食パンで‐3.2℃、油脂類の多いペーストリー系で‐5~‐6℃ですから、安全率を見込んで3℃で温度設定すればほぼどのような配合の生地であっても良好に解凍できると思います。

 

 なお、解凍時にも熱伝導率の高いトレーにパン生地を載せて作業することが有効であることは、冷凍時と同様です。

  

小麦の匠(パスコ)

 私が、テストでデータを取る時に主に使用しています冷凍パン生地は、パスコの『小麦の匠』という食パン用の冷凍生地です。

 

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 内容量は 48個/箱、標準重量は 150g/個で、価格は 2,700円/箱(税込 2,916円)です。(仮に8玉で3斤サイズの角形食パンがきれいに焼けたとして、1本分の冷凍生地代が450円、1斤で150円となりますね。)

 

 少し前までは、1箱でも配送してくれていましたが、最近は2箱以上となっています(送料が無料ですので、あまり贅沢は言えません)。

 

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(現在、成行き上、8玉使用で比容積:4.84の超軽い角形食パン作り(一般的には、3.8~4.0)にチャレンジしています。クーリング後に凹まない作り方を模索中。なお、けっして研究発表はしませんが・・・。)

 

 仕事場にはプログラム可能なドウコンディショナーのような機器は持ち合わせていませんので、解凍は室温解凍(2.5~3.0時間)で行い、生地温度が+10℃程度になったところで、再丸目を行います。

 

 再丸目後の工程は、[ねかし]⇒[成形]⇒[最終発酵]⇒[焼成]⇒[クーリング]で、再丸目~焼成終了までは3時間弱で進んでいきます。

 

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 クーリングには100分ほど掛かりますので、その間に温度・熱流束等の計測データをPCに移したり、家族へ『食パン焼けたよ~!』とLINEを送ったり(これ大事!)・・・。