冷やさないパンなんて普通でしょ、と思いますよね。
ですが、くりーむぱんの八天堂が手掛けますとイメージが変わってしまいます。
たまたまスーパーの棚で見掛けました八天堂の極くりーむぱんと極あんぱんを紹介しますと共に、パンを保管する際の温度に関して解説を加えたいと思います。
【 目次 】
パンをストックする際の保管温度について
あるドラッグストアのパンコーナーでこのようなキャッチを見掛けました。
『冷やしておいしい』といった文言に加えまして、雪の結晶のデザインも。
ここで言う『冷やす』とは、凍らせるという意味でしょうか。
写真の商品は、デコ缶を使用してバッター生地を焼成した洋菓子ですが、パンや菓子の小麦製品を保存する温度について考えてみることにします。
まずは、食品衛生面での温度です。
一般的な常温での保管の場合、30℃程度がカビ菌を始めとする細菌がもっとも活動し易い温度となっています。
そのため、多くのホールセールベーカリーではこの30℃での保存テストを行っています。
ただし、室温がそこまで上がる可能性の低い晩秋から春先の時期(11月~4月)は、少し温度を下げて、25℃での条件下で消費期限が確保できるよう品質管理に努めています。
蛇足ですけど、更に条件的に厳しい真夏の時期には原材料表示に注目して頂きますとちょっとした違いが見られることもあります。
次に冷蔵温度帯ですが、これは10℃以下(JAS法)で食品が凍らない温度帯となりますが、実はこの温度帯はデンプンのβ化(老化)の速度が高く、保存に向く温度帯ではありません。
購入されて、長い時間を置かずに食べられる洋菓子等はクリーム等の品質管理と併せて、適用される温度帯です。
その意味では、八天堂のくりーむぱんは画期的なチャレンジの商品と言うことができます。
最後に冷凍の温度です。
一般的なパン生地の凍結温度は、リーンな配合の生地で‐3℃程度、デニッシュペーストリー等のリッチな配合の生地では‐7℃程度まで低下します。
ここで、問題となってきますのは『凍結温度以下でもすべての生地が凍結していない』という点です。
なに言ってるの?、と思われた方もいるかもしれませんが、水分を含んだ食品は上グラフのように温度によってどれだけ凍結しているかといった凍結率が変化します。
温度の低下と共に凍結率は下がっていくのですが、遠洋漁業でのマグロの凍結を‐50℃程度で行いますのは、この温度まで下がってきますと、ほぼ凍結率が100%に近くなってきて、温度変動による融解・凍結の影響が微小になってくることによります。
もっとも、一般的な単段式冷凍機の冷媒の凝集温度が‐40℃ということを考えますと、冷凍食品は‐18℃以下(冷凍食品自主的取扱基準)、あるいは‐15℃以下(食品衛生法)に安全率を考慮した‐25~‐30℃程度が実用的な冷凍温度帯かと思われます。
ちなみに、パン酵母の失活温度は私が知る限りでは‐30数℃レベルの菌が開発されています。
極くりーむぱん(200円 税別)
包装商品のパンで高額な価格ですから、包装のパッケージもそれを意識したイメージとなっています。
ところで、原材料表示を見て不思議に思いましたことが一点。
後で気が付いたのですが、小麦粉が使われていません。(『一部に小麦』の記載は、手粉等を含めましたライン由来と解釈しました。)
いや、あれは100%米粉パンの食感ではなかったと記憶しているのですが、このパンが小麦やグルテン不使用のパンだとしたら、かなりの衝撃です。
外観
艶出しの塗り玉は、塗り方が少々乱暴な気がします。
手塗りではなく、装置に流しているのかもしれません。
側面を見てみますと、波上のプレスが入った型に詰められていると推測します。
波の形状がはっきり出ていますので、シリコンケースのようなものではないと推測します。
生地の型離れが、所々歪な状態になっています。
離型油を塗布するのも大変ですね。
底面の焼き色は、側面よりやや濃い程度で上面と比較しますとずいぶん薄いので、もしかしますと天板にセパレートの型を並べて最終発酵と焼成を行っているのかもしれません。
内相
卵が効いているためか、クラムの色は黄色味が掛かっています。
小麦粉使用のパンのように、気泡膜は薄く、気泡サイズも大きいのですが、グルテンフリーでここまでの内相を初めて見ました。
フィリングのクリームは、中央の位置にきれいな球状で充填されています。
底面に綴じた跡もありませんし、レオン自動機の包餡機を使用している?
違いますね~、通常ですと米粉100%の生地はバッター生地でしょうから、どのようにして包餡しているのかも私の考えが及びません(不勉強ですみません)。
風味・食感・食味
生地の食感は内相の先入観があるのかもしれませんが、ブリオッシュ生地を彷彿させるような歯切れとソフトさでした。
そして改めまして、これまでの100%米粉パンの食感では経験したことがなかったような気がしますし、ここまで軽く、そして薄い気泡膜と大きな気泡で膨張させる技術があることを知りませんでした。
極あんぱん(200円 税別)
包装のパッケージは極くりーむぱんと同様ですが、カラーがピンクです。
そして、原材料表示には極くりーむぱんと同じく、小麦粉の記載はありません。
外観
ゴマ付けの位置が、中心から少々ずれています。
焼色は、やや濃い目でしょうか。
側面を見てみますと、けっして乱暴に扱った訳でもないのですが、形状が崩れています。
包装紙のサイズ設計では、断面の外周の長さを基本に考えられますが、このように高さを出す製品については別途考慮されるべきと思います(もしくはマチを付けるとか)。
底面の焼き色は、極くりーむぱんと同様ですが、こちらのあんぱんには底に綴じた跡らしきものが見えます。
手包みなのか、分からなくなってきました。
内相
くりーむぱんも同様でしたが、フィリングの上部に空洞が空いておらず、パン生地とフィリングが密着しています。
空洞ができるメカニズムを考えていきたいですね。
確立できれば、空洞を作らない製法につながりますから。
風味・食感・食味
しっとりした軽い歯切れの食感です。
やはり、この極あんぱんも従来の100%米粉パンの食感ではなかったような。
まさか、前提のバッター生地というところが違っているとか・・・勉強します。
あとがき
20年前の今日2001年9月11日は、アメリカ同時多発テロが起こった日ですが、その時私は成田発米国ラスベガス行きの飛行機の機内にいました。
企業業務で、展示会での情報収集と市場調査が目的でした。
日が明けてもう少しで到着という頃、機長からの機内アナウンスで米国の全空港がテロで閉鎖されて降りられない、と。(結果、カナダのバンクーバーに着陸。)
とんでもない出張となりましたが、1週間後にはニューヨークへ移動の予定でしたので、最悪の事態は免れたと、プラスに考えようと思っています。