黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

ベルギーワッフル・マネケン ~ パン・菓子のトレンドを顧みる

 これまでの記事で 1997~1999年のブームに乗っていましたパン・菓子類のトレンドについて紹介してきました。
 
▼平成9年(1997年) ベルギーワッフル
▼平成10年(1998年) クイニーアマン、 ロールケーキのスイーツ化
▼平成11年(1999年) エッグタルト、 シナモンロール

 

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 今回は、その第4弾として1997年に流行りましたベルギーワッフルについてリポートしていきたいと思っています。

 

【 目次 】

 

マネケン

 日本に初めてベルギーワッフルを紹介しましたマネケンは、1986年、大阪梅田に1号店をオープンし、現在では大阪を中心に関東以西の37店舗にまで展開されています。

 

 ブランド名の『マネケン』ですが、ベルギーの首都ブリュッセルのシンボル、あの愛らしい小便小僧に由来しているそうです。

 

 小便小僧はオランダ語マネケン・ピスと呼ばれ、 これがブランド『マネケン』の名の由来とのことです。

  

マネケン アスティ一宮店

 この日は、久々の東京出張の帰りで乗換えの名古屋駅から少し足を延ばして、JR尾張一宮駅で下車し、駅前ビルの1階にありますアスティ一宮へ向かいます。

 

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 お目当てのマネケンの店舗は並びのコンコース寄りに位置していて、改札を出て歩いていきますと、すぐに看板を見つけることができました。

 

 では、早速店内へ。

 

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 ん・・・、店内へ入って早々、奥の作業場になにかを発見!

 

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 さらに、そのなにかに引き寄せられるように近付いていきます、・・・ズン。

 

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 ズンッ、ズンッ・・・、あまり行動がおかしいと通報されるかも、と僅かに気になりながらも、そちらへ視線を移すと・・・。

 

 遠巻きながら、ワッフル焼成機が見えます(少し職業病かも)。

 

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 (イメージです)

 

 ここの店舗では、焼き立てのベルギーワッフルを提供していますが、焼成機は確認できましたものの、生地作りに必要なミキサー類は見当たりません。

 

 加えまして、それらの機器を設置するにはスペースが狭すぎる感があります。

  

 マネケンでは、自社工場で製造されました冷凍生地を使用して、店舗で使用しているのだそうです。

 

 これであれば、生地を解凍するラックでもあれば対応は可能となります。

 

 もしかしますと、タイムリーな商品提供に備えるため、解凍用の装置もあるのかもしれませんね(自身がそのような装置開発に携わったことがありますので、勝手に想像してしまいました)。

 

今回購入したベルギーワッフル

 店員さんから店舗限定の5個セットがお買い得とのことで、言われるがままにそのセットを購入しました。

 

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 ただ、その場で計算してみますと確かにお得なのですが、お得率は7%にも満たなかったような・・・(740円⇒695円・税別 私これでも、暗算検定2級ですから)。

 

プレーン 130円 税別

 マネケンの一番人気の商品が、ハチミツとバターの風味がたっぷりなプレーンのワッフルです。

 

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 そして、マネケンのワッフルに不可欠なのがベルギー産のパールシュガーだとか。

 

 私は、トースターで加熱してバター(バター風味のマーガリンでもOK)を塗った後、ジャム、ホイップクリームメープルシロップ等のトッピングで頂くのが好みです。

 

 なおマネケンは素材だけではなく、形にも拘(こだわ)っているそうで、生地はベルギーでも使われている鋳型(いがた)を使用して焼き上げているそうです。

 

 私の場合、『しっかりとした厚みが特徴で、熱を閉じ込め、ワッフル生地を素早く中まで焼き上げ・・・』といった説明書きがあったとしても、具体的に生地重量から顕熱と水分蒸発の潜熱を計算して、使用する鋳型の熱容量を計算してしまいますね。

 

チョコレート 150円 税別

 定番商品のひとつで、ビタースイートチョコがコーティングされています。

 

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 チョコレートの付き具合から、溶かしたチョコレートを浅い容器に入れ片面を付けて加工している感じですね。

 

 こちらの商品はトースターで加熱できませんので、そのまま頂きます。

 

メープル 150円 税別

 こちらも定番商品で、カナダ産のメープルシロップを使用しているそうです。

 

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檸檬と紅茶(期間限定) 150円 税別

 期間限定の商品です。

 

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 ダージリンに国産レモンピール、レモン蜂蜜を合わせて焼き上げた商品です。

 

クリームチーズとブルーベリー(6月限定) 160円 税別

 そして、こちらは6月限定の商品となります。

 

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 生地にはブルーベリーが混ぜ込んであり、仕上げにニュージーランド産のクリームチーズが絞ってあり、粉糖が振り掛けられています。

 

卸しの商品(マネケン

 ところで、マネケンのベルギーワッフルは卸しの商品としてスーパー等でも購入することができます。

 

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 マネケンの生産拠点は、尼崎工場をはじめとする3工場が稼働しています。

 

トップバリュのベルギーワッフル

 さらに探してみますと、イオンのトップバリュ商品にワッフルがありました。

 

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 個包装された6個入りの商品です。

 

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 ただ、マネケンの焼立てワッフルを食べた後だからだったのでしょうか、家族の評価は概ね低い意見が飛び交っていました。

 

パン学校へ寄ってきました

 今回の東京出張では、今期、新型コロナウィルスの影響で4月からのコース(第217期100日コース)が中止となりましたパン学校(日本パン技術研究所 東京都江戸川区西葛西)へも、少し寄り道をしてきました。

 

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(日本パン技術研究所が入っていますパン科学会館 建物は、これを機に?補修工事をしてました)

 

 一応、9月からのコースは再開の方向で進められているようです。(随分、久し振りの授業になりそうです)

 

 少しずつですが、仕事の方も戻りつつあります(まだまだ気は抜けませんけど・・・)。

 

パン生地の冷凍方法を科学する・最低到達温度編 ~ 冷凍生地製パン法③

 コロナ禍で、家庭でパンを作る機会も増えたとの報道もなされていましたが、よりお手軽にパン作りを楽しむことができる、冷凍パン生地を試される機会は今後増えていくのでしょうか。

  

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 前回の記事ではパン生地を冷凍する条件におけます凍結速度の影響に関しまして解説していますので、今回はもうひとつの要因である最低到達温度について、パン生地へ及ぼすメカニズムとパン生地が損傷を受けないための対処法に関して紹介していきたいと思います。

 

【 目次 】

 

最低到達温度とは

 私が冷凍パン生地の仕事に携わり始めた頃、パン生地の冷凍障害に対する主な物理的要因は、既に最低到達温度と凍結速度であろうことが指摘されていました。

 

 その最低到達温度ですが、これは文字通り、パン生地の冷凍・保存・解凍の中で、各部位の最も下がった時の温度を指すものです。

 

 なぜ、そのような温度履歴が必要になってくるのでしょうか。

 

冷凍障害

 それは既に冷凍耐性酵母が開発された現在であっても、パン酵母は菌種に固有の失活温度を有していて、その温度を下回った時点で大きく酵母の活動が阻害されるためです。

 

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 このグラフをご覧下さい。(ずいぶん、昔のデータです。現在のパン酵母については後述をご参考に)

 

 冷却の条件を変えて冷凍したパン生地の解凍後のガス発生量を示したものです。

 

 パン生地は、すべてのテスト区で同様の-10℃で冷凍した後、それぞれ横軸の温度で①1時間、②6日間、の時間を保存しています。

 

 見てお分かりの通り、たった1時間の保存でさえも、-17~-20℃の温度帯を下回ったテスト区では大きくガス発生量が低下しています。

 

 ここで注釈なのですが、ガス発生量は顕著に(20%程度)低下していますものの、ゼロにはなっていません(80%程度はキープしています)。

 

 つまり、人に依りましては-20℃以下でも冷凍できるという人もいれば、できないと判断する人も出てくる状況です。

 

 後述で、天然酵母についても触れていきますが、人の判断基準はそれぞれですので、生地中の文章表現につきましてはご容赦頂くところがあろうかと思います。

 

冷凍障害を抑える対処法

 ところで冷凍工程後のパン生地を見るにあたって、厄介なのは冷凍された後のパン生地は現時点に至るまで、どのような温度の下に置かれていたのかが、外観からはまったく分からない事です。

 

 下の数値解析結果のモデルは、玉生地を冷凍する際におきまして、最初に一部が凍り始めた時と最終的に生地全体が凍り終わる時の内部の温度分布をシミュレートしたものです。

 

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 パン生地のすべての部位が辿ってきた温度履歴が分かれば、そのパン生地が障害を受けているかいないかの判断ができるのでは、との期待が掛かります。

 

 『だったら、面倒なことはしないで、-15℃で冷凍すればいいんじゃないの?』と思われるかもしれませんが、それでも少しでも急速冷凍したいですよね。

 

 という訳で、ここでは異なる温度の冷凍庫2台(もしくは異なる温度のゾーンを持つ連続式冷凍庫)を用いて、パン生地を冷凍する方法を考えてみます。

 

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 ここでは、シミュレーションの条件として、初めは-40℃で冷却していき、生地の一部が-15℃を下回りそうになった時点で、その生地温度をキープできる冷凍庫の温度を逆算するというものです。

 

 どうですか、結構シンプルにタイミングを見計らって-40℃から‐15℃へ温度を変えればOKといった結果となりました。

 

 下のグラフは、また別の設定でのシミュレーション結果ですが、少し小さめのパン生地を-40℃⇒-10℃の温度で冷却する際、-10℃に替えるタイミングをずらした時に最低到達温度の記事中の分布がどのように変わってくるかを求めたものです。

 

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 その条件に従って焼いたバンズの断面が下の写真で、a)~c) の条件はそれぞれに併記しました。

 

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 そこそこ凍結速度が早く、最低到達温度の条件もクリアできているテスト区(c) では、ボリューム・内相共に良好です。

 

 この中では一番凍結速度が早いながらも、最低到達温度がほぼ全体で失活温度を下回っているテスト区(a) では、ややボリュームに欠け、内相も荒れ気味です。

 

 そして凍結速度はa)とc)の中間で、最低到達温度がほぼ全体で失活温度を下回っているテスト区(b) では、ややボリュームに欠けることに加えて、外観も高さが出ず、内相も非常に荒れています、中途半端はダメという事ですね。

 

現在のパン酵母の性能

 冷凍生地製パン法の普及が進む中、パン酵母も大きく進化します。

 

 近年では冷凍生地に使用されているパン酵母には、失活温度が‐30℃を下回るような菌種も開発されており、現在の品質の向上に寄与しています。

 

 一般的な単段式の冷凍機は冷却できます下限が-40℃程度となっていて、-30℃程度で運転されているのが一般的ですし、家庭用の冷凍庫は‐25℃程度の設計となっていると思いますのでパン酵母さえ選べば、容易に冷凍生地を作製することは可能です。

 

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 最近でこそ減りましたが、以前はいざ使おうといった時に全然発酵してこないといったトラブルが頻発していました。

 

 上の写真ですが、そのような冷凍障害を受けた生地を焼き上げた際に見られます、梨肌という現象です。

 

 フィッシュアイとも呼ばれます、このようなパン表面の白いツブツブ模様ですが、失活しましたパン酵母から漏洩する還元物質によって引き起こされることが分かっています。

 

課題

 パン酵母は発芽・活性化しますと、著しく冷凍耐性が低下することが分かっています。

 

 中種法の冷凍生地が難しいのも、そのような理由に取るものです。

 

 そのように考えてみますと、天然酵母は一般的に活性化した状態で製パンに使用すると思いますので、普通に考えますと冷凍耐性は見込めないのでは、思われます。

 

 ホシノ天然酵母のパン種は、『冷凍はできませんのでご注意ください。 パンが膨らまない可能性があります。ご使用にならないで下さい。 』と、ありました。

 

 しかしながら、冷凍・解凍後の生地に小麦粉と水を掛けたすことで、天然酵母の活性が復活したという記事も読んだことがあります。

 

 まだまだ、分かっていないことは多いのだと、痛感させられてしまいます。

 

まとめ

1.パン酵母の障害による失活は、『冷凍すること』ではなく『酵母毎の失活温度以下に冷却すること』によって生じる。

2.良好な冷凍条件とは、低過ぎない温度で急速に冷凍すること。(無茶を言いますが・・・)

3.最近では、-30℃以下でも失活しないパン酵母が開発されている。

4.発芽して活性化している酵母は、冷凍耐性が著しく低下する。(詳細は、不確定な部分が多い)

5.従って、現時点で良好な冷凍生地の製法としては、生イースト、ドライイーストを投入直後にミキシングしたストレート法が主流。

6.天然酵母については、一般的に活性化した状態で使用するケースが多いため、冷凍には不向きと考えられるが、冷凍生地での見解は現時点で十分に得られていません。

 

湯種製法の食パン・超熟 ~ パスコ(敷島製パン)

 今から22年遡りました1998年、パスコ(敷島製パン)から湯種製法を採用しました超熟食パンが発売されました。

 

 超熟のシリーズ商品としましては、他にも超熟ロール、超熟イングリッシュマフィン、超熟ライ麦入り、超熟フォカッチャや先日に紹介しました超熟国産小麦等があります。

 

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 以前には、超熟スティックといった商品もありましたね。(超熟のシリーズ商品でも、売上次第で販売中止となるというシビアな世界です)

 

 今回は、日本におけます食パンカテゴリー第1位の超熟食パンについて満を持してリポートしますと共に、大ヒットの主要因となりました湯種製法のポイントについて解説しようと思います。

 

【 目次 】

 

超熟食パン

 今回は、5枚スライス・1斤を購入しました。

 

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 製品重量は375gでした。

 

 1斤は340g以上と、公正取引委員会消費者庁の認定を受けた公正競争規約で規定されていますので、表示法に違反しないよう製造メーカーとしては個々に安全係数を設定してレシピを組んでいます。

 

 具体的には、1斤分の分割重量をmとして、焼減率(蒸発する水分の割合)を11%(焼成:9%+クーリング:2%)、両端の切除するクラスト:5%、安全係数:10%、としますと、

 m×(1-0.11)×(1-0.05)>340×(1+0.1) ⇒ m>442.3g

 と、こんな感じで製造時の生地分割重量を決めています。(実際の製品重量が低いと表示法違反となってしまいますし、過度に生地重量を増やしてしまいますと歩留まりが低下して企業の利益が出なくなってしまいます。)

 

外観

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 食パン1斤分の幅はどのスライス幅のものでも約12㎝ですので、1枚の厚さは (12cm÷5 = ) 2.4cm程度 となります。

 

 ちなみに、今回購入しました食パンは3斤サイズの食型で製造しました両端の1斤分ですね(右端の上部が丸まっています)。

 

 ホワイトラインはやや広めですが、この程度でしたらほぼ合格点でしょう。

 

 焼色は、上面・底面と比較して側面がやや薄くなります。

 

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 これは、オーブンの構造上、熱源が食型の上下にしかありませんので、ある程度は致し方ない状態です。

 

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 ソフトな食感の食パンは一般的に側面が折れることが多いのですが、この商品は上面が若干折れています。

 

 裏を返せば、焼色が薄いながらも側面の加熱がちゃんとできていると判断しています。

 

内相

 内相は、詰みやカギ穴もなく、色目も全体的に白くきれいです。

 

 このような肌目の細かさはホールセールの食パンの得意とするところです。

 

 生地の混捏方法から成形でのガス抜き・カーリング等、製パン機械設備の機能・性能をフルに活用しているのでしょう。

 

原材料

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 ホールセールの食パンとしては、使用されています原材料は至ってシンプルです。

 

 確かに余計なものは入れていない、と謳うだけのことはあります。

 

 ちなみに、超熟食パンの特徴として米粉を使用していることが挙げられ、醸造酢は日持ちの向上を目的に使用されていると推測します(以前に学会の研究発表で聞いた記憶があります)。

 

 なお、国産の超強力粉ゆめちからが3%ながら配合されています。

 

湯種製法

 湯種は、どのようにして製造・使用されるのでしょうか。

 

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 連続生産ラインで一般的に採用されます中種法ですと、上図のように中種とは別に製造され本捏ねミキシングで他の原材料と併せて混合・混捏されます。

 

湯種の製造方法

 小麦粉中のデンプンの一部を糊化させる湯種は、どのようにして製造されるのでしょう。

 

 作り方に決まりがある訳ではありませんが、すぐに思い浮かびますのは、次の二つの方法ではないでしょうか。

 

 一つ目は、ミキサーボウル等を使用して粉にお湯を掛ける方法です。

 

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 仮に粉の温度を25℃として捏ね上げ時の温度を60℃と設定したとしますと、まったく熱の漏洩がなかった場合には原材料の比熱等から熱容量を計算して、注ぐべきお湯の温度は77.5℃と算出されます。

 

 実際には、蒸発したり、ミキサーボウルへ熱が伝わったりしますので、もっと高い温度のお湯が必要となりますが、方法をルール化してデンプンの糊化の状態を安定化させる必要があります。

 

 具体的には、お湯の温度&重量を正確に測って、極力、そのお湯を直接粉に掛けるといった具合です。(先にお湯を棒へ入れたり、ミキサーボウルへお湯が直接掛かったりしますと蒸発やボウルの加熱にお湯の熱エネルギーが消費され、有効にデンプンの糊化に使われなくなってしまいます)

 

 この方法の場合、ミキシングの終点は、一様に混合されたタイミングで決められ、概ねミキシング時間で確定させることができます。

 

 二つ目は、粉と水を混合した状態から暖めて行く方法です。

 

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 この場合は、湯せん等を使用して極度に一部の湯種の温度が上がらないようにしなければなりません。

 

 この場合も、加熱時には常時湯種の撹拌を続ける必要があります。

 

 ミキシングの終点は、規定されました生地温度に達した時点となります。

 

 そして、捏ね上げたばかりの湯種は温度が高い状態ですので、このままでは本捏ねミキシングに使用できません。(一旦、冷却してから使用することになります)

 

 大量生産する製造ラインでは、バッチ毎の生地重量も重く、急速に冷却させることは困難ですので数時間の冷却時間を必要とします。

 

 なお、常温程度にまで温度が低下しました湯種は、その後許容範囲として24時間程度は使用できますのが一般的です。

 

湯種の配合で気を付けること

 湯種の配合に依って、デンプンの糊化温度は変化します。

 

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 このグラフは、デンプンが糊化する際に生じます吸熱反応の温度帯をDSC(示唆走査型熱量計)という計測装置で計測しました結果の一例です。

 

 小麦粉と水だけのテスト区では60℃以下の温度帯で吸熱反応が確認できますが、そこに塩を5%加えた系では吸熱のピークが65℃程度にまで上昇しています。

 

 湯種はすべてのデンプンを糊化させる訳ではありませんし、デンプンは温度の上昇によって[①水分の吸収によるデンプン粒の膨化]⇒[②デンプン粒の破損による流動化]といった変化があります。

 

 ①と②のどちらの変化が湯種法として影響しているかも現時点では明確になっていませんし、①と②が共存している場合、湯種としては非常に多様な種類が存在する可能性も大です。

 

 それだけに、湯種だけでも特徴的な製品を作りだすことができる可能性を秘めています。

 

一口メモ

 比較的最近の食パンは包装紙がの口元が軽くシール(ライトシール)されています。

 

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 これは、以前に口元のみをクロージャーで留めていましたところ、虫混入のクレームが指摘され、全国的に対応を図ったものなのですが、ここで包装紙の開け方に推奨の方法があります。

 

 包装紙の上部を持って開けようとしますと、もしライトシースの状態がやや強かったりしますと包装紙がシール状で破れてパンを取り出せないといった状況になってしまうことがあります。

 

 そのため、たとえ破れても中身の食パンがちゃんと取り出せるようにライトシールの下部を持って開くようにしてみて下さい。(上写真の矢印をご参照)

 

 今回も多少包装紙は破れてしまいましたが、それでも中身はちゃんと取り出すことができています。(まあ、ライトシールの精度が高ければ問題はないのですけどね!)

 

まとめ

1.斤単位で表示されています食パンの製品重量は、表示法に違反することないよう、シビアに設計されています。

2.超熟食パンの原材料は至ってシンプルで、余計なものは入れていません。

3.湯種の製造方法は、小麦粉中のデンプンの糊化の程度を安定化させる方法とルールが重要です。

4.デンプンの糊化温度は配合によって変化するので、配合毎に湯種の状態を確認しなければなりません。

5.食パンの包装紙を開ける際はライトシールの下部を引くようにすると、少なくとも製品を取り出すことはできます。

 

パン生地の冷凍方法を科学する・凍結速度編 ~ 冷凍生地製パン法②

 前々回の記事で冷凍生地製パン法についてガイダンスの解説をさせて頂きましたところ、非常に多くのアクセスを頂きました一方で、以前の冷凍生地に関します拙(つたな)い記事すべてを下書き状態に戻しましたことから、随分、Google やYAHOOからの検索件数が減少してしまいました。

 

 2年近く前にブログを始めたばかりの頃のなんとも分かり難い記事に、今でもアクセス頂けていましたことに感謝しますと共に、できるだけ早い時期にリライトして情報提供を復活させていきたいと思っております。

 

【 目次 】

 

パン生地を冷凍する際に考慮するパラメーター

 冷凍生地製パン法が脚光を浴び始めたのは35年ほど前になり、私も30年ほど前からこの製法の研究に携わっていました。

 

 当時は、今のような冷凍耐性のパン酵母がちょうど研究されている真っ只中で、ボリュームが出たり出なかったり、形状がしっかりと高さが出たり横に這ったような形になったり、で試行錯誤の連続です。(下の写真の山形食パンは再丸目をすることもあって、大きな違いが分かり難くなっています、すみません)

 

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 パン生地への冷凍障害のメカニズムは、また別の機会に詳細を解説するとして、ここではパン生地を冷凍する際の操作方法に視点を移します。

 

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 上図のように、冷凍生地の製造サイドとして気を付けるべき点は『凍結速度』と『最低到達温度』の2点にほぼ集約されますので、その内今回は凍結速度について解説します。

 

急速冷凍と緩慢冷凍

 冷凍庫で食品を冷凍する際、急速冷凍とか緩慢冷凍といった言葉を聞くことがあります。

 

 食品を冷凍する際の速さである凍結速度に関しましては、急速冷凍を行うことでパン生地中の水分の結晶化を抑えて、生地の構造破壊を防ぐとされ、推奨されています。

 

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 ところが、この急速冷凍とか緩慢冷凍とか、凍らせる時の速さを意味するのですが、正確な定義を私は知りません。

 

 といいますか、いまだに学会でも冷凍食品の通例として、食品の中心部の温度を測り、最大氷結晶生成帯と呼ばれます、[凍結温度]~[凍結温度-3℃]の温度帯を極力早く通過させる、といった表現に留まっている具合です。

 

生地構造を破壊するメカニズム

 食品を急速冷凍させる理由は、主に凍結時に生成する氷結晶の成長を抑えるためです。

 
 氷結晶の成長が、水分を含む食品の構造を破壊してしまうからです。

 

 食品が冷凍する際、大なり小なり過冷却という現象が起きます。

 

 凍結温度以下であって凍っていない状態の水を平板に垂らすと氷の柱ができるような映像を見たられことがありますでしょうか。

 

 寒い日の朝、池に瞬時に凍結した氷の跡が連なる『御神渡り』という現象も過冷却によって発生します。

 

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 食品中の液体は、温度が凍結温度以下になりますとある確率で氷の核が発生します。

 

 そして、発生した氷の核は更に熱が奪われることで結晶のサイズを大きくして成長していきます。

 

 しかし、急速に冷凍しますと、氷の結晶の成長の速度が奪われます熱量に追いつかず、さらに新たな核を発生させることになります。

 

 つまり、急速に食品を冷却させることによって、氷の結晶の核の数を増やすと、大きな結晶に成長しないようになるわけです。

 

 では、急速に冷凍させるとは具体的にどのような操作になるのでしょう。

 
 すぐに思い浮かびます方法は『低い温度で冷凍させる』ということではないでしょうか。

 

 けっして、間違っている訳ではありませんが、このひとつのファクターに囚われることなく、次に適正な冷凍条件を導き出したいと思います。

 

またまた数値シミュレーション

 前回に解析モデルだけ示しました、コンピューターによります数値シミュレーションにつきまして、まずは信用できるの?、といった事の説明から。

 

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 こちらは、実際に食パン用の玉生地を冷凍した際の中心部の温度変化を実測値とシミュレーション結果で比較したものです。

 

 そこそこ、再現できていますよね。

 

パン生地冷凍の実験

 そして、ここでは実験のファクターとして玉生地を載せるトレーの材質を変えて、冷凍した条件で計算結果を比較します。

 

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 冷凍庫の温度は同じながら、ひとつは一般的なアルミのトレー、そしてもうひとつは普通ではありえない発泡スチロール製のトレーを用いています。(上図は、冷凍を始めてから生地の一部が凍り始めたタイミングの温度分布を示しています)

 

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 計算結果からは、生地内部のすべてのポイントで凍結した時間が計算で求められます。

 

 アルミトレーを使用した方は生地の上の方が最終的に凍ることと比較して、発泡スチロールトレーの方はトレーと接している下部近くが最も凍るまでに時間が掛かっていることが分かります。

 

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 さて、凍るまでの時間を計算で求めました、そしてメッシュ間の距離も分かっています、距離を時間で割るとなにが求められるでしょう。

 

 (距離÷時間=)そう、速度です、自動車の走る速度と同じ次元の単位[m/s]の数値が得られます。

 

 上のグラフではパン生地の内部で凍結速度が一様でないことも分かるのですが、実はもうひとつ大事なことも教えてくれています。(詳細を説明するのは・・・ですので、後述の結論だけでご容赦下さい)

 

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 しつこいようですが、急速冷凍は食品の冷凍にとって確実に有効な手段です。

 

結論(のひとつ)

 パン生地を冷凍する際、非常に重要なファクターのひとつはパン生地を載せるトレーです。(前振りが大層だった割りには、結論は至ってシンプルでしたね~!)

 

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 パン生地はトレーからの伝導熱で急速に冷却され、トレーの熱伝導率が高ければ、生地の載っていない部分は冷却フィンの役割をします。

 

  断っておきますが、低い温度で冷凍することも冷風をパン生地に充てることも有効です、けっして否定するものではありませんし、パン生地を凍結させるのですから-25℃くらいの温度はあった方がいいと思います。

 

 ただ、パン生地の最低到達温度を考慮した場合、低過ぎる冷却温度はパン生地に冷凍障害を与えることが分かっていますので、その点だけ注意が必要です。

 

 過去に間違った結論を導きました研究者の方もいらっしゃる程ですので。

 

 ところで、工夫すれば低過ぎない温度で速く凍らせる方法はいろいろとありますよ。(結構、楽しめます)

 

あとがき

 新型コロナの影響で、家庭でのパン作りもずいぶん機会が増えた様子です。

 

 スクラッチで粉からそのまま作るのも楽しいのでしょうけど、一度に大量のパンができてしまうのであれば、生地の一部を冷凍する手もあったり、と思ってしまう次第です。

 

 次回(ブログの記事としては、おそらく次々回)は、パン生地の冷凍方法におけます留意点の内、もうひとつのパラメーター:最低到達温度に関して解説する予定です。

 

 

 

国産小麦のパン・ゆめちから ~ 超熟 国産小麦 パスコ(敷島製パン)

 以前の記事で、国産の強力小麦:ハルユタカと春よ恋について解説しましたが、その春よ恋からの流れで今回のゆめちからに関しましても私個人としては非常に思い入れの強い小麦です。

 

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 手前味噌で本当に恐縮ですが、春よ恋が品種登録されてから農林水産省の国家プロジェクト(21世紀プロジェクト、後に農林水産省の委託プロジェクト:ブランドニッポンに引き継がれます)がスタートし、そのプロジェクトメンバーの一人として春よ恋の国内利用について業務に携わっていました(私は機械屋さんなのに・・・大規模生産での小麦消費も視野に入れていたようです)。

 

 その国家プロジェクトが終了した後のある日、委託元の担当者だった方から『登録前の凄い小麦ができたのですが、もうプロジェクトには載せられないし、なんとか普及に手を貸してもらえないでしょうか』と、わざわざ北海道から名古屋まで足を運んでくれたのです。

 

 それが品種登録前の北海261号、今のゆめちから、タンパク質含量が従来の強力以上に含まれます超強力の小麦だったのです。(詳細はこちらの書籍に記載されていますが、この本を買って頂いても私には特に利益はありませんので、へぇ~程度に思ってもらえれば結構です)

 

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 そのようなゆめちからに関しまして、今回はやはり中心となって推進されてきましたパスコ(敷島製パン)の商品:超熟 国産小麦をメインに解説していきたいと思います。

 

【 目次 】

 

 ゆめちからを使用している商品はたくさん出ているのですが、今回購入しましたのは、この3品です。

 

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超熟 国産小麦

 超熟シリーズの山形食パンとして、国産小麦100%の商品をラインナップに揃えてきました。

 

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 個人的には角形食パンで商品化してほしかった気もありますが、山崎製パンの(超芳醇新食感宣言)のラインに対抗する意味もあって、パスコは山形食パンを選んだのかと、勝手に推測しています。

 

 

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 外観はイギリス食パン称される山形食パンの形状に倣(なら)っています。

 

 使用されています国産小麦中、ゆめちからは52%配合されています。

 

 基本的にゆめちから単独ですと、食感としておいしくないと言われていますので、適度なタンパク含量になるよう中力粉とブレンドするのが一般的です。

 

 タンパク含量の計算値と試作の結果、求められた配合比なのでしょう。

 

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 当然、超熟の名を冠していますので湯種製法を採用し、油脂にはバターを使用しています。

 

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 内相は、一言で言いますと綺麗そのものですね。

 

 全体の色は白く、縦目のすだちも出ており、それでいて詰みやカギ穴、気泡の大きなばらつきも見られません。

 

 食べた時の食感は軽くてもちもち、シンプルに小麦とバターの風味を楽しむことができます。

 

チーズクリームパン

 『国産小麦の・・・』は、シリーズ化されているようです。

 

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 こちらの商品には使用されています国産小麦中、ゆめちからは65%配合されています。(製品毎、微妙に違ってくるのですね~)

 

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 白焼きのクリームパンで外観の色もそうなのですが、形状としましても腰があって高さが出ていますので、見た目にもふんわりとしたソフトさをアピールしてきます。

 

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 生地底面には若干の焼色が付いていますが、製造条件としてはけっこうなポイントになっています。(プレス天板も使用していますね)

 

 白焼きのパンは、クラストの強度が低く、高さの出た形状を保持できないケースもある事から、主に下火で十分な火通りを確保します。

 

 リテイルベーカリーであれば、デッキ式オーブンの上火の設定を下げる程度で対応可能ですが、連続生産ラインのトンネル式オーブンとなりますと炉床が一般的にスチールプレート(デッキ式オーブンの炉床よりも熱容量が小)ということもあって、各ゾーンの温度設定にも工夫が必要です。

 

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 内部は下の層に包餡されましたチーズクリーム、上の層には焼成・冷却後に後充填で空間に詰められましたホイップミルククリームが見られます。

 

 生地がふわふわで、ホイップクリームも軽い食感ですから、それなりのスイーツ感は十分に出ているのでは、と思います。

 

ワッフル

 北海道牛乳を使用しました、ベルギーワッフルです。

 

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 こちらの商品も国産小麦は100%使用で、使用されています国産小麦中、ゆめちからは60%配合されています。

 

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 ベルギーワッフルについては、別の機会に改めまして詳細をご紹介しようと思っています。

 

 今回は、商品のご紹介だけでご容赦下さい。

 

サンタの豆知識

国産小麦の歴史

 パン用の強力粉の小麦を栽培して、日本の食料自給率を向上させようといった試みは、育種に携わられています多くの研究者の努力の結晶です。

 

 雨に弱い小麦は必然的に梅雨や秋の長雨という特徴的な気候の日本において、とても栽培が難しい穀物です。

 

 そのため、雨期のない北海道以外の本州以南では、従来天候の影響を受け難い晩秋から初夏にかけて作付けを行う秋播きの方法で小麦の生産を行ってきました。

 

 この時期は、夏物野菜等の裏作として二毛作が行えることもあることからも、一般的に小麦は秋播きとされてきた経緯があります。

 

 北海道におけます秋播き小麦の作付け面積の推移をグラフにまとめてみました。

 

 キタノカオリ、ゆめちから以外は、中力の小麦です。

 

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 秋播き小麦は、ゆめちからが2009年に品種登録されるまで(キタノカオリはわずかに栽培されていましたが)、ほぼ中力の小麦が占めていたことが分かります。

 

 あれっ、強力の国産小麦は他にもあったのでは? と、思われたかもしれませんが・・・。

 

 そう、最初に育種の成功を収めた国産の強力小麦の品種は秋播き小麦ではなく、春播き小麦:ハルユタカ(1987年に品種登録)でした(ハルユタカより以前に品種登録されたハルヒカリという幻の強力小麦があったそうです。今では、栽培されていないようです)。

 

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 ゆめちからが登場するまでの20年以上もの間、強力の国産小麦を牽引してきましたハルユタカと春よ恋は、今現在も健在です。(ハルユタカは、希少となってしまいましたが)

 

妄想

 ところで、日本に膨大な面積のある稲の裏作で小麦ができればいいのに、と思われた方はいらっしゃいませんか。

 

 それが、どうも稲の土壌の質が麦に合わないそうなんです。

 

 水はけの悪い粘土質の水田の土は水を抜いても麦には合わない、と。

 

 性格の曲がった私などは『本当に? 水はけをコントロールできれば・・・』って、勝手な妄想をしてしまうのですが、こんな時こそ農業の分野へエンジニアの出番なのかもしれませんね。