以前の記事で、日本においてパン用として消費される国産小麦の自給率はたったの3%程度との解説をしました。
それは小麦の栽培に適さない雨の多い日本の気候が主な原因なのですが、そのような中、北海道の農業研究センターから奨励品種に登録されました春播き小麦2品種を使用してパンを作っている、こだわりのリテイルベーカリーがあります。
今回は、そのような国産小麦で作られましたパンとベーカリーについてリポートします。
ブーランジェリー LA TERRE
東急田園都市線の池尻大橋駅で電車を降り、そこから15分程度歩きますと北海道の厳選素材にこだわった商品を謳っていますブーランジェリー LA TERRE (ラ・テール)があります。
今回、こちらのリテイルベーカリーへ足を運びました目的は、2種類の国産小麦・ハルユタカと春よ恋のパンを購入するためです。
ところが、この日は30℃を超す猛暑日ながらコロナ禍の対応でマスク着用が求められる雰囲気にあり、全身の汗と口周りの蒸れが足取りを重くしていました。
それでも、なんとかお店の前に辿り着きますと店内への入場制限の張り紙が・・・。
店内へ入れますのは7名まで・・・、中をのぞいてお客さんの人数を数えますと5名!、よし入れる!
店内には、食パン、菓子パン、ハード系、ペーストリー等々が陳列されており、私が店内にいた短い間でさえ、焼き上がったパンが次々に並べられている状況でした。
奥のラックには、クーリングを取っているとおぼしき数種類のハード系の製品が差し込まれています。
パンの熱が取れた時点で、店頭に並ぶのでしょうね。
そして、さらにその奥には存在感があり過ぎる石窯が鎮座しています。
この石窯で焼き上げているところを見ることはできませんでしたが、どう見てもセンサーを使用して炉内の温度制御を行っている感じには見えません。
内燃の加減、排気と蒸気の操作でハースブレッド(直焼きパン)を焼成しているのでしょう。
石窯の存在感でその隣のオーブンが希薄(普通)に見えてしまいそうですが、こちらもフランス・BONGARD(ボンガード)社製の内扉式デッキオーブンで、焼くことへのこだわりが備えられています機器装置からも伝わってきます。
ちなみにボンガードのオーブンは本体の重量はあまり気にせず(?)、十分過ぎるほどの蒸気を出せることと、少々扉を開けていても焼成時には炉内温度が素早く復帰させられる十分な熱容量を持っていることが特徴的なオーブンです。
オーブンサイズは、縦差し4枚用でしょうか、チラッと見でしたが、あまり見かけないサイズのようだった気が・・・。
ハルユタカ
強力小麦のハルユタカは、パン用の国内産小麦の名を知らしめた最初の品種です。
ラ・テールでは、江別の農家で育てられたハルユタカを厳選して、砂糖、油脂、乳製品を使わない(麹糖使用)山形食パン『ハルユタカ (1/2斤 320円 税別)』を湯種製法で作っています。
外観
焼色はやや薄めながら、持ってみますとパンドミーのようなしっかりした骨格が分かります。
底面の焼色もやや薄めで、上面・側面とのバランスも取れています。
内相
気泡はやや大きめで少しばらついてもいますが、食感を軽く仕上げるための仕様のような気もしています。
食味・風味
食べてみますと、まず小麦本来の素朴な香りを感じることができ、軽い口当たりながら適度な弾性の歯応えがあります。
やはり、見た目にやや空隙が多い内相は特徴的な軽い食感を狙ってのものではないかと推測します。
春よ恋
ハルユカタを改良して育種され、2000年に奨励品種として登録されましたのが、同じく強力粉の小麦・春よ恋です。
そして、その春よ恋を100%使用して、豆乳、生クリームを配合に加え、湯種製法で作り上げた山形食パンが、この『春よ恋 (1/2斤 300円 税別)』です。
外観
焼色は標準的な山形食パンに準じていて、やや高さが抑えられている形状です。
そして、底面には食型のガス抜き穴の跡が。
内相
膜は薄く、こちらの商品もやや空隙が多い内相のように見えます。
食味・食感
生クリームと豆乳に因るところの乳製品系の風味が感じられ、少し甘めな食味が特徴的です。
湯種製法を採用していることもあって、もっちりした食感と軽い口当たりに仕上げられています。
ミルクフランス
我が家で定番のミルクフランス(180円 税別)も購入しました。
ミルクフランスという商品名なのですが、見た目には外観形状や焼色がドッグロールに近いイメージです。
底のこの状態から推測しますと、焼色の着色している部分が広く、おそらく直焼きではなく、天板を使用して焼成されているようです。
そして絞られてありますミルククリームは、しっかりこのような感じで。(軽い感じの生地なのですが、やはりフランスパンの配合なのでしょう、手で持っていないとすぐに閉じてしまいます)
食べてみますと、生地は軽い感じながら弾性がありますので、何度も咀嚼(そしゃく)して生地とミルククリームの味覚を楽しみます。
サンタの豆知識
春播きと秋播きの国産小麦について
小麦には、春に播いて秋に収穫する春播き小麦と、秋に播いて越冬し梅雨前に収穫する秋播きの小麦があります。
冒頭に雨の多い気候は小麦に適さないと記載しましたが、梅雨と台風シーズンのリスクを抱えます春播き小麦は、北海道でさえもやはり作付面積が少ないのが実状です。
ところが、日本では栽培が難しいとされてきました(パン用に適した)強力粉の小麦が、長年の研究の結果、春播き小麦で育種に成功しました。
最近では、追って秋播きの小麦が奨励品種に登録され、既に北海道では作付面積が10%を超えてきました。(多くのスーパーでも、その商品を目にする機会が増えています)
もうお分かりですよね、そう超強力粉の『ゆめちから』です。
私は、秋播きの小麦には(かつての日本がそうであったように)稲の二毛作での対策のような可能性に勝手な期待をしています。
原材料には素人の妄想ですので、解決すべき課題はまだまだあるのかもしれません。
でも、日本の小麦でもっとたくさんのパンを作る事ができたら、と期待ばかりが膨らんでしまうのです。