黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

中種法と製パン機械設備 ~ 番外編・機械耐性に関する妄想

ミキサー、デバイダー、そしてラウンダーとモルダー

 中種法に関連する製パン機械設備をまとめようとしていて、つい、中種法⇒高い機械耐性⇒パン生地へのストレス、と連想してしまい、考えずにはいられなくなっていました。

 そもそも機械耐性という言葉は、私がこの業界へ足を踏み入れる以前から定着していて、特にデバイダー、ラウンダー、モルダーに対して検討される項目でした。

 私の解釈では、ストレート法だろうと中種法であろうと機械(力学)的な操作によってもたらされるパン生地の脆弱化がストレスであり、その脆弱化の程度や復元力の大小によって機械耐性が高い、あるいは低いと表現しているように感じています。

 それであれば、パン生地に力を加えるミキサーにも機械耐性が問われて当然と思われるのですが、ミキサーに関しては機械耐性が論じられている感覚がありません。

なぜでしょうか。

 大きな理由のひとつが、混合・混捏の工程において、機械設備(ミキサー)が使用されている確率が他の工程と比較して非常に高いことが挙げられると思っています。

 分割、丸目、成形は、リテイルベーカリーであれば手作業が基本となっていても、ミキシングにはミキサーを使用しているところが大多数ではないでしょうか。

 つまり、生地ミキシングという操作に対して、手作業との比較があまり意味を持たないことが要因では、と考える次第です。

 製法が変わって吸水が変わっても、使用するミキサーが変わっても、ミキシングしている生地の出来具合にファイナルステージはほぼ確実に現れますし、そこを過ぎますとオーバーミキシングとなって生地はダレてしまいます。

 つまり、混合・混捏という操作に対して機械的なストレスは確実に掛かっています。

 思い出してみますと、以前にフードプロセッサータイプのミキサーを使用して、意図的に生地にストレスを与えるテストも行ったことがあったような…。

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[出典:㈱フジサワ・マルゼン]

 そう考えていきますと、上記の4つの工程では類似した圧力やせん断応力といった力が加わる一方で、デバイダーだけは生地をスライスする応力が加わっています。

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 以前にも解説しました通り、このスライスの操作が激減したシリンダータイプのデバイダーがオシキリやフジサワ・マルゼンから開発されていますが、それでもこの機械設備にはストレスフリーとは謳われていません。

 (超音波カッターで重量カットする)まったくタイプの異なるレオン自動機のデバイダーがあることが理由の一つになっていると思われますが、確認した結果、まだ機械的なストレスが掛かっているということなのでしょうか?

 もしかしたら、シリンダータイプのデバイダーでもストレスフリーと呼べる範囲内だったりして、と妄想する今日この頃です。

 

 

 

スーパーマーケットの売り場に変化?

ホールセールのパンですが…

 今日、少し離れた長久手イオンへ車で行ってきました。

 ここにはリテイルベーカリーのBENKEIも入っているのですが、今回はイオンのパンコーナーについて少々。

 その一角に Bread Selection というコーナーがあって、またいつもの大手スーパーのPB製品かと思い、その棚の商品を見てみましたところ、ちょっとした違和感が。

(ちなみに近くにはイオン瀬戸水野店があるのですが、そこでは Bread Selection というコーナーを目にしていません。つい最近できたブランドなのでしょうか。)

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 商品をよく見てみますと、各商品に大手製パンメーカーのロゴが入っているではありませんか!

 山崎製パン、パスコ、フジパン神戸屋…、そうそうたる日本の大手製パンメーカーの製品が同じ Bread Selection というブランドで棚に並んでいるのです。

 PB製品自体は、特別珍しいものではないのですが、これまでのPB製品はあくまで売り場であるスーパーやコンビニの表示が全面にあって、実際に製造している製パンメーカーは表に出てこないことが一般的でした。

 統一した包装紙に、別々の製パンメーカーのロゴ…、なかなか不思議な感じがしているのは私だけでしょうか。

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 今回は、その中からパスコのチョコチップが入ったゼブラツイスト(98円 税別 ただし、この日はお客様感謝デーで5%OFFでした)とフジパンのシナモンツイストドーナツ3本入(98円 税別)を購入しました。

 これらも含めて、この棚に並んでいる商品は比較的万人受けするアイテムが多い気がします。

 他の商品の価格を確認していないのですが、品揃えと金額からコストパフォーマンスが高いことは想像に難くありません。

 ところで、今年の桜の季節に京都へ行きました際、河原町五条にあります高島屋B1Fのパン売り場を紹介させて頂きました。
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 その時には、別々のリテイルベーカリー(ドンク、進々堂、ペック、フォション等)の商品が同じ売り場のレジで精算されているのを見て、市場の変化を感じたのですが、今回は、それと同様の状況をリテイルベーカリーの商品で見ることになりました。

 さてさて、以前にも増して徐々に売り場主体の環境に市場が推移しているように思えてならないのですが、これから作り手の行きつく先は…?

 一方、消費者のみなさんにはいいニュースだと思います。

 好きなメーカーや店舗の商品を好きな数量だけ買うことができるのですから。

街のパン屋さん ~ プルマンベーカリー TVチャンピオンV2のお店

TVチャンピオンV2のお店

 先日、名古屋のデパートの催事(たしか北海道物産展)に北海道のプルマンベーカリーが出店されていました。

 このお店、テレビ東京系の人気番組・TVチャンピオンの第3回(1995年)、4回(1996年)全国選抜パン職人選手権で2年連続優勝した店主が営んでいるベーカリーです。

 特に食パンだけが売りのお店でもないのですが、これまでの流れもあって、今回も品質が一番分かり易い角形食パンを家族に購入してきてもらいました。

 店名(プルマン食パン = 角形食パン)にも使われているほどの商品ですので、当然のことながら期待してしまいます。

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 原材料には、北海道産の超強力粉麦粉・ゆめちからや発酵バターを使用しています。

 北海道のベーカリーだけあって、素材には地産地消の思いが詰まっていますね。

 話が逸れてしまいますが、中国出張の折、日本ブランドのポジションの高さには本当に驚かされます。

 中国では特に北海道は高級ブランドとして既に確立されており、北海道小麦や北海道バター、そして北海道マーガリンまで…。

 ん?、北海道マーガリン? 探し方が悪かったせいか、ネットの検索では見つけることができませんでした。

 マーガリンの原料って、パーム(ヤシ)油が多いって聞いた記憶があるのですが、大豆油、なたね油、コーン油、綿実油、ひまわり油などの植物油(60%強)の他、動物性の魚油、国産の豚脂・牛脂も使われるそうですので、きっとあるのでしょう。

 話をプルマンベーカリーに戻しますと、HPでは原材料についての記載は特になかったのですが、日本では、北海道を中心に甜菜が栽培されていて、その甜菜から作られた砂糖は甜菜糖と呼ばれています。

 国内原料による日本の砂糖生産量の約75%、日本における砂糖消費量の25%を占めるほどですので、きっと糖は北海道産甜菜糖ではないかと想像しています。 (プルマンベーカリーの解説に記載されていましたら、ごめんなさい!)

 焼き方は、薄めに焼かれている商品が最近は多い中、ここの食パンは標準的な焼色と厚さのクラストです。

 それが、さらに素朴な感じを演出している気がしています。

 トーストして食べてみますと、素直においしいといった表現がぴったりする食感、食味です。

 総じてこの商品には、差別化といった方向性は必要ないと感じました(当然、いい意味で!)。

 最後に、防腐剤等は一切使用していません、冷蔵または冷凍庫にて保存の上、お早めにお召し上がりください、とのことです。

 ところで、プルマンべーカリーの人気商品となりますと半日で売り切れてしまうほど人気が高い『男爵カレーパン』だそうです。

 その名のとおり、地元北海道産の大きな男爵いもがごろごろと入っていてボリューム満点のカレーパンです。

 使われている材料から想像しても、これはうなずけますね。

 

 

ホールセールのパン (5)山崎製パン ミミまでやわらかい食パン

食パンブーム

 今、日本では空前の食パンブームに沸いています。

 そんな中、製パンメーカー最大手の山崎製パンが『ミミまでやわらかい食パン(今回の購入価格 138円(税込))』を発売しました。

 正直な感想として同社のマーケットに対する適応力の高さには、多々感じるところがあります。

 パッケージには、『湯捏ね製法』『しっとり感、もっちり感』『そのまま食べてもおいしい』と記述されていて、従来の製品を今流行りの『生食パン』に近付けたコンセプトかと思ってしまいます。 

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 製品の特徴ですが、ミミまでやわらかい、と謳っている以上、クラストの部分には十分な配慮がなされていると思います。

 通常製品と比較しますと、焼色は随分と薄く仕上げています。

 それでいて、顕著なケービングが起きている訳でもなく、非常に高い完成度です。

 焼色は薄く、骨格はしっかりと、この相反する二つの特徴を共有できている点です。

 少し話が逸れますが、いろいろな食パン専門店の食パンを買っては食べ比べていたある朝に、家族から『今日の食パンはどう?』と一枚のトーストが出されました。

 外観形状を見ても、食べてみても、確かにその頃食べていた数々の食パンと比較して間違いなく上位に入ってくる食パンに、つい、どこの店舗の商品だろうと思いあぐねていましたところ、『その食パン、(敷島製パンの)超熟だよ!』との発言。

 専門店の高級食パンと比較しますと、1/3程の価格の商品がまったく見劣りすることなく食べられることに、改めて今の製パンメーカーの技術の高さを再認識しました次第です。

 さて、今回のミミまでやわらかい食パンですが、食べてみますとやはりクラストの薄さからソフトな食感は十分に伝わってきます。

 そして、食味としてはほんのりとした甘みも。

 この甘味なのですが、作る側から考えますと焼色が着色する要因の糖がそれなりに含まれているでしょうから、更に作るのが大変だったと思います。

 店舗の固定式オーブンと違って、大型生産ラインで使用されています連続式オーブンでは、十分なメンテナンスと設定がなされていなければ、点火バーナー位置での加熱強度のムラが製品の焼色に直に影響を及ぼすことは容易に考えられるからです。

 特に下火に関しては、製品側面の下側が若干濃い焼色になっていることから、しっかりと火通りも考慮に入れた焼き方をしていると推測します。

 最後に、これだけの高品質の食パンが日常的に食べられることに感謝です。

 

 

中種法と製パン機械設備 ~ デバイダー

機械耐性について

 大型の製パン工場におきまして、多くのラインで採用されていますのが中種法なのですが、焼きあがった製品のソフトさや風味が際立つことに加えて、採用される大きな理由のひとつとしてパン生地への機械耐性が挙げられます。

 この機械耐性とは、どのような工程の機械設備に対して検討される項目なのでしょうか。

 耐性と言うからには、パン生地にストレスが掛かることを意味する訳ですが、この工程は回復の操作を探せば見えてきます。

 フロアタイムやベンチタイムが、それです。

 ここでは、分割・丸目工程のデバイダーに注目して、解説することにします。

 以前にシリンダー式のデバイダーについて動作等を解説しました。
 ホッパーと生地室を区画するために、トップナイフと呼ばれます平板が1ストロークごとに生地をスライスする訳です。

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 そして、密閉状態になった生地室にプランジャーが圧力をかけてパン生地をポケット内へ押し込むのです。

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 ここで、生地室内のパン生地はどのような状態になっているのか、推測してみましょう。

 

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 前後に往復運動しているトップナイフがホッパーとの境界を開口しますと、プランジャーが引かれることでポケットに入る分のパン生地が生地室内へ流れます。

 しかし、その時に流れる生地は上図のように高さ方向の厚みが非常に薄い板状にスライスされてしまいます。

 パン生地に力が加わる時、そこには流れ方向に垂直な”圧力”と流れ方向に沿った”せん断応力(流体をずらす力)”が生じますが、別の力として破断応力がここでは大きく付加されます。

 しかもミキサーやラウンダー、モルダーでの破断応力が生地の引っ張り過ぎによる過度の剪断応力に由来していることに対して、デバイダーのそれは機械的な破断です。

 近年のシリンダー式のデバイダーは、サーボモーターや油圧で位置や圧力を制御できますので、ほぼポケットから分けられるときのみ機械的な破断が生じる構造になっています。

 これは、手作業での分割と同様の操作と考えられます。

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 さて、中種法で向上する機械耐性はどのような力に対するものなのでしょうか。

 実は、私も確認したことがありませんし、記述されている文献を読んだこともありません。

 もし、対象となる力が剪断応力や破断応力であれば、既にシリンダー式のデバイダーでは手分割と同様のストレスフリーが実現されていることになります。

 残りますのは圧力だけですが、この力はパン生地への吸水や脱気といった作用も確認されており、生地状態の変化が必ずしもストレスとは言い切れないのではないかと考えています。

 近い将来に解明されることを期待したいですね。