黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

街のパン屋さん ~ de tout Painduce(パンデュース 角形食パン)

パンデュース 駅マルシェ新大阪店

 出張や行楽の人達で溢れかえるJR新大阪駅に、パンデュースのお店があります。

 やはり原材料にはこだわっていて、生地には国産の小麦粉・全粒粉・ライ麦粉を使用し、付けられている野菜は、 農家の方々からの直送のようです。

 さて、そのパンデュースのパンですが、家族が大阪へ遊びに行ってきたついでに、角形食パン(300円 税込)を買ってきてもらいました。

 こうして考えてみますと、セブンイレブンの金の食パンが同じ価格帯ということに差別化の何たるかを教えられたような気がしています。

 再度記載しますが、腰折れしても製品の特長で問題ないと言い切って、上市するあたりは今までの常識を根底から覆すに等しい商品だと改めて思い知らされた商品です。

www.santa-baking.work

 ところで、今回の角形食パンですが、こちらはこちらで十分に差別化が図られている特徴を有しています。

 昔、『最近は、甘口の酒が多いとお嘆きの貴兄に、辛口の…』といったTVコマーシャルがありました。

 当時は、まだまったくお酒などは飲める年齢でもなかったと思いますので、随分年月が経ってしまっているキャッチなのですが、同年代の方ならもしかしますと、記憶の片隅に残っているかもしれません。

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 近頃、薄い焼色のパンが多いとお嘆きの方がいるかどうかは別にして、現在のトレンドとしては、焼色は薄く、クラストも薄くといったパンが非常に目立つ傾向にあります。

 そんな中、頑固なまでにしっかりと火を通しました、と主張しているのが、このパンデュースの角形食パンでした。

 確かにおいしさというものは個人の嗜好性によるものですから、最大公約数的に支持される製品はあっても、基本的にすべてのお客様に支持される商品は、まず考えられないと思った方がいいでしょう。

 となれば、他の商品とは一線を画す、この食パンはニッチな固定客が付いていても、まったく不思議ではありません。

 そして、更にこの食パンの特徴なのですが、改めて前述の『最近は、甘口の食パンが多いとお嘆きの貴兄に、辛口の…』と続けたくなるほどの食味となっています。

 それは、甘みを感じないリーンな食味ではなく、意識的に付けた塩味が感じられるものとなっている点です。

 最近は、ビールのお供にパンを付けることがトレンドとして紹介されていたことを思い出しました。

 確かにビールと一緒に食べるのであれば、甘口よりは辛口で…、となりますね。

 食のシーンを考えて、パンもいろいろと進化を遂げている気にさせてくれた一品です。

まだまだ食パンの焼き方を研究しています

新しいものを求めて

 興味の尽きることがなく、時にはパンを焼きながら新しい発見がないものか探りながらの日々です。

 それにしても、使い慣れたいつもの作業環境はいいものです。

 仕事量のウェイトとしては、技術指導ですとか、講義・講演が高いのですが、そうは言っても技術の世界も日進月歩で進んでいますから、自分だけが立ち位置を変えない、という訳にはいきません。

 以前にもご紹介しました私の実験装置(木製の食パン焼成機)ですが、時間があればパンの焼成データを取るように心掛けています。

 この多くの人には見慣れないこのパン焼き機も含めまして、手成形の作業環境も慣れていれば結構快適です。

 もちろん、より良くしたいという気持ちは当然持っていますので、今後変化していくことは十分考えられますが…。

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 今回は時期的に、そろそろ学会の研究発表の準備もありますので、いろいろとテスト条件を変えて角形食パンを焼いています。

 

 成形は150gの生地玉を8個U字成形して型詰めし、霧吹きをしてからラップを掛けます。

 この装置は発酵機も兼用ですので、ホイロの場合は型温度を38℃に制御すればOKです。

 食型の中に温度センサーが見えていたりしていますが、今の研究ではこのパン生地中心部の温度がとても重要です。

 従来の研究ではパンの火通りの指標程度で見られていました生地中心部の温度ですが、パンの焼成時間を定量的に判断できることができることに加えて、…。(あとは、追って公表します) 

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 パンを焼成している最中も、周囲は特に暑くなるわけでもなく、普段通りと言いますか…。

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 ちなみに、パンを焼成しているときの木製オーブンの表面は手で触っても温かい程度の感触です。

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 もっとも、パンを取り出すときにはミトンや手袋を使用しますが、そこは通常のオーブンから取り出すときと同様です。

 今日も、一風変わった特徴的な(?変な)パンが焼き上がりました。

 データを取り終えましたサンプルは自宅に持ち帰って、しっかりと官能評価です。

 なかなか家族の反応は良好ですので、いつかはパン屋さん?などという妄想までも出てきたりしています。

 

講演のお知らせ

 ところで、9月3日(火)に岐阜大学主催のパンシンポジウム2019がJR岐阜駅前のじゅうろくプラザ大会議室で開催されます。

 

 今年は、私も講演予定で『冷凍生地製パン法に関するあれこれ』と題して、お話をさせて頂きます。

 

中種法と製パン機械設備 ~ モルダー

成形工程における機械耐性とは

 パン生地が受けるダメージを製造現場で最もよく知ることができるのが、この成形工程ではないでしょうか。

 以前に圧延+ロール成形でパン生地に過度な負荷を掛けない装置の構造として、大玉生地用に使用されますクロスモルダーを解説しました。
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 これは、ベンチタイムで休ませたパン生地を圧延ローラーで延展した後にロール成形を行う際、伸び代のある方向で生地を伸ばしていこうといった考え方によるものです。

 さて、機械耐性の低いパン生地をモルダーに掛けるとどのような現象が出てくるのでしょうか。

 容易に視認できるのが、成形後の生地表面の破断です。

 実際に、もうこれ以上伸びきれない部分の生地が画一的に機械で延ばされると生地表面は破れたように捲れ上がってきます。

 中種法によって、成形装置の段階でパン生地の機械耐性が向上することは、生地の伸長性を意味することになると考えられます。

 私としては正直なところ、この内容に関しては文献の内容からの推測ですので、一度、もう少し掘り下げて検証していきたいと思っているところです。

 一般的に圧延ローラーでのガス抜きは、最終製品の内相に大きく影響してきますので、できるだけ狭いクリアランスに生地を通すことでサイズの大きな気泡を排除し、細やかな内相を得ることができるのですが、それもあくまで生地が伸長する範囲内でのことです。

 それでは、別の視点から手作業並みにパン生地にストレスが掛からない加工方法とは、どのようなことが考えられるでしょうか。

 ひとつには、徐々に圧延していってガス抜きをする方法で、これは既に単段式から多段式のモルダーが開発されています。

 もっとも、圧延ローラーの径が大きい場合、ゆっくりとガス抜きをするが故に、手粉が不十分ですと、圧延時に生地表面がべとついてローラーに付着し、ライントラブルの要因ともなり得ます。

 ローラーの径サイズは、生地へのストレスとライン生産でのトラブルリスクを考慮して、検討する課題と言えます。

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 ところで、一部の機種を除いてモルダーの圧延ローラーへパン生地は上方から投入されます。

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 圧延ローラーの周速度は、一般的に等速ですので、1段目から2段目、2段目から3段目のローラーへ生地が移動する際、生地の進行速度は当然のことながら同じ速度になります。

 上の画像は工揮製のストレートモルダーですが、三段の各ローラーごとに速度調整機能が付いている機種となります。

 使い方次第にはなりますが、さてさてどのような効果が期待できるのでしょうか。

 冒頭の生地ストレスの件と併せて、おもしろい使い方もできると期待しているのですけど…。

ホールセールのパン 金の食パン(リニューアル)・セブン&アイホールディングス

リニューアル

 セブン&アイホールディングスから発売されていました金の食パンがリニューアルされました。

 新たな『もっちり食感 金の食パン』となって。

 早速、近くのセブンイレブンへ行って、購入してきましたが、 価格は1斤サイズ 4枚スライスで275円(税込297円)と、結構強気の価格設定です。

 それと、7月20日に並んでいた商品の消費期限が7月22日と少し短めです。

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 さて、商品を持った感じは、まずずっしりとした重みを感じます。

 帰宅して、実際に重量を量ってみますと、434gでした。

 日本パン公正取引協議会では、食パン1斤は340g以上と「包装食パンの表示に関する公正競争規約」において必要表示事項としての記載があります。(消費者庁及び公正取引委員会認定)
 実際に、製パン各社から販売されている一般的なホールセールの食パンに関しては、表示内容に整合性を持たせるため、製品毎の重量のバラツキを考慮し、1斤サイズの食パンでは10%程度の余裕を見て、最終的な包装製品が370g程度になるように設計されています。
 そう考えてみますと、確かにこの1斤の食パンの434gは随分重めの商品であることが分かります。

 そういえば、TVで水分を多く含ませているような事を言っていたのを思い出しました。

 ですが、実際のスライス面を見てみますと、膜の厚さにはあまり違和感を感じないのですが、随分と目が細かい感じがします。

 実際に含水率を測定したわけでもないのですが、水分が多いというよりも生地重量そのものが多くなっているような気がしています。

 そして、最終発酵は幾らか若めに出して焼成するといったように。

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  クロージャーのタグには、『焼かずにそのまま食べてもおいしい』との記載がありました。

 で、そのまま食べてみますと、しっとりした食感にほんのり甘い食味が感じられます。

 そして、加熱ですが、包装紙にはトーストではなく、電気レンジで500W 35秒と記載されていますので、その条件で加熱します。

 この食べ方はTVでも紹介されていました。

 加熱され過ぎることもなく、焼き立ての状態を楽しめるのだとか。

 でも、個人的にはやはりトーストして食べた方が好みです。

 さて、クラストとクラムのソフトさに関してですが、焼成方法に関しては気を遣っていることが分かります。

 全体的にやや焼色は薄めで、それでいてサイド部分はしっかりと腰折れしています。

 しかしながら、これも設計上の想定内のようで『こちらの商品はやわらかさが特徴のためミミが折れやすくなっておりますが、品質に問題ありません。』との記載が包装紙に記載されています。

 外観形状以上に、食感を優先したということなのでしょう。

 ここまでの内容だけでも、十分な差別化は図られていて話題性は申し分ありません。
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 最近の生食パンブームの流れに乗って、山崎製パンからもミミまでやわらかい食パンが発売されたことは以前にも紹介しました。

 リテイルベーカリーから発信されたトレンドが、今ホールセールベーカリーまで巻き込んで、さらに大きな流れとなっています。

食べ方提案に電子レンジ ~ ネオバターロール・フジパン

ありそうでなかった、電子レンジ加熱商品

 日本では、通常パンはトーストするか、もしくはそのまま食べるのが一般的です。

 少し手を加えますと、サンドイッチやハンバーガーのように具材を挟んでアレンジを加えることもありますが…。

 しかしながら、(総務省統計局 平成26年全国消費実態調査より)20年前で既に普及率が90%を超え、直近のデータで平成26年には97.8%に達した電子レンジですが、意外にも、この家電製品に対応している商品の少なさに驚かされます。

 本題に入る前に、電子レンジのマイクロ波加熱に関する説明を少々。

 食品を加熱するために使用される電子レンジは、水分子の誘導加熱に最適な周波数(約10GHz)に設定されていません。

 その理由は、最適な周波数にしてしまいますと、食品の表面で全てのマイクロ波が吸収されてしまって、表面だけが加熱されて、中心部は冷たいままという状態になってしまうためです。

 つまり実際の電子レンジの周波数は、エネルギーが食品の中心部まで深く浸透するように設定されている(2.45GHz)のです。

 そして、もうひとつ、マイクロ波は食品に達したところで、どの角度から照射されても表面に対して垂直に進行する性質を持っています。

 その結果、球状に近い形状の食品に関しては、レンズ効果と称されます中心が加熱され易い状態になる訳です。

 ところで、どうしてパンを電子レンジであまり加熱しないのでしょうか。

 ひとつには、パンをマイクロ波加熱して温度を上げ過ぎると異常なまでに硬くなってしまうことにあるのではないでしょうか。

 つまり、加熱することでパンを美味しくすることが非常に困難だった、これに尽きると思っています。

?日本で唯一 電子レンジ加熱を意識したパン

 そのような中、電子レンジ加熱を推奨する商品が登場しました。

 それが、フジパンのネオバターロールです。

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 外観は、一般的なバターロールなのですが、2分割してカットしてみますと、生地の中心にはマーガリンが充填されています。

 バターロールなのに、とは思わないで下さいね。

 パン自体の名称がバターロールなのですから。

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 そして、そのバターロールを包装紙に記載されています設定(バターロール1個につき、500Wで10秒)で加熱します。

 すると、マイクロ波の浸透性とレンズ効果によって、中心のマーガリンが適度に溶け出す状態にまで加熱されます。

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 実に絶妙の熱し方で、パン自体のソフトさも損なわれず、かつ温度も過度に上がることもなく、それでいて中心部のマーガリンは程よく溶けていて、食べてみるとジンワリとマーガリンが風味を伴って口の中に広がってきます。

 もう一点、記載しなければならないことがあるのですが、パンの場合、マイクロ波の浸透深さはせいぜい数cmといったところです。

 つまり、ネオバターロールのこのサイズもマイクロ波が中心のマーガリンに届く、適度な形状と大きさになっていることです。

 正直な感想ですが、このネオバターロールはマーガリンを充填するところまでの商品であったなら、それほどの衝撃はなかったと思いますが、これまでの発想と異にした『家庭に大いに普及している電子レンジをする』といったコンセプトが見事に製品特徴として生きていることがすばらしい!

 開発されたスタッフの方に尊敬の意を表したい、そんな商品です。