黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

北海道で、パスコ

ゆめちからテラス

 札幌での学会も3日目となり、この日は午前中に少し時間を作って、野幌にあります『Pasco 夢パン工房 野幌店(平成30年5月オープン)』に足を伸ばしました。

 ここは、敷島製パンPasco)と道央農業協同組合(JA道央)が、硬質小麦「ゆめちから」を使った新たな価値の創造を求めて、共同プロジェクトとして立ち上げた施設です。

 Pascoとしては、平成25年札幌市手稲区の1号店に続く出店です。

 この施設にはPasco夢パン工房とともに、地元の生産者が自ら運営する「のっぽろ野菜直売所」が出店していて、採れたてで野菜を販売して地域農業の発展を目指しています。

 ちなみにゆめちからという小麦の品種は、北海道農業研究センターが育成した硬質の秋まき小麦で、9月頃に種をまき、雪の下で冬を越し、種をまいた翌年の7〜8月に収穫が行われます。

 私も敷島製パン在籍中には、ゆめちからの業務に携わっていますが、そのことはほんの少しだけ『ゆめのちから---食の未来を変えるパン 盛田 淳夫著』に記載があります。

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 施設に入ると、左手に焼き立てパンの店舗:夢パン工房があります。

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 店内にはイートインのコーナーも設けられていて、店内の好きなパンをチョイスして、ここですぐに食べることもできます。

 この日は、店舗への到着がちょうど開店直後だったのですが、すでに多くのお客さんが商品を選んでいました。

 もちろん、品揃えも店員さんが大忙しで対応していて、そのテキパキした動きもとても好感の持てるものです。

 なんとなくですが、活気のあるお店のパンはそれだけでおいしさが上乗せされているように感じるのは私だけでしょうか。

 パンが、小麦等の原材料からまるで生き物を育てるかのように造っていく過程を重ね合わせてしまうのかもしれません。

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 店内にありました超熟食パンのパネルです。

 北海道産小麦で作った北海道限定版の超熟です。

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 そして、全てのパンに北海道産小麦を使用していて、もっちりした食感が特徴の超熟食パンの他、イングリッシュマフィンや石窯で焼いた超熟ハースなどバラエティ豊かに取りそろえています。

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 今回は、北海道でしか販売されていない超熟ハースと白焼きの豆パンを購入しましたが、そのリポートは、また後日に。

偶然の出会い
 ところで、イートインコーナー(下模型③)で購入したパンを食べていましたところ、たまたま敷島製パン在籍時の知り合いに遭遇し、見学コースに誘って頂きました。

 ちなみに、外観の写真を撮ったところは①の位置となります。

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 店舗を出て左手の壁に沿って歩くと、扉の向こうに上りの階段があって見学コースに行くことができます。

 このゆめちからテラスの模型は☆マークのところに展示されていました。

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 Pasco夢パン工房は、セントラルキッチンが併設されていて、近隣のスーパー等へ卸しているとか。

 規模は小さいながら、最新の製パン機械設備が導入された清潔感と活気溢れる施設でした。

 そうなんです、北海道でもPascoの超熟を食べられるようになっていたのです。
 

今日が本番 ~ 日本食品科学工学会 第66回大会

テーマは、食パンの焼成

 いよいよ、大会の2日目(午後)から一般講演が始まります。

 しっかりとホテルの朝ご飯を食べてから、地下鉄で2駅のところにあります藤女子大学へ向かいます。

 とりあえず受付を済ませてから、まずは自身の発表の準備です。

 試写室でプレゼン資料の動作確認をしてから、休憩室で発表時間を確認しながらのリハーサルです。

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 昼は、公開ランチョンシンポジウムというお弁当が出るシンポジウムがありますので、それに参加します。

 テーマは、『伝統的調味料の国際化への対応』ということで、北海道産魚醤油、鰹節、キッコーマン醤油、といった商品の海外展開について講演がありました。

 いろいろなハードルがある中、よくぞここまで海外へ進出できたと、各企業の安全性や保存性、食品衛生環境基準などへの対応の細やか(そのためのデータの収集と積み重ねは)に驚かされることしきりです。

 そういえば、ヤクルトも海外への展開当初は全く売れなかったと聞いています。

 ビフィズス菌の英訳が、Bifidobacteriumとなって、特に後半のbacterium(バクテリア)が海外の人達になかなか受け入れてもらえなかったそうです。

 それでも、ヤクルトは実証データを基に効果を丁寧に伝えていったのだとか。

 さて、今回私が発表した研究テーマですが、パンを製造する時に圧力を掛けながら焼いていこうというものです。

 昨年11月に開催されました第39回日本熱物性シンポジウムでも発表をしましたが、若干の進展がありましたので、その部分を足しての報告です。

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 ご飯や餅、団子など、お米を原料とする食品の加工には圧力を操作するケースが多々見られるのですが、ことパンに関しまして、そのような加工方法はほぼ皆無です。

 穀物に含まれますデンプンは、一般的に90℃を少し上回ったところに糊化温度があることが知られていますが、100℃を上回ったところにも原材料の変性を起こす温度帯が存在すると言われています。

 電気屋さんの炊飯器のコーナーにあります圧力釜の中に103℃とかの表示を目にしたことはありませんか。

 明らかに圧力釜の圧力からは低く、微妙な温度といった感じですよね。

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 今回のパン生地中心部の温度は101℃で、目標としている温度にはまだ届いていません。(それでも、食パン焼成時の一般的な最終生地温度は96~98℃台程度ですから、確実に火通りは良くなっていると思っているのですが)

 焼き上がりました食パンに関しましても、今のところ十分な効果は見られていませんが、もう少しがんばって装置を改良していこうと意気込んでいるところです。

今後に、乞うご期待!

いざ札幌へ ~ 日本食品科学工学会 第66回大会

北海道で開催

 日本食品科学工学会 第66回大会が、今年は北海道札幌の藤女子大学で開催されます。

 日頃、技術指導や講演の傍ら、実は地道にコツコツ、新しい技術開発にも時間を使っていて、今回はそんな積み重ねの発表を行うべく、ここ札幌までやって来ました。

 とはいえ、家族は夏に北海道へ行けていいね~、くらいにしか思っていないようで、それなら、とNHK連続テレビ小説なつぞら』で有名になった、あんバタサンをお土産にリクエストされました!

 早速、新千歳空港に降りた足でお土産屋さんへ行ってきたのですが、(今の話題ですから)大方の予想通り、完売御礼の札が…。

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 更に、JRで移動して札幌駅周辺の大丸等のデパート内に入っています柳月直営店に行ってみましても、ここでも同様に完売御礼。

 店員の方に聞くところの話によりますと、10時の開店時には既に行列ができていて、開店とほぼ同時に完売になるとのこと。

 さすがに、この時点で他の店舗へ行く気もなくなります。

 ただ、家族からのリクエストがありながらも、私もパンだけではなく、菓子製造の技術指導も行っています関係上、まったく興味がなかったわけではないのですが。

 このあんバタサン、製造元である柳月特性のあんバタークリームをサブレで参した商品です。

 北海道には六花亭のレーズンバターサンドが有名ですが、正直なところ、私は少々レーズンが苦手ですので、その意味でも期待が膨らんでいて…。

 今の予定では、帰路の新千歳空港で直営店の開店時間:AM8時に狙いを受けて、買いに行こうかと。

 ちなみに、本店がある帯広では普通に買うことができるとの情報を、翌日に聞きました。(そういえば、六花亭の本店も帯広だったような)

 もし、今回買えなければ、10月に帯広へ行く予定がありますので、その時に。

 さて、疲れだけが残った札幌駅周辺の散策を終えて、札幌駅から徒歩5分のビジネスホテルにチェックインします。

 そして、明日が本番の研究発表の準備に掛かっていましたが、気を取り直そうと一度外出して、周りを散策!

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 ちょうど、2ブロック歩いたところに観光名所となっています時計台がありました。

 時刻はPM16:00を回っていましたが、それでも結構な人で賑わっています。

 写真に建物全体を入れようとしますと、なかなか敷地内で撮影しますのは大変で、その為か多くの人が歩道から撮影しています。

 ある意味、訪れています人の数から考えますと、建物を撮影した時に比較的多くの人が写らないのは好都合です。

街のパン屋さん ~ KANIEベーカリー

工場直売の焼きたてパン屋さん

 名古屋駅近くの催事場で家族が買ってきてくれた食パンがKANIEベーカリーの湯種食パンでした。

 このパン屋さんですが、主にホテル、結婚式場、レストランといったところへ業務用のパンを卸しているそうです。

 元は、蟹江製粉という製粉会社の製パン事業部として設立されたそうで、店舗は蟹江製粉の工場に入っているみたいです。

 ところで、工場直売と聞きますと、実は以前に勤めていました製パン会社の工場でも敷地の端の方に店舗を構えていて、その日の生産で出た余剰分を安価で販売していたことを思い出します。

 工場としましては、その日の受注分に対して欠品を出す訳にはいきませんので、どうしても必要数+余裕分を含めて生産することになります。

 当然のことながら、必ずと言っていい程、最終的に作り過ぎた生産分が残ってしまうのですが、それを工場横に併設された店舗で販売する訳です。

 考えてみますと、この製品、見た目はスーパーマーケットやコンビニで販売されています商品と同様に包装された状態なのですが、間違いなく焼き立てパンです。

 包装直後の状態のパンは、焼成後に生じる生地内部の水分移行がまだ進んだ状態になく、この時点ではほぼ焼き立てパンの『外はパリッ、内はしっとり』の状態にあります。

 もし、製パンメーカーの工場が近所にあって、そこの工場製品を買うことができるのでしたら、製パンメーカーの商品の楽しみ方のひとつになるかもしれませんね。

 話を戻して、今回のKANIEベーカリーですが、卸している先が小売店という訳でもなさそうですので、なかなか上記のように小売店で売っている製品と比較して、といった楽しみ方は難しいかもしれませんが、業務用製品の焼き立てを楽しまれてはいかがでしょうか。

 ところで、ここの商品は結婚式場に関連して、紅白のパンがラインナップされています。(ホテル用Marrage Bread:紅白のロールパン)

 紅色のパンは、清酒や味噌に用いられる麹菌の仲間:紅麹(べにこうじ)が使われているようです。

 紅麹は、紹興酒(しょうこうしゅ)などの醸造に用いられていて、中国では消化を助け、血行をよくする漢方薬として古典医学書にも記載されていますし、沖縄では病後の滋養食として王侯貴族に珍重された「豆腐よう」に使われています。

 さて、買ってきました湯種食パンですが、焼色は少し濃いめです。

 パンフレットに記載されていましたのは、1.5斤(300円 税込)でしたが、これは2斤サイズでしたね(業務用の商品が売っていた?)。

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 包装もシンプルで、オーブンフレッシュベーカリーというよりは(こちらも)業務用の商品といった感じです。

 紹介文には『100℃の熱湯で捏ねた生地を一晩寝かせたもっちり食感』とあります。

 なかなか詳細のノウハウは記載されないでしょうから、推して知るべし、といったところでしょうか。

 他社も含めた平均的な(最近の)湯種製法の食パンと比較しますと、あまり生地の甘さは感じられませんでした。

 小麦の味と発酵の風味を楽しみながら、オーソドックスに湯種の食感を覚える製品です。

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 以前に本間製パンのレストラン食パンでも解説しましたが、製品の底面にボタンの跡のような凹みが見られます。

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 これは、決して不具合とかではなく、食パンを安定して焼成するための痕跡です。

 この解説は、近い内に測定データを示しながら、解説することにします。

冷蔵中種法と製パン機械設備 ~ ドウボックス

 

中種法、湯種法、自家培養酵母、等々

 ホールセールの製パンメーカーが手掛ける製品開発の数量には、本当に驚かせられます。

 開発のヒントとするところも、原材料、海外、リテイルベーカリー等と多岐に渡り、この先どこまで手掛けていくのか、と興味は尽きません。

 そのような中、ふと低温長時間発酵を謳っている製品がちらほらとみられるようになってきていることから、中種法でも冷蔵中種法に関します製パン機械設備について、少しまとめてみることにしました。

 まず、冷蔵中種法ですが、常温発酵(25℃)でのエタノールエステルに加えて、低温発酵(6℃)によりますアセトン、アセトアルデヒドといったフレーバー、高級アルコール類の有効成分を生成させる製法です。

 また、冷蔵中種は本捏時に使用できる時間のallowanceが長く、一晩保存の後、翌日の朝から24時間は使用可能との記載もあります。

 製パン機械設備ですが、ここではドウボックスを取り上げてみることにします。

 ここに、形の異なる2種類のドウボックスがあったとします。

 中種の種類によって、考慮すべき点はあるのでしょうか。

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 例えば、通常の中種法でしたら、生地内部の発酵状態はどのようになっているか、イメージしてみましょう。

 仮に、捏上温度が24℃、第一発酵室の設定が温度:27℃、湿度:75%だったとします。

 生地の内部では、パン酵母の活性によって発酵が進み、それに伴って発熱が生じます。

 1時間に1℃の温度上昇が生じるとして、2~4時間後の生地内部での最終温度のムラはあまり生じないことが推測されます。

 つまり、生地内部に温度分布は概ね均一の状態で推移していくことになります。

 それであれば、ドウボックスの形状は、周囲の温度の影響を受ける必要もありませんので、材質も含めて大きな制約はないことが分かります。

 極端な話、十分に保温・保湿ができていれば、問題は無いと考えられます。

 それでは、冷蔵中種の場合はどうでしょう。

 低温発酵による独特の風味を持たせるために、生地温度としては6℃以下、生地を冷蔵する庫内温度としては4℃以下が求められています。

 捏ね上げ温度が24℃場合、実に20℃以上の温度変化を伴うことになります。

 もちろん、生地内部が均等に冷却されることはありませんので、少なからず場所毎の発酵状態に差が生じます。

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 ということは、最適な発酵状態を中種に与えるために種全体の温度はできるだけ均一に推移させる必要が出てきます。

 そうなりますと、中種の形状は薄板状にして全体への熱移動を容易にさせることが有効であろうことが予測できます。

 更に、中種の発酵状態は常温の発酵の効果も含めたものですので、必要に合わせて予備発酵を行うことになる訳です。

 

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 よく、試作室で良好な結果が出ていたのにライン製造で思った結果が出ない、といった話を耳にします。

 製造条件のスケールアップに伴って、本来の製造条件がクリアできていないケースがほとんどではないでしょうか。

 スケールアップした製造環境で、最適な条件をパン生地に与えるためには現場で変更すべき事柄は必ず出てきます。

 それは、ドウボックスの仕様であったり、予備発酵の条件であったり、と。

 実際の生地温度を測定して、確認してみて下さい。