黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

生地吸水の常識を考える ~ 100(ワンハンドレッド)食パン・ESPRESSO D WORKS

 今年の10月、名古屋・久屋大通にESPRESSO D WORKS 名古屋がオープンしました。

 

 この店舗では、100(ワンハンドレッド)食パンという食パン(プレーン&純生 2斤 800円 税別)が販売されているのですが、その特徴は商品名の通り、生地吸水が100%との事。

 

 パン業界の常識に囚われていると、この吸水100%がどれほどとんでもないことかといった解説をしていきたいと思っています。

 

【 目次 】

 

生地吸水について

 製パンする際の吸水は、作業性や製品品質を検討するうえで非常に重要な項目となります。

 

 例えば、これまで湯種法が一般的な製法となりましたのも、理由のひとつに吸水を上げてパンのソフトさを上げ、維持する目的があればこそです。

 

 ここに一般的な中種法によります配合を示します。

 

食パン配合

 

 パン業界では配合を、小麦粉量を100%として(表の赤文字を参照)他の原材料の比率を表示するBakery % が一般的に採用されています。(ちなみに中国のあるベーカリーへ行きました折、配合が世間一般的な全量を100%とする表となっており、慣れない対応に苦労したことが思い出されました。)

 

 中種法では一般的な吸水は68~70%が適量と言われています。(ストレート法では、この+1~2%程度)

 

 それとドライイーストを使用する場合は、重量が生イーストのおよそ1/2になります。

 

 ちなみに小麦粉を1kgとすると、最終的に1.85kgの生地ができますので、210gで分割すれば、シリンダーゲージ用の生地100gを取っても、2斤サイズ(210g×4玉)の食パン2本が作れる計算となります。(細かい計算は省略)

 

 ところで、この生地吸水の基準なのですが、これがパン業界の不思議なところで、優先されるのが製パン性というところにあることかと思います。

 

 結果的には製品品質にも関係してくるのですが、吸水を上げ過ぎるとミキシングでの生地のまとまりが遅れ、捏ね上げ時のポイントの見極めが困難になったり、とにかく生地のベタつきは最たるもので、作業性が極端に下がります。

 

 私自身、過去には吸水80%で角形食パンを仕込んだことがありますが、もう作業場は悲惨なものです。

 

 まだまだ、いい足りないところは山ほどあるのですが、文章ばかりでは目も疲れそうですので、そろそろ100(ワンハンドレッド)食パンのリポートとまいりましょう。

 

100(ワンハンドレッド)食パン・プレーン

 愛知と東京で店舗を展開するESPRESSO D WORKSが、世界一ふわふわの食パンと銘打って「100 one hundred (ワンハンドレッド)」という角形食パンを販売しました。

 

 その特徴は、商品のネーミングの通り、生地配合の吸水を100%としたものです。

  

ワンハンドレッド食パン

 

 その店舗が東京の渋谷・池袋に続いて名古屋にオープンしたとの衝撃的なニュースに、いてもたってもいられず、即購入・・・を今回も家族にお願いしました。(いつも、ありがとう! 感謝しています。)

 

外観

 ESPRESSO D WORKS のキャッチコピーでは、パンは水分が多ければ多いほど柔らかくなります、とのことですが、これは理想的な内相ができた前提のものであって、例えば生地吸水の多いイングリッシュマフィンやリュスティックのようなパンの食感をどう捉えるか、といった疑問も持っていました。

 

 前述にもあるように、生地吸水は無理に増やそうとすれば、いくらでも増やせるのですから。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 2斤サイズとしては、やや細長い形状で、濃いめの焼色が付いています。

 

 上部のホワイトラインが潰れていますが、これは上下逆さまにクーリングを取ったからでは、と推測します。

 

 なぜかは、後ほど理由が見えてきます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 成形は俵成形3玉で行っているようですが、側面の生地端の形状が不安なこと、最終発酵の後に膨らみの跡が小さいことから、非常に柔らかい生地であることが推測されます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 そして底面を見てみますと、明らかに焼色が薄くなっています。

 

 おそらくオーブンの下火の設定温度を落として焼成しているのでしょう。

 

 このような焼成の理由は分かりませんが、結果的に食パンの下部のクラストが薄くなり、強度も弱くなりますので、クーリングの際には強く焼いている上部を下に向けて行っているのでは、と推測します。

 

 細長い外観形状も形状を保つため、とも考えられます。

 

内相

 スライスしてみますと、肌目は縦に伸びている訳ではありませんものの、予想に反して(失礼しました)気泡は細かく、膜も薄く感じます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 周辺部にところどころ見えますカギ穴は、柔らかい生地の物性によるところなのでしょう。

 

食感・食味

 食べてみますと、たしかに他の食パンでは経験できないもっちりとしたソフトさが感じられます。

 

 一般的な多加水生地のパンで、肌目を細かくしたイメージの食感です。

 

 きっと好みは分かれると思いますが、この食パンを食べたい人にとっては、ワンハンドレッド食パン以外に、この食感は出せていないと思いますので、差別化という意味では大成功の商品ではないでしょうか。

 

 ところで、ひと通り調べてから、製品重量の測定を忘れていたことに気が付きました。

 

100(ワンハンドレッド)食パン・純生

 言い訳にはなってしまうのですが、このワンハンドレッド食パンを持った際に、普通の重量感だったことから、つい重量から気がそれてしまいまして・・・。

 

 と、いう訳で、改めて別の日に再度ワンハンドレッド食パンの購入・・・をまたまた家族にお願いしました。(何度も何度もすみません。)

 

 今回は、純生という少々甘口の食味のアイテムです。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 6gの包装紙・クロージャー付きで699gですので、2斤で693gとなります。

 

 1斤は340g以上(2斤で680g以上)ですので、表示法上はギリギリセーフです。

 

 やっぱり、重量が重い(比容積が低い)わけでもありません。

 

外観

 糖の量が多いからでしょうか、プレーンと比較して濃い焼色となっています。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 そして、やっぱりホワイトラインは潰れ、角の部分には火膨れも見られます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 側面を見ましても下部の焼色は薄く、上部が濃くなっています。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 もしかしますと、配合を変えても同じ焼成条件で焼いているのかもしれません。

 

内相

 膜は薄いのですが、内相は少々荒れ気味です。

 

ワンハンドレッド食パン

 

食感・食味

 食感は、プレーンと同様独特のもっちりとしたソフトさが前面に感じられます。

 

あとがき

  パンに精通している人がこの食パンを見たら、もしかしますとパンと認めてくれないかも、とも思ってしまう程です。

 

 でも、今のマーケットのヒット商品には他にも、これまでのパン業界の常識を覆すような商品がとても目につきます。

 

 古い常識に縛られてばかりでは、新たなニーズにも応えられない時代になってきているのかと思う次第です。

 

 ちなみに、吸水100%で製パンするためのポイントですが、おそらく小麦粉では、と推測します。

 

 さらに言及しますと、小麦粉の挽き方とか、デンプンの状態とか。(直接は聞けませんので、あくまで個人の私見です。)

 

 改めて、声を大にして言いたいのは、ワンハンドレッド食パン以外に、私はこの食感を経験したことがありません。

 

 好みは分かれると思われますが、唯一無二の商品なのではないでしょうか。

 

予告(パスコのコオロギカフェ)

 先日パスコから食用コオロギパウダーを使ったフィナンシェとバゲットが数量限定で発売される、とのニュースが流れてきました。

 

 予約受付は、2020年12月1日(火)よりPascoのオンラインショップ限定で、「Korogi Cafe(コオロギ カフェ)」シリーズの「コオロギのフィナンシェ(2種)」と「コオロギのバゲット」とのことです。

 

 配送は、12月20日、21日の予定となっており、とりあえず、コオロギのバゲットを1本、20日配送希望で予約しました。(ちなみに家族の反応は・・・あまり芳しくないようで(泣))

 

 でも、こちらも唯一無二?