黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

湯種製法の食パン・超熟 ~ パスコ(敷島製パン)

 今から22年遡りました1998年、パスコ(敷島製パン)から湯種製法を採用しました超熟食パンが発売されました。

 

 超熟のシリーズ商品としましては、他にも超熟ロール、超熟イングリッシュマフィン、超熟ライ麦入り、超熟フォカッチャや先日に紹介しました超熟国産小麦等があります。

 

www.santa-baking.work

 

 以前には、超熟スティックといった商品もありましたね。(超熟のシリーズ商品でも、売上次第で販売中止となるというシビアな世界です)

 

 今回は、日本におけます食パンカテゴリー第1位の超熟食パンについて満を持してリポートしますと共に、大ヒットの主要因となりました湯種製法のポイントについて解説しようと思います。

 

【 目次 】

 

超熟食パン

 今回は、5枚スライス・1斤を購入しました。

 

f:id:santa-baking:20200620165405j:plain

 

 製品重量は375gでした。

 

 1斤は340g以上と、公正取引委員会消費者庁の認定を受けた公正競争規約で規定されていますので、表示法に違反しないよう製造メーカーとしては個々に安全係数を設定してレシピを組んでいます。

 

 具体的には、1斤分の分割重量をmとして、焼減率(蒸発する水分の割合)を11%(焼成:9%+クーリング:2%)、両端の切除するクラスト:5%、安全係数:10%、としますと、

 m×(1-0.11)×(1-0.05)>340×(1+0.1) ⇒ m>442.3g

 と、こんな感じで製造時の生地分割重量を決めています。(実際の製品重量が低いと表示法違反となってしまいますし、過度に生地重量を増やしてしまいますと歩留まりが低下して企業の利益が出なくなってしまいます。)

 

外観

f:id:santa-baking:20200620165442j:plain

 

 食パン1斤分の幅はどのスライス幅のものでも約12㎝ですので、1枚の厚さは (12cm÷5 = ) 2.4cm程度 となります。

 

 ちなみに、今回購入しました食パンは3斤サイズの食型で製造しました両端の1斤分ですね(右端の上部が丸まっています)。

 

 ホワイトラインはやや広めですが、この程度でしたらほぼ合格点でしょう。

 

 焼色は、上面・底面と比較して側面がやや薄くなります。

 

f:id:santa-baking:20200620165529j:plain

 

 これは、オーブンの構造上、熱源が食型の上下にしかありませんので、ある程度は致し方ない状態です。

 

f:id:santa-baking:20200620165606j:plain

 

 ソフトな食感の食パンは一般的に側面が折れることが多いのですが、この商品は上面が若干折れています。

 

 裏を返せば、焼色が薄いながらも側面の加熱がちゃんとできていると判断しています。

 

内相

 内相は、詰みやカギ穴もなく、色目も全体的に白くきれいです。

 

 このような肌目の細かさはホールセールの食パンの得意とするところです。

 

 生地の混捏方法から成形でのガス抜き・カーリング等、製パン機械設備の機能・性能をフルに活用しているのでしょう。

 

原材料

f:id:santa-baking:20200620174812j:plain

 
 ホールセールの食パンとしては、使用されています原材料は至ってシンプルです。

 

 確かに余計なものは入れていない、と謳うだけのことはあります。

 

 ちなみに、超熟食パンの特徴として米粉を使用していることが挙げられ、醸造酢は日持ちの向上を目的に使用されていると推測します(以前に学会の研究発表で聞いた記憶があります)。

 

 なお、国産の超強力粉ゆめちからが3%ながら配合されています。

 

湯種製法

 湯種は、どのようにして製造・使用されるのでしょうか。

 

f:id:santa-baking:20200620174852j:plain

 

 連続生産ラインで一般的に採用されます中種法ですと、上図のように中種とは別に製造され本捏ねミキシングで他の原材料と併せて混合・混捏されます。

 

湯種の製造方法

 小麦粉中のデンプンの一部を糊化させる湯種は、どのようにして製造されるのでしょう。

 

 作り方に決まりがある訳ではありませんが、すぐに思い浮かびますのは、次の二つの方法ではないでしょうか。

 

 一つ目は、ミキサーボウル等を使用して粉にお湯を掛ける方法です。

 

f:id:santa-baking:20200620174945j:plain

 

 仮に粉の温度を25℃として捏ね上げ時の温度を60℃と設定したとしますと、まったく熱の漏洩がなかった場合には原材料の比熱等から熱容量を計算して、注ぐべきお湯の温度は77.5℃と算出されます。

 

 実際には、蒸発したり、ミキサーボウルへ熱が伝わったりしますので、もっと高い温度のお湯が必要となりますが、方法をルール化してデンプンの糊化の状態を安定化させる必要があります。

 

 具体的には、お湯の温度&重量を正確に測って、極力、そのお湯を直接粉に掛けるといった具合です。(先にお湯を棒へ入れたり、ミキサーボウルへお湯が直接掛かったりしますと蒸発やボウルの加熱にお湯の熱エネルギーが消費され、有効にデンプンの糊化に使われなくなってしまいます)

 

 この方法の場合、ミキシングの終点は、一様に混合されたタイミングで決められ、概ねミキシング時間で確定させることができます。

 

 二つ目は、粉と水を混合した状態から暖めて行く方法です。

 

f:id:santa-baking:20200620175026j:plain

 

 この場合は、湯せん等を使用して極度に一部の湯種の温度が上がらないようにしなければなりません。

 

 この場合も、加熱時には常時湯種の撹拌を続ける必要があります。

 

 ミキシングの終点は、規定されました生地温度に達した時点となります。

 

 そして、捏ね上げたばかりの湯種は温度が高い状態ですので、このままでは本捏ねミキシングに使用できません。(一旦、冷却してから使用することになります)

 

 大量生産する製造ラインでは、バッチ毎の生地重量も重く、急速に冷却させることは困難ですので数時間の冷却時間を必要とします。

 

 なお、常温程度にまで温度が低下しました湯種は、その後許容範囲として24時間程度は使用できますのが一般的です。

 

湯種の配合で気を付けること

 湯種の配合に依って、デンプンの糊化温度は変化します。

 

f:id:santa-baking:20200620175120j:plain

 

 このグラフは、デンプンが糊化する際に生じます吸熱反応の温度帯をDSC(示唆走査型熱量計)という計測装置で計測しました結果の一例です。

 

 小麦粉と水だけのテスト区では60℃以下の温度帯で吸熱反応が確認できますが、そこに塩を5%加えた系では吸熱のピークが65℃程度にまで上昇しています。

 

 湯種はすべてのデンプンを糊化させる訳ではありませんし、デンプンは温度の上昇によって[①水分の吸収によるデンプン粒の膨化]⇒[②デンプン粒の破損による流動化]といった変化があります。

 

 ①と②のどちらの変化が湯種法として影響しているかも現時点では明確になっていませんし、①と②が共存している場合、湯種としては非常に多様な種類が存在する可能性も大です。

 

 それだけに、湯種だけでも特徴的な製品を作りだすことができる可能性を秘めています。

 

一口メモ

 比較的最近の食パンは包装紙がの口元が軽くシール(ライトシール)されています。

 

f:id:santa-baking:20200620175207j:plain

 

 これは、以前に口元のみをクロージャーで留めていましたところ、虫混入のクレームが指摘され、全国的に対応を図ったものなのですが、ここで包装紙の開け方に推奨の方法があります。

 

 包装紙の上部を持って開けようとしますと、もしライトシースの状態がやや強かったりしますと包装紙がシール状で破れてパンを取り出せないといった状況になってしまうことがあります。

 

 そのため、たとえ破れても中身の食パンがちゃんと取り出せるようにライトシールの下部を持って開くようにしてみて下さい。(上写真の矢印をご参照)

 

 今回も多少包装紙は破れてしまいましたが、それでも中身はちゃんと取り出すことができています。(まあ、ライトシールの精度が高ければ問題はないのですけどね!)

 

まとめ

1.斤単位で表示されています食パンの製品重量は、表示法に違反することないよう、シビアに設計されています。

2.超熟食パンの原材料は至ってシンプルで、余計なものは入れていません。

3.湯種の製造方法は、小麦粉中のデンプンの糊化の程度を安定化させる方法とルールが重要です。

4.デンプンの糊化温度は配合によって変化するので、配合毎に湯種の状態を確認しなければなりません。

5.食パンの包装紙を開ける際はライトシールの下部を引くようにすると、少なくとも製品を取り出すことはできます。