カフェタナカ(CAFÉ TANAKA)は、 名古屋市北区上飯田に本店を構えるカフェ&洋菓子店です。(名古屋商圏内に4店舗を展開しています)
1963年に自家焙煎珈琲専門店として創業したタナカコーヒーが前身で、創業者でもある父のコーヒーに合うフランス菓子を作りたい、との思いを募らせた田中千尋さんがシェフパティシエを務められています。
このカフェタナカが食パンを発売したとの連絡が家族から入り、その商品の中に地元愛知県産の国産小麦を使った食パンがあることを知って、今回のリポートに至りました。
【 目次 】
国産小麦・中力粉
食パンを作る時に主に使用される小麦粉の種類は強力粉です。
これは小麦中に含有されるタンパク質の割合によって分類されるもので、
・超強力粉 : 13.5~15.0%
・ 強力粉 : 11.5~13.5%
・準強力粉 : 10.5~12.5%
・ 中力粉 : 8.5~10.5%
・ 薄力粉 : 7.5~ 8.5%
と定義されています。
さて、日本におけます品目別の食料自給率の中で、小麦は11%と、この数字だけでもとても低いのですが、これがパン用の小麦(強力粉)となりますとさらに下がって3%となってしまいます。
ちなみに、中力粉で作られます”うどん”は、60%が国内の小麦で確保されています。
北海道を除く日本の大部分では、雨に弱い小麦の栽培には向かない気候(特に梅雨)のため、秋に播いて梅雨前に収穫する秋播き小麦が、かつては夏物野菜の裏作として栽培されてきた経緯があります。
ところが、収量や病気等の関係で、春播き小麦としてはハルユタカや春よ恋といった強力粉の品種が育種されてきましたものの、なかなか秋播き小麦では開発が叶いません。
そのような折に出てきましたのが、強力粉を超えるタンパク含量を持った超強力小麦”ゆめちから”です。
上のグラフは、北海道におけます小麦の作付け面積ですが、キタノカオリ(強力小麦)、ゆめちから以外は、中力の小麦です。
秋播き小麦は、ゆめちからが2009年に品種登録されるまで(キタノカオリはわずかに栽培されていましたが)、ほぼ中力の小麦が占めていて、その傾向はまだ継続されています。
素人的な私見ですが、超強力小麦は北海道に任せて、ブレンドする中力の小麦を本州以南で栽培することは(国策でも)できないのだろうかと考えてしまいます。
カフェタナカ本店
こちらが、名古屋市北区上飯田にあります、カフェタナカの本店です。
クラシカルな佇(たたず)まいで、店舗前の植樹も雰囲気を醸し出しているかのようですね。
店舗を訪れてくれた家族から写メが届きます。(いつも、本当に感謝しています)
商品は2アイテムあり、ひとつは超強力のゆめちからをブレンドした北海道小麦100%の食パンで、他方は国産の中力粉を使用した商品、と早合点していました。
と言いますのも、以前にリポートしました敷島製パン・なごやんの愛知県産『きぬあかり』の記憶が残っていて、てっきり中力粉の食パンとばかり思っていたのでした。
その結果、興味の矛先は迷わず後者に向かってしまいます。
湯種生食パン”柔明”(やわらか)(2斤 918円 税込)
『地元愛知県産小麦「ゆめあかり」を100%使用し、湯種低温熟成製法で作った卵不使用のもっちり生食パン』が、店頭での商品説明です。
愛知県では2013年度から秋播きの「きぬあかり(愛知県育成品種)」が育成の中心となり、2014年度より同じく秋播きの「ゆめあかり(同)」を試験作付して、徐々に収量アップを目指していたものでした。
ちなみに、愛知県の小麦粉生産量は全国5位で、ゆめあかりはタンパク含量が11.5±0.5%と準強力粉~強力粉に分類される品種でした。(品名が似ていて紛らわしい、と言い訳したくなります)
さて、家族に持ち帰ってきてもらった柔明(やわらか)食パンを手提げ袋から覗き込みます。
外観・重量
きれいにホワイトラインが出ていて良好な外観品質です。
重量は2斤で794g(=800-6g(包装紙+クロージャー))と、1斤表示(340g以上)の基準からはやや重めです。
焼色は全体的にやや薄めで、上面と比較して側面がさらに薄くなっています。
おそらくデッキ式オーブンで焼成し、もしかしますと隣の食型との間隔がやや狭かったのかもしれません。
上面
成形方法はU字成形で型詰めされています。
223g(=794g/0.89(baking loss : 9%+cooling loss : 2% と仮定)/4玉)程度の生地をU字成形し、下図のように交互に食型へ詰めて入れています。
側面
これだけ薄い焼色ながら腰折れもなく、きれいな形状を保っています。
生地重量が大きく、型生地比容積を小さくしたことに因るところかもしれません。
生地のつなぎ目が側面にも出ていますが、やや成形が乱れたのでしょうか。
こちらは、逆側の側面です。(同様のつなぎ目の模様が出ています)
底面
リテイルベーカリーでは珍しく、穴なしの食型を使用しています。
穴なしの食型を使用しますと、たしかにおへそのような跡は残らないのですが、時々ガスが抜けきらない跡が底面に出る場合があります。
底面にやや焼きムラ(向かって左側がやや薄い)が出ていますが、ガス抜きの穴がない影響か、食型自体の変形もしくは菓子用のオーブンで炉床がスチール製といったことも推測されます。(一般的なパン用のデッキ式オーブンの炉床には、(熱容量が高く、熱伝導率の低い)石質材が用いられています)
複合的に離型油の塗り過ぎといったことも考えられます。
あと、気になった点としては、両端のエッジが立っている点です。
折り曲げ加工の食型であれば、長手方向のように湾曲したRが形成されるはずなのですが・・・。(切り出した金属板を、外側ではなく内側で合わせたかもです)
内相
全体的に白く、きれいな内相です。
底詰み、スジシマ、かぎ穴等は一切なく、縦に伸びたスダチが形成されています。
食感・食味
比較的リーンな配合のようで小麦の風味がとても生かされています。
食感に関しては、クラストは焼色を抑えているところからソフトで歯切れはいいのですが、クラムにやや脆さを感じました。
基本的な製法に忠実に従っている感があるのですが、そのような点では現在流行りの高吸水の配合で仕込まれるのも・・・余計なお世話ですね、失礼致しました。
あとがき
先述で、愛知県の小麦収穫量は全国では5位の生産量になる旨を記しましたが、10a当たりの収量では、北海道を抜いて30年度産では全国"NO.1"だそうです。
かつて、山崎製パンではホクシン等の国産中力小麦を使用した角形食パンを商品化した経緯があります。
現在では製造終了となっていますが、このような取り組みは非常に深い意味があると理解しています。
パンの食料自給率向上を図っていくために、強力小麦の育種を進める方法も当然ありですが、タンパク含量の少ない小麦でおいしいパンを作る(できれば量産の)技術が開発できれば、本州以南での小麦の栽培が進む可能性を秘めている、と期待しています。(これ、技術屋さんの仕事!)
追記(2021年1月17日 PM12:45)
秋播き小麦を稲の裏作ですればいいのに、と思われた方はいらっしゃいませんでしたでしょうか。
そうですよね、稲の収穫が終わって小麦を植え、梅雨前に小麦を収穫して、田植えをする、理想的なようにも思えます。
ところが、稲と麦では適した土質が異なります。
つまり、保水性の高い水田で育てる稲と水捌けのいい土地で育てる麦では、どちらかの土質が合わない、と。
でも、そのような問題を解決するのが技術屋さんと思いました次第です。