日本でベーカリーにカフェスペースを併設したベーカリーカフェという新しいスタイルを1983年にスタートさせましたヴィ・ド・フランスは、現在、全国に約270店舗を数えるまでに至っています。(下写真は、一昨年の北海道出張時に立ち寄りました羽田空港内のヴィ・ド・フランスです)
そのヴィ・ド・フランスを支えている技術のひとつが冷凍生地製パン法であろうことは容易に推測でき、そこから波及して、現在同社は社外のリテイルベーカリーへの業務用冷凍パン生地の販売を手掛けるようにもなっています。(同社の業務用冷凍パン生地通販ネットショップHPより)
今回は、ヴィ・ド・フランスの商品のご紹介とこれまで進化を続けてきました冷凍生地製パン法の内、保存方法について解説します。
【 目次 】
- 冷凍生地製パン法
- ヴィ・ド・フランスで、今回購入した商品
- 優煌(ゆきら)食パン(400円 税別)
- 津軽産アップルパイ(ハーフ)(500円 税別)
- あんクロワッサン(140円 税別)
- デニッシュホーン(巨峰)(240円 税別)
- あとがき
冷凍生地製パン法
冷凍生地製パン法とは、パン生地をミキシング・分割後、丸目や成形他まで工程が進んだ段階で一旦冷凍して進行を止め、適宜の時間を空けて解凍した後、残りの工程を進める製パン法です。
私は30年ほど前に、この製法の仕事に携わってきましたが、当時とは比べ物にならない程、現在の製品レベルは向上していて、スクラッチで作る生地にもけっして引けを取らないと感じています。
さて、この製パン法には、[冷凍][保存][解凍]の各プロセスにポイントとなります条件がありますが、今回はその中の保存条件に付いて、少し触れていきます。
近年、冷凍食品全般の品質向上は目を見張るものがあり、冷凍パン生地自体もスーパー等で販売されていますので、店舗のベーカリーのみならず家庭でも冷凍パン生地を扱う機会がありそうです。
ところで、冷凍庫の中に保存されているパン生地は完全に凍結していないということをご存知でしたでしょうか。
パン生地に限らず、多様な成分が混合されている食品には温度によって凍結率(凍結している割合)が異なっていて、当然低温下においては、より凍結率が上がり、完全に凍った状態に近づきますが、一般的な冷凍庫内では100%に至ることはまずありません。
冷凍食品は業界の自主基準により-18℃以下での保存、流通が要件として定められています(食品衛生法で示されている基準は、-15℃以下)が、より厳格な状態が求められます遠洋漁業のマグロの凍結保存には-50℃程度、(少し逸れますが)昨今のコロナワクチンの保管温度は、ファイザー社製で−75℃(±15℃)、モデルナ社製で−20℃(±5℃)、アストラゼネカ社製で+2〜8℃(それぞれ6ヶ月間の保管が効くとのこと)で運用されています。
ただ、一般的な冷凍機におけます冷媒の蒸発温度が-40℃程度ですので、特殊な冷凍機器を使用してもなお、いかにファイザー社製のコロナワクチンの取扱いが難しいかが推測できると思います。(一応、冷凍機械責任者とエネルギー管理士の国家資格、持ってます。)
逆の言い方をしますと、モデルナ社製やアストラゼネカ社製の場合は、一般的な冷凍庫・冷蔵庫でも保管管理が可能ですので(とは言っても案件が案件ですので、低温恒温庫は使用していると思いますが)、それだけ安定したワクチンの供給体制を構築することが可能となります。
(すみません、話が逸れました)話をパン生地に戻しますと、上のグラフで例えば設定温度±1℃の温度幅で冷凍庫が制御されている場合、生地への影響はどうなるでしょう。
-5℃と-20℃の条件で比較しますと、グラフ中に赤色の矢印で示したようにパン生地の凍結率の変動には明らかな差が生じます。
凍結率の変動が生じますと、物理的平衡状態にあります生地中では小さな氷結晶が溶けて、残った大きな氷結晶が成長するといったサイクルが繰り返されます。
結果として、生地中から水分が昇華(しょうか)して冷凍焼けを起こしたり、生地構造を破壊して伸びの良くない生地に劣化させたりしてしまいます。
パン生地に限らず冷凍の状態で食品を長期保存する場合には、冷凍庫の引き出しを開けても温度変化の小さい底部に置くようにして、上部には早期に使う予定の食材か(家庭でも予備に置いていたりします)冷媒を置くようにした方がいいかと思います。(なお、冷凍ストッカーの場合は、(壁面冷却+上部扉)といった構造ですので比較的温度が安定しています。)
ヴィ・ド・フランスで、今回購入した商品
同社ではスクラッチ製法の商品も扱いながら、おそらく冷凍生地も併用していると思われますが、私はけっして内部事情を知っている訳でもありませんので、あくまでも個人的な推測です。
先述の通り、ヴィ・ド・フランスは自社の通販ネットショップで業務用冷凍パン生地を販売していますが、同社にとっては冷凍生地の設計は自社で決定できる点が強みです。
逆に購入する側では、生地の品質的なレベルの高さはあっても、そこから如何にオリジナリティを出していくか、がポイントとなるでしょう。
今回のパンは、名古屋駅地下街のサンロード店で購入してきました(・・・今回も家族が)。
優煌(ゆきら)食パン(400円 税別)
北海道産の国産小麦を使用した1斤サイズの角形食パンです。
ただ、どのような銘柄の小麦粉が使用されているか、までは分かりません、春よ恋? ゆめちから?・・・。
全体的に焼色はやや濃いめで、若干、側面のケービング(腰折れ)が気になります。
玉生地は1斤当たり2玉を使用して、U字成形で向きを交互に詰めているようです。
生地底面は、他の面と比較して焼色が濃い傾向にあり、クラストも厚めです。
外観形状(ケービング)と併せて考察しますと、少々焼成時間が長いのかもしれません。
内相では、膜は薄く、縦目はややおとなしい感じでしょうか(最終発酵が長めとか)。
包装紙の3.5gを差し引きますと350gですから、1斤表示の基準(340g以上)からは、あまり余裕がない重量です。
トーストして食べてみますと、中力粉のパンのような(もっともどこにも強力粉とは記載されていないのですが)ややパサついた食感が感じられ、1斤400円という価格と併せて個人的にはリピートはあまり考えられない、かと。
もっとも、食感はパンの比容積や吸水に因るものなのかもしれませんが。
津軽産アップルパイ(ハーフ)(500円 税別)
編目状の生地を上部に被せたパイです。
成形時にはこの商品の倍の幅の生地にアップルフィリングを吐出して、焼成後に中央でカットし、断面のリンゴを見せています。
大粒のリンゴがこれでもか、というくらいに詰まっていますが、注目すべきはきれいにカットされたこの断面です。
これだけきれいに断面を見せるためには、超音波カッターのような切れのいい装置を使用されている可能性が高いと推測します。
あんクロワッサン(140円 税別)
クロワッサン生地で小倉あんを包餡して最終発酵後、フライされています。
焼色は全体的に付いていますので、もしかしますと潜水式のフライヤーで揚げているのかもしれません。
包餡されている小倉あんの部分にはフライ油が浸みこんでおらず、この形状でもしっかりと閉じられています。
生地のサクサク感と小倉あんの抑え気味の甘みは、まさに『おいしいものは、油と糖でできている』状態です。(すみません、かなり個人的な嗜好が強いですけど。)
デニッシュホーン(巨峰)(240円 税別)
先述のあんクロワッサンと似た成形方法ですが、こちらの商品では両端を閉じていません。
巨峰のフィリングは焼成・冷却後に、生地の両端にデポジットされています。
包餡されているのはクリームチーズでしょうか、巨峰のフィリングとの相性は絶妙です。
あとがき
もしも仮に、私が焼き立てパン屋さんを開業するようなことがあれば、冷凍パン生地は買うのではなく、おそらく自分でお店用の冷凍生地を仕込んで、運用していく方がおもしろいと思っています。
販売されている冷凍パン生地は品質のレベルが高くても、やはり配合や重量といった細かい特徴の差にこだわることができなくなりますし、オリジナルで勝負できなくなりそうですから。
私が焼き立てパン屋さん・・・、大変そうですけど、楽しいかもですね。