黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

パン作りのメカニズム ~ 食品加工学・特別講義より

帯広畜産大学

 知り合いの先生との関係もあって、この大学では客員教授を仰せつかっています。

 帯広畜産大学では農学部の学生さん、長崎大学では工学部の学生さん、パン学校ではこれからパン屋さんを目指す人たちへ、といった具合に、パン作りの過程でどのような現象が起きているのかを解説しつつ、製パン機械設備への応用へと話を進めます。(もちろん、時々ですが、計算式も出します)

 この日は、工学的な目線でパン作りのメカニズムについて解説する食品工学の授業です。

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 今年は食品工学の受講者が多くなったそうで、昨年までと比較して広い教室に変更となり…、あっ、学生さんが多い…、嬉しいような、プレッシャーのような…。

 私の学生の頃は、紙の出席簿が回覧されているような時代でしたが、今は学生証のICカードを指導教官の前で読み込みさせる方式のようで、下手な小細工は効きませんね。

 古代エジプトのパン作りから産業革命による技術の進歩に伴って進化してきた製パン工設備、そして近年の湯種製法や冷凍生地製パン法までを例を挙げながら解説です。

 講義の後には質問に来る学生もいて、そんな時にはちゃんと聞いていてくれた、と正直なところ、少しうれしくもなってきてしまいます。

 講義後に構内で向かったのは、敷島製パンが産学連携協定で製パン機械設備を導入した『とかち夢パン工房』です。

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 昨年の看板と比較しますと、その上部に『Pasco 未来パン共同研究講座』が増えています。

 確かに、帯広畜産大学の研究成果としましては、パン関連の論文や特許をよく目にします。 www.santa-baking.work

 そして、工房の中に入ってみますと、そこには一通りの製パン機械設備が揃っていまう。

 ホームベーカリーで研究試料(パン)を作る研究室も多い中、この大学研究室ではスクラッチによる製造方法で製パンしています。

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 実は、この日にとかち夢パン工房へ足を運んだのには理由があります。

 ある装置の導入の可否について調べるためです。

 結論・・・進められそうです(残念ながら、詳細は伏せさせて頂きます)。

昼食

 昼食は、私の勝手なお願いで豚丼を食べたいとお願いをしましたところ、『いっぴん』という人気の店に連れて行ってもらうことができました。

 同行の先生は豚肉のカットを多くされた上に、白髪ねぎのトッピングを追加注文。

 それを見て、私も豚肉のカットは同様に多くしてもらいました。

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 うまい!、の一言です。

 帰りには、このお店の豚丼のたれが店頭販売されていましたので、我が家へお土産として購入しました(既に六花亭で買ったお菓子類でキャリーバッグは、ほぼ満杯状態なのですが)。

 

話は変わって

 先日はノーベル化学賞の発表があり、旭化成名誉フェローの吉野さんが受賞されました。

 受賞対象となった研究内容は、リチウムイオン電池の開発に関わる研究とのこと。

 民間企業の研究者でも評価されるという希望を頂いた気持ちにさせて頂きました。

 受賞、おめでとうございます、そして、ありがとうございます。

コロンブスの卵を知る日! ~ 混ぜ込み食パン(ブルーベリージャム編②)

改善は一歩一歩

 『1日一歩、3日で散歩…』という懐かしい歌がありましたが、新しいことを進めていく為にはひとつひとつの積み重ねが大事であることを往々にして思い知らされます。

 こうしてみますと、今は当たり前のように思っている技術でも、実は確立されるまでのプロセスが茨(いばら)の道だった、ということも往々にしてあることが推測されます。

 今回の混ぜ込み食パンも造り方を知っている人に教えてもらっていれば、すんなり簡単に済んでいたのでしょう。

 それを、ああでもない、こうでもない、と笑われてしまうようなことを繰り返しているのですから、まったく非効率的です。

 コロンブスの卵とは、よく言ったものです。

 ですが、私の本業である研究の分野では基本的に既に知っている人は存在しません。

 もし、誰かが知っていることであれば、そのテーマは研究の対象とはならないからです。

 研究には研究者のセンスが問われると言われたことがあります。

 今回のような試作も、センスを磨く糧となればいいのですが…。

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 改めて、ジャムを混ぜ込んだような食パンは珍しくないのに…、と思われている方もいるかと思いますが、ロール成形する生地のサイズで製造の難易度はまったく違ってきます。

 今回は、食型の長さ方向に4個のロール成形した生地を並べなくてはなりません。

 つまり、前回のように玉生地から圧延してロール成形したのでは、どうしても長さが出過ぎてしまい、食型に収まらなくなってしまいます。

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 そこで、今回は一度ロール成形した生地を休ませて、その後に再度圧延してロール成形することにしました。

 一応、生産性も考慮して、ベンチタイムは10~20分で条件を振ってみました。

 個人的な感想ですが、やはり15分程度は休ませた方が生地の伸びもよさそうです。

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 そして、延ばした生地にブルーベリージャムを塗る訳ですが、最終的にφ45mm程度となるロール生地の外周の長さは10数センチと計算されます。

 そのため、そのジャムを塗らない部分を残して、この状態で生地を巻いていきます。

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 型詰めは非常にスムーズでした。

 おそらく混ぜ物のないパン生地のみの製品であれば、これでOKだったのだと思います。

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 そして、最終発酵なのですが、この段階でなにやら外観形状にバラツキが出ているような…。

 なんとなく嫌な予感は見事に的中して、焼き上がった食パンのスライス面は理想には程遠く。

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 更には、生地から漏れ出たジャムがパンの底に浸み出している始末でした。

 とりあえず、今回の成果としては成形・型詰めのし易さの点で得るものがあったものの、巻き数を増やしてクラスト部分にはやや厚めの生地がロールされていないと…。

 次回へ続きますね、やっぱり…。

 

 

ホールセールのパン ~ 山崎製パン スィートブレッド

おもしろいパンを見つけました

 実は、中国に出張の際、安い山形食パンが最近になって発売されている、という情報があって、中国No.1メーカーの桃李という製パン会社の製品を先月の出張の際に探していました。

 それで帰国後、ふと近くのスーパーマーケットのパンコーナーを見ていると、…なんと山崎製パンから同様の商品が販売されているではありませんか!

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 早速、購入してみました。

 この日本の山形食パンも98円(税抜き)と安いです。

 このタイミングですので、どちらの製品が先に上市したか、まだ調べていない私には分からないのですが、同じタイミングで同スペックの商品が市場に出る確率も低いでしょうから、おそらくどちらか先に出した方の情報で類似商品を市場に出した、ということなのでしょうか。

 もし、そうだとしても情報の拡散するスピードには目を見張るものがあります。

 さて、このスィートブレッドですが、商品の重量表示は4/5斤(1斤は、340g以上)とあります。

 重量のイメージとしましては、同社の代表的な商品:ダブルソフトと型生地比容積は同じにして、長さ(1.5斤サイズ)を通常の1斤サイズの長さに変えた感じです。

 ですから、一般的な山形食パンのサイズと比較しますと、高さが低く、角形食パンより少し高い程度となっています。

 物流面で見てみますと、これなら角形食パンと同様の搬送が可能かもしれません。

 ここ最近、ホールセールの製品でなかなかインパクトのある特徴を持った商品にお目に掛れないと嘆いていましたが、そんな中でもやはりトップメーカーは以前にご紹介しました『生食パン感覚』の食パン等、トレンドを捉えた商品をマーケットに提供してくれています。

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 さて、価格を抑えた、この食パンをもう少し見てみましょう。

 上部の山の形状を見てみますと、一般的な玉生地成形ではないような…、山の数が多く、間隔が狭すぎます。

 山の数は、4つ山のように見えますが、もしかしましたら3つ山かもしれません。

 製品重量が 4/5斤ということは、一般的には安全係数を1.1程度見て、焼減率が11%としますと、3斤サイズの食型を使用した時の生地重量は、340g×(4/5)/(1-0.11)×1.1 = 336g 、となります。

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 4つ玉なら84g×4、3つ玉なら112g×3、となりますが、成形方法は中間発酵後、ガス抜き、ロール成形して、そのまま型詰め、のように見えます。

 それであれば、多少の人手は掛かっても、特別な成形機も必要とせずにラインに載せることが可能かと考えられます。

 そして、型詰め・最終発酵後にはウォータースプリッターで縦にカッティングを入れれば、この写真のような製品を作ることはできるかと。

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 ちなみに内相も角形食パンに近いものを感じます。

 少なくとも山形食パンやダブルソフトのような大きな気泡ではなく、角形食パンのような細やかな気泡が印象的です。

 私の勝手な推測ですが、生産ラインをうまく回して製造しているとすれば、さすがは山崎製パン、と頷ける商品との感想です。

チャレンジに失敗はつきもの ~ 混ぜ込み食パン(ブルーベリージャム編)

混ぜ込み食パンの作り方を独自に考えてみる

 既に一般的なパンの作り方は覚えてしまっていますものの、時として(できれば)真っ新の状態から自分で考えたパンの作り方を突き詰めていきたい、などと考えてしまいます。

 今回、妻の実家から自家製のブルーベリージャムを送ってもらいましたことから、混ぜ込み(?巻き込み)の食パンを作ってみたいと思います。

 ちなみに大手製パン工場の連続製パンラインでは、このような製品をあまり手掛けてはいませんので、できればライン生産を視野に入れた製造方法につながれば、とも思ってしまいます。

 もちろん、焼成時の熱量計測に係るデータ収集には、このような製品を製造することはまずありませんので、今回は興味の部分も多分に含まれている、と。

 ところで、今回の試作にはもう一つの理由が。

 それは予てより、試作した食パンの形状が不安定で、少しでも安定した成形方法はないものかと苦慮していたことにあります。

 モルダーを揃えればほぼ解決する問題なのですが、諸事情もあり、作業方法で対応できないかと考えている次第です。

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 今回は、ロール成形後の生地長さを90㎜程度に抑えなければなりませんので、できるだけ長く生地を伸ばさなければなりません。

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 手作業だからこその操作なのですが、玉生地からの圧延では上図の状態に留まります。

 結果的には長さは足りませんでしたので、次回の試作では別の方法を試してみる予定です。

 そして、この状態で混ぜ込みのブルーベリージャムを塗るのですが…。

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 あまり深く考えず、比較的均等にジャムを塗ってしまいましたのが、結果的には失敗につながってしまいました。

 ロール成形した際の外周1周分はジャムが入らないようにしないと、外周部の生地が潰されてしまいます。

 今回は、8玉中2玉にジャムを塗って、成形・型詰めを行いました。

 型詰めの状態は、山崎製パンのダブルソフトと同様の方法で、それを8玉で成形しています。

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 けっこう窮屈な状態ですが、なんとか型詰めできました。

 そして、最終発酵45分後の状態がこちらになりますが、ブルーベリージャムを混ぜ込んだ生地の部分が少々変形しているような…。

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 ホイロゲージは型下15㎜で、焼成に移ります。

 型温度の設定を38度から140℃へ変更して、35分焼成します。

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 生地部分の形状はほぼ想定通りながら、ジャムを混ぜ込んだ部分の形状がやや不規則な状態になっています。

 冷却後にスライスして断面を見てみますと、巻き数は少なく、外周部は薄皮状態です。

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 誰に教えてもらった訳でもない、初めての混ぜ込み食パンですが、無残な結果となってしまいました。

 ただし、収穫がなかった訳ではありません。

 混ぜ物を入れない生地部分では外観・内相共に良好でしたので、今後の試作・実験では、この成形方法で進めていきたいと考えています。

 それに、混ぜ込み食パンも次の手はしっかりと考えていますし。

試食

 ところで、焼き上げた食パンを自宅に持ち帰って、早速食べてみることに。

 手前味噌で申し訳ありませんが、これがなかなかおいしい!

 元の冷凍生地の品質が良かったからと思われるかもしれませんが、作り方次第ではおいしくない場合も過去にはありましたので、製造条件もそれなりに良かったのかと。

 今さらですが、研究の仕事にも楽しみは必要ですね。(実感!)

街のパン屋さん ~ パン・ド・サンジュ とびばこパン

この形…工夫が詰まっています

 今回のとびばこパン(410円 税別)、突然ですが、こんなパンが私は好きです。

 なにが好きかと言いますと、工夫を凝らして、どうやって作っているんだろう、と、考えさせてくれるところに想像力を搔き立てられてしまいます。

 大阪府堺市にあります「パン・ド・サンジュ」は、「 おサルのパン」という意味のフランス語だそうです。

 たしかに、パッケージの箱にもおさるさんのデザインが配(あしら)われていましたね。

 そういえば、類似した製品のひとつに、以前、いろねこ食パンを紹介させて頂きました。

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 この時もねこの耳の部分が内側に入り込んでいるように見えて、同様作り方を模索していました。

 私の中の結論としましては、ねこの耳の部分はクーリングの収縮で内側に入り込んだように見えていて、製造時に使用している型はほぼ垂直にできているのではないかといった内容でした。

 さて、とびばこパンですが、パッケージは随分重厚です。

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 そして、パッケージを開けて中身のパンを取り出しますと…。

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 出てきました、パッケージとほぼ等身大のとびばこパンです。

 この商品ですが、スライス方法が添付の資料に載っていました。

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 ひとつは、とび箱の各段毎に横方向でスライスする方法です。

 ただし、この場合、各スライスの大きさが違ってきますので、争ってケンカをしない様にとのことです。

 それでは、もうひとつのスライス方法とは…?

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 それは、オーソドックスに縦方向にスライスする方法です。

 たしかに、このスライス方法でしたら、一般的な食パンと一緒ですからね。

 それでは、ここからとびばこパンの製造方法について、推測していきたいと思います。

 その前に、この商品の状態を軽く説明しておきますと、生地の上面と底面はとび箱の上面・底面と合っています。

 つまり、上方向が広くなっている食型に型詰め成形をして、逆さま状態で焼き上げてからひっくり返したのではなく、広がっている状態を底方法として、そのまま焼成しています。

 ですから、食型からパンを外すためには物理的に考えて、とび箱形状の型を上に剥がすしか方法はないように思われます。

 そうなりますと、どうやって最終発酵を取るのだろうか、といった疑問が出てきます。

 食型の上に行くほど面積が小さくなっていますので、一般的な食パン以上に発酵時の正確なレベル出しが必要になってきそうです。

 実際の製造現場を見ていませんので間違っているかもしれませんが、天板に並べた生地の発酵はサイドの枠のみで膨張させて、焼成前に蓋をする、といった方法であれば、造れるのでは。

 私が将来、とび箱パンを作ることはないと思いますが、こういった考え方は、もしかしますと他の製品へ応用される日が来るかもしれません。