黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

ベーカリーにおける冷凍技術とは(保存編) ~ VIE DE FRANCE (ヴィ・ド・フランス)

 日本でベーカリーにカフェスペースを併設したベーカリーカフェという新しいスタイルを1983年にスタートさせましたヴィ・ド・フランスは、現在、全国に約270店舗を数えるまでに至っています。(下写真は、一昨年の北海道出張時に立ち寄りました羽田空港内のヴィ・ド・フランスです)

 

ヴィドフランス

 

 そのヴィ・ド・フランスを支えている技術のひとつが冷凍生地製パン法であろうことは容易に推測でき、そこから波及して、現在同社は社外のリテイルベーカリーへの業務用冷凍パン生地の販売を手掛けるようにもなっています。(同社の業務用冷凍パン生地通販ネットショップHPより)

 

 今回は、ヴィ・ド・フランスの商品のご紹介とこれまで進化を続けてきました冷凍生地製パン法の内、保存方法について解説します。

 

【 目次 】

 

冷凍生地製パン法

 冷凍生地製パン法とは、パン生地をミキシング・分割後、丸目や成形他まで工程が進んだ段階で一旦冷凍して進行を止め、適宜の時間を空けて解凍した後、残りの工程を進める製パン法です。

 

 私は30年ほど前に、この製法の仕事に携わってきましたが、当時とは比べ物にならない程、現在の製品レベルは向上していて、スクラッチで作る生地にもけっして引けを取らないと感じています。

 

冷凍生地製パン法

 

 さて、この製パン法には、[冷凍][保存][解凍]の各プロセスにポイントとなります条件がありますが、今回はその中の保存条件に付いて、少し触れていきます。

 

 近年、冷凍食品全般の品質向上は目を見張るものがあり、冷凍パン生地自体もスーパー等で販売されていますので、店舗のベーカリーのみならず家庭でも冷凍パン生地を扱う機会がありそうです。

 

 ところで、冷凍庫の中に保存されているパン生地は完全に凍結していないということをご存知でしたでしょうか。

 

 パン生地に限らず、多様な成分が混合されている食品には温度によって凍結率(凍結している割合)が異なっていて、当然低温下においては、より凍結率が上がり、完全に凍った状態に近づきますが、一般的な冷凍庫内では100%に至ることはまずありません。

 

冷凍生地製パン法

 

 冷凍食品は業界の自主基準により-18℃以下での保存、流通が要件として定められています(食品衛生法で示されている基準は、-15℃以下)が、より厳格な状態が求められます遠洋漁業のマグロの凍結保存には-50℃程度、(少し逸れますが)昨今のコロナワクチンの保管温度は、ファイザー社製で−75℃(±15℃)、モデルナ社製で−20℃(±5℃)、アストラゼネカ社製で+2〜8℃(それぞれ6ヶ月間の保管が効くとのこと)で運用されています。

 

 ただ、一般的な冷凍機におけます冷媒の蒸発温度が-40℃程度ですので、特殊な冷凍機器を使用してもなお、いかにファイザー社製のコロナワクチンの取扱いが難しいかが推測できると思います。(一応、冷凍機械責任者とエネルギー管理士の国家資格、持ってます。)

 

 逆の言い方をしますと、モデルナ社製やアストラゼネカ社製の場合は、一般的な冷凍庫・冷蔵庫でも保管管理が可能ですので(とは言っても案件が案件ですので、低温恒温庫は使用していると思いますが)、それだけ安定したワクチンの供給体制を構築することが可能となります。

 

 (すみません、話が逸れました)話をパン生地に戻しますと、上のグラフで例えば設定温度±1℃の温度幅で冷凍庫が制御されている場合、生地への影響はどうなるでしょう。

 

 -5℃と-20℃の条件で比較しますと、グラフ中に赤色の矢印で示したようにパン生地の凍結率の変動には明らかな差が生じます。

 

冷凍生地製パン法

 

 凍結率の変動が生じますと、物理的平衡状態にあります生地中では小さな氷結晶が溶けて、残った大きな氷結晶が成長するといったサイクルが繰り返されます。

 

 結果として、生地中から水分が昇華(しょうか)して冷凍焼けを起こしたり、生地構造を破壊して伸びの良くない生地に劣化させたりしてしまいます。

 

 パン生地に限らず冷凍の状態で食品を長期保存する場合には、冷凍庫の引き出しを開けても温度変化の小さい底部に置くようにして、上部には早期に使う予定の食材か(家庭でも予備に置いていたりします)冷媒を置くようにした方がいいかと思います。(なお、冷凍ストッカーの場合は、(壁面冷却+上部扉)といった構造ですので比較的温度が安定しています。)

 

ヴィ・ド・フランスで、今回購入した商品

 同社ではスクラッチ製法の商品も扱いながら、おそらく冷凍生地も併用していると思われますが、私はけっして内部事情を知っている訳でもありませんので、あくまでも個人的な推測です。

 

 先述の通り、ヴィ・ド・フランスは自社の通販ネットショップで業務用冷凍パン生地を販売していますが、同社にとっては冷凍生地の設計は自社で決定できる点が強みです。

 

 逆に購入する側では、生地の品質的なレベルの高さはあっても、そこから如何にオリジナリティを出していくか、がポイントとなるでしょう。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 今回のパンは、名古屋駅地下街のサンロード店で購入してきました(・・・今回も家族が)。

 

優煌(ゆきら)食パン(400円 税別)

 北海道産の国産小麦を使用した1斤サイズの角形食パンです。

 

 ただ、どのような銘柄の小麦粉が使用されているか、までは分かりません、春よ恋? ゆめちから?・・・。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 全体的に焼色はやや濃いめで、若干、側面のケービング(腰折れ)が気になります。

 

 玉生地は1斤当たり2玉を使用して、U字成形で向きを交互に詰めているようです。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 生地底面は、他の面と比較して焼色が濃い傾向にあり、クラストも厚めです。

 

 外観形状(ケービング)と併せて考察しますと、少々焼成時間が長いのかもしれません。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 内相では、膜は薄く、縦目はややおとなしい感じでしょうか(最終発酵が長めとか)。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 包装紙の3.5gを差し引きますと350gですから、1斤表示の基準(340g以上)からは、あまり余裕がない重量です。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 トーストして食べてみますと、中力粉のパンのような(もっともどこにも強力粉とは記載されていないのですが)ややパサついた食感が感じられ、1斤400円という価格と併せて個人的にはリピートはあまり考えられない、かと。

 

 もっとも、食感はパンの比容積や吸水に因るものなのかもしれませんが。

 

津軽産アップルパイ(ハーフ)(500円 税別)

 編目状の生地を上部に被せたパイです。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 成形時にはこの商品の倍の幅の生地にアップルフィリングを吐出して、焼成後に中央でカットし、断面のリンゴを見せています。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 大粒のリンゴがこれでもか、というくらいに詰まっていますが、注目すべきはきれいにカットされたこの断面です。

 

 これだけきれいに断面を見せるためには、超音波カッターのような切れのいい装置を使用されている可能性が高いと推測します。

 

あんクロワッサン(140円 税別)

 クロワッサン生地で小倉あんを包餡して最終発酵後、フライされています。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 焼色は全体的に付いていますので、もしかしますと潜水式のフライヤーで揚げているのかもしれません。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 包餡されている小倉あんの部分にはフライ油が浸みこんでおらず、この形状でもしっかりと閉じられています。

 

 生地のサクサク感と小倉あんの抑え気味の甘みは、まさに『おいしいものは、油と糖でできている』状態です。(すみません、かなり個人的な嗜好が強いですけど。)

 

デニッシュホーン(巨峰)(240円 税別)

 先述のあんクロワッサンと似た成形方法ですが、こちらの商品では両端を閉じていません。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 巨峰のフィリングは焼成・冷却後に、生地の両端にデポジットされています。

 

ヴィ・ド・フランス

 

 包餡されているのはクリームチーズでしょうか、巨峰のフィリングとの相性は絶妙です。

 

あとがき

 もしも仮に、私が焼き立てパン屋さんを開業するようなことがあれば、冷凍パン生地は買うのではなく、おそらく自分でお店用の冷凍生地を仕込んで、運用していく方がおもしろいと思っています。

 

 販売されている冷凍パン生地は品質のレベルが高くても、やはり配合や重量といった細かい特徴の差にこだわることができなくなりますし、オリジナルで勝負できなくなりそうですから。

 

 私が焼き立てパン屋さん・・・、大変そうですけど、楽しいかもですね。

 

生クリーム専門店Milkとの共同開発のパン・ローソン&山崎製パン ~ ホイップクリームの充填

 少し記事をアップするタイミングを逸してしまいましたが、ミスターエスプレッソ (id:mrespresso) さんの記事を読ませて頂いて、ローソンが生クリーム専門店Milkとの共同開発商品を出したことを知り、実は早々に購入していました。

 

www.coffeelab.work

 

 近くのローソンでは、商品棚はこのような感じです。

 

LAWSON BAKERY

 

 あまり目立った感じではないですね。

 

 今回は、先述の企画商品2品の紹介と、その商品に充填されていますホイップクリームに着目しまして、連続生産ラインでフィリングを充填する装置に関して、解説していきたいと思います。

 

【 目次 】

 

フィリングの特性と充填装置

 焼成後のパンに餡やカスタードクリーム、マーガリン等を充填する装置に関しましては、以前にも解説しました。

 

www.santa-baking.work

 

 ところで、パンに充填するフィリングは装置内で力が加えられて押し出されるようにパンへ流れていきます。

 

 下の図ですと、①ロータリーポンプ式や②ピストン式といった方式に関わらず、ノズルから出てパンに到達するまで(濃い青で示されました矢印の範囲)の工程では、加圧され圧力が高くなっている状態にあります。

 

フィリング充填装置

 
 さて、ここでホイップクリームを充填する場合を考えます。

 

 非圧縮性の餡やマーガリンと違って、ホイップクリームには圧縮性の空気が含まれています。

 

フィリング充填装置

 

 つまり、圧力が加わりますと空気の部分は体積が縮んでしまい(例えば、2気圧で気体の体積は概ね1/2になります)、意図した体積が吐出されなかったり、ノズルから出てくるタイミングがずれたり、と設計者の頭を悩ませます。

 

 ちょっとしたフィリングの違いで、装置の仕様や動作プログラムに工夫が必要となりますが、このような積み重ねで装置も進化していくのでしょうね。

 

MILKクロワッサンとMILKカスタードのちぎりパン

 MILKのイメージカラーそのままの包装デザインが個性的です。

 

LAWSON BAKERY

 

 シート生地を使ったクロワッサンと玉生地を成形するちぎりパンですので、それぞれ別の製造ラインで作られている可能性が高いと考えられます。

 

MILKクロワッサン(140円 税込)

 製造元は山崎製パンですが、同社の新商品の開発力は群を抜いていますね。

 

 1年間にいったいどれだけのパンを新たに市場投入しているのでしょうか。

 

LAWSON BAKERY

 

 原材料表示の先頭には、生クリーム入りミルククリームと記載されています。

 

 包装に記載の『北海道産生クリームを使った』の意味が、生クリーム入りのミルククリームなのでしょう。

 

 普通に考えて、常温流通(25~30℃を想定)で生クリームたっぷりということは無理があるでしょうし、価格等制約のある条件下で、いかにニーズのある商品の完成度を高めるかといったところがポイントかと理解しています。(もっとも、本物志向の方には、ちょっとといった感は否めませんが)

 

外観

LAWSON BAKERY

 

 上写真の下側(三日月と想定しますと下弦)からスリットが入れられて、ミルククリームが充填されているようで、少しはみ出しているところが見られます。

 

LAWSON BAKERY

 

 層は、やはりリテイルベーカリーでの手作りほどのレベルを求めるのは難しそうです。(でも、ポジティブに言い方を変えれば、これからの伸び代があるということで)

 

LAWSON BAKERY

 

 生地底面には、横に線状の焼き色の強弱の付いた跡が見られます。

 

 特に腰持ち(高さ)の形状を意識して、プレス天板を使用しているのでしょう。

 

断面

 内相は、クロワッサンらしい目が出ています。

  

LAWSON BAKERY

 

 フィリング(ミルククリーム)の充填は平口金を使用して、コンベアの進行方向に一様に絞った感じです。

 

 平面的には、長方形に絞った感じになりますので、少し残念ですが、パン生地の両先端へはミルククリームが入らない状態です。

 

食感・食味・風味

 包装紙を開いた時点で、ミルクの風味が漂ってきます。

 

 歯切れの良い生地にホイップクリームはしっかりと十分な量が充填されていて、クリーム感のアピールを強く感じます。

 

 商品コンセプトのポイントは外さず、Milk のイメージを残した商品です。

 

MILKカスタードのちぎりパン(140円 税込)

 ソフトで黄色み掛った生地は、昨今流行していますマリトッツォのブリオッシュ生地を連想させますが、ここは油脂の感覚はあまりなく、卵黄が効いているのでは、と推測します。

 

LAWSON BAKERY

 

外観

 焼色は、やや薄めのロールパン様商品です。

 

LAWSON BAKERY

 

 一般的なちぎりパンは、小分けされた玉生地あるいはロール生地を並べて成形しますが、この商品は1本のロール生地から作られているようです。

 

 では、ちぎりやすいように付けられている上部の切り込みですが、どうやらウォータースプリッター等で深めの切り込みを入れているような外観に見受けられます。

 

 ただ、切込みの間隔が一定になっていないこと、真横に揃っていないことから、手動?とも思ってしまいます。

 

www.santa-baking.work

 

 ウォータースプリッターに関しましては以前にも解説しましたが、今回のような製品であれば、ノズルを固定でコンベア上を流れてくる生地に水を吹き付けるのみで対応できると考えるのですが、なにか事情があるのかもしれません。

 

LAWSON BAKERY

 

 側面を見てみましても、きれいにホワイトラインがつながっていて、上部の切り込みはこのホワイトラインの上側で途切れています。

 

 生地底面を見てみましても、(若干、中央のラインが気になりますが)生地を小分けにした形跡は見られません。

 

LAWSON BAKERY

 

 ところで、天板で細長い生地のパンを焼成しますと、生地の両端の底面が濃くなる傾向が見られます。

 

 これは、天板に使用されています金属の熱伝導性によるもので、どうしても両端は生地の乗っていない部分からの熱の移動が大きく、温度が上昇しやすくなってしまいます。

 

 なお、もしかしますと天板はプレス天板ではなく、あえて平天板を使用しているかもしれません。

 

 勝手に推測しますと、切込みの効果を十分に得たいため、とか。(言い換えれば、生地を小分けにしていれば、プレス天板を使用して生地高さを出すような操作になっていたのでは、と考えてしまいます)

 

断面

 たっぷりとホイップクリームが充填されています。

 

LAWSON BAKERY

 

 絞り具合から、フィリング充填装置のノズルは丸口金を使用しているようです。

 

LAWSON BAKERY

 

 せっかくのちぎりパンですから、実際に手でちぎってみました。

 

 この通り、想像以上にきれいにちぎることができました。

 

食感・食味・風味

 しっとりした生地に、香りも食べ口もミルクの感覚が強いです。

 

あとがき

 この日は出勤前にローソンへ立ち寄ってこれらの商品を購入し、その日の昼食に充てたのですが、2個の菓子パンながら、たっぷりサンドされていましたミルククリームが個人的には少々重かった感がしています。

 

FOOMA JAPAN 2021(国際食品工業展) ~ 食品加工設備の最新技術

FOOMA JAPAN 2021

 

 2年ぶりにFOOMA JAPAN(国際食品工業展)が開催されました。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 例年は東京ビッグサイトでの開催ながら、昨年は東京オリンピックの影響で会場を大阪に移しての予定もコロナの影響で中止となり、今年は愛知県中部国際空港(セントレア)に隣接します愛知スカイエキスポへ会場を再度移してのリベンジです。

 

www.santa-baking.work

 

 しかしながら、愛知県も先月に発出された緊急事態宣言が6月20日まで延長となり、出鼻を挫(くじ)かれたと言いましょうか、心配の火種を抱えた状態での開催となりました。

 

 ところで、最近ではなかなか足を運ばない場所へ移動してきますと、船とサッカーが大好きで、船は名古屋港で撮影したものをブログにアップ&紹介されています BlauGrana10 さんはもしかしてご近所?とか、在籍されている企業がこの展示会に出展されていると言われていました ペンギン侍 (id:ysnyn658)  さんの企業ブースは?・・・はたまたペンギン侍さん自身が来られているとか、勝手な妄想も膨らみます中、最新の情報収集に励んできました。

 

【 目次 】

 

会場:愛知スカイエキスポへ

 名鉄電車を乗り継いで、中部国際空港駅に到着しますと、改札口を出たところで展示会の広告が目に入ります。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 第1ターミナルとは逆方向の、LCC専用の第2ターミナル方面へ進むよう、表示があります。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 第1ターミナルを出て道路を跨ぐ歩道を歩いていますと、ずいぶん遠くに会場の愛知スカイエキスポが見えます。

 

 蛇足ながら、ここのLCCはまだ使ったことがありませんが、乗換えとなりますと距離があって大変そうです。

 

FOOMA JAPAN 2021

  この展示会ですが、名称こそ食品工業展ながら主催は日本食品機械工業会ですので、必然的に機械関係の企業が多く出展しています。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 やっと会場に到着したところで、開場はAM10時ですが、初日は開会のセレモニーがあり、9時40分から華々しい音響が会場内に響き渡ります。

 

 思っていたより会場は広く、聞くところによりますと、日本の展示会場で4番目の広さとか。(トップ3は、ビッグサイト幕張メッセインテックス大阪、辺りでしょうか)

 

各企業ブースの様子

 初日という理由だけではないと思いますが、来場者がこれまで見たこともない程に少ないです。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 ブースによっては、出展社のスタッフのみで来場者を見掛けないところも数多く見受けられました。

 

 やはり、愛知県の緊急事態宣言が延長されての状況下ですので、このような状況になるのか、とあらためて思い知らされた次第です。

 

真空冷却

 そのような中で、写真撮影をOKして頂けました、パシフィック洋行社で少し興味深い装置の展示がありましたので、紹介させて頂きます。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 この装置は、焼き上がったパンを急速に冷却させる装置なのですが、メカニズムとしましては食品内にある水分の蒸発潜熱を利用して、減圧による沸点の低下により冷却させる技術を応用したものです。

 

 効果としては、ボリュームアップ、腰折れの低減、パンの内相品質の向上等が謳われており、近年、脚光を浴び始めている技術のひとつです。

 

 また、聞き及んでいるところですと菌の繁殖に適した温度帯を急速に通過できることから、食品衛生面でも高い期待が持たれている技術でもあります。

 

テストサンプル

 そこで、テスト品(真空冷却製品)とコントロール品(通常冷却品)のサンプルを頂くことができましたので、ご覧頂ければと思います。

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 青のパック(左側)には真空冷却を施しました製品、赤のパック(右側)には通常冷却の製品が詰められています。

 

① クロワッサン

FOOMA JAPAN 2021

 

 断面での高さ(潰れ具合)と内相に違いが見られます。

 

② アメリカンマフィン

FOOMA JAPAN 2021

 

 製品は、縦に4分割されていますが、縮みが少なく外観形状が確保されている様子が伺えます。

 

③ デニッシュショコラ

FOOMA JAPAN 2021

 

 やはり、同様に外観形状への効果は観られると思います。

 

 冷却のメカニズムが蒸発潜熱を利用していますので、サックリ系のペーストリーやパイのような生地にはシンプルに効果がありそうですが、冷却時の熱移動と水分移動のメカニズムが理解できていれば、しっとり系の製品への応用も可能と思われます。

 

 本来でしたら、解析モデル等で期待できる効果を説明したいところなのですが、取り急ぎ、記事のアップを優先していますので、そちらはまた日を改めて。

 

アカデミックプラザ

 この展示会の特徴のひとつとして、複数の学会との連携が挙げられ、日本全国に留まらず海外の大学や研究機関からポスターセッションや口頭発表で、それぞれの研究成果の発表が行われています。

 

 その中のひとつ、日本食品工学会は9月7日(火)・8日(水)にリモートでの年次大会が行われるのですが、私も研究発表を行う予定になっています。

 

 内容は、食パン焼成時の食型温度の履歴から経時的な水分蒸発量を推算するもので、特にゾーンコントロールを行っています連続式のオーブンでは、製品の品質からゾーンごとの設定温度を判断する材料になり得るかと考えています。

 

帰宅して

 食品関係の展示会では、デモンストレーションで製造していますパン・菓子等の試作サンプルを頂くことが多いのですが、今回は試作も自粛傾向にあって、例年と比較しますと会場で頂けたサンプルも持ち帰りのサンプル激減でした。(一方、ペットボトルのお茶・お水は、飲み切れない程、頂けました。)

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 こちらのせんべいは、フライヤーやオーブンを手掛けている企業ブースで頂きました。(三作せんべいという、金沢のお菓子のようです。)

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 そして、スマートウォッチが計測しました今日の歩数は、なんと1万5千歩超えに。

 

 日頃歩いています平均の歩数が3千歩台前半ですから、この日はなんと4日分・・・、おかげで右足にマメができました。(これに懲りて、日頃からもう少し歩くようにしようと思っています。)

 

FOOMA JAPAN 2021

 

 実はこの日、16時からタレントの渡辺美奈代さんのテーブルトークが企画されていたのですが、さすがに歩き疲れて、そそくさと帰宅の途に就きました。

 

パイの実とカントリーマアムのパン・山崎製パン ~ メロンパンの焼成方法

 ある日、家族がファミリーマートで FAMIMA BAKERY の『パイの実のようなデニッシュ』を買ってきてくれました。

 

 見た目に楽しい遊び心から購入してきてくれたと思いますが、また別の日にスーパーのパンの棚を眺めながら歩いていますと、そこには『カントリーマアムパン』が。

 

 共に製造しているのは山崎製パンです。

 

 購入時は子供の日の直前でしたので、ここは少しだけ童心に戻ってご紹介を。

 

 そして、カントリーマアムパンの外観から、今回はメロンパンの焼成方法について解説したいと思っています。

 

 あと、最後にちょっとしたご報告が。

 

【 目次 】

 

メロンパンの焼成方法

 メロンパンは日本発祥の菓子パンで、上面に被ったさっくりしたビスケット生地と内側のソフトな生地のコンビネーションがおいしさを醸し出します。

 

 天板を使用して焼成する菓子パン類には大きく分けて二通りの焼成方法があります。(すみません、ハースブレッド(直焼きパン)は、また別の機会に開設するようにします)

 

メロンパン

 

 ひとつは、ふんわり・しっとりした食感が特徴のパンで、バターロールやドッグロール、あんパンといったパンの(主に上火に関します)焼成方法です。

 

 上のグラフですと、生地上面の温度変化が緑色で示されますように、焼成初期の温度上昇は緩やかですが、焼成の最終段階までコンスタントに温度を上げて、窯出し直前に速やかに焼色を付ける方法です。

 

 そしてもうひとつが、サックリとした食感が特徴的なメロンパンやデニッシュ等を焼成する時の方法で、上のグラフですと生地上面温度がのラインのような温度履歴を取ります。

 

 このふたつの焼成方法を焼色を揃えた上で比較すると、なにが変わってくるか。

 

 それは、およそ100℃以上で蒸発する生地中の水分量です。

 

 簡単な比較で、緑の線より赤の線の線が上回っている斜線の部分と、逆に赤の線より緑の線が上回っている斜線部分の面積の差が水分蒸発量の差となってきます。(赤い線の方が、広い面積を示すことが分かります)

 

 しっとりとサックリと使い分け、焼き方にもテクニックが必要です。

 

 なお下火に関しては、おおよそのパンで良好とされる条件はあまり変わりません。

 

トンネル式オーブン

 

 ところで、工場の連続生産ラインではトンネル状のオーブンの中をコンベアに載ってパンが流れていきますので、進行の工程に沿ってゾーンの温度を調整し、理想の焼成条件で様々なパンを製造しています。

 

 一方、家庭用のオーブンであれば、対流ファンの付いていないタイプはしっとり系パン向き、対流ファンの付いているタイプはサックリ系パン向きという事になります。

 

 ただ、どちらのオーブンもしっとり系もしくはサックリ系のパンが焼けないという意味ではけっしてありませんので、誤解のなきよう、お願いします。

 

パイの実みたいなデニッシュ(130円 税抜)

 モデルとなっていますのは、もちろんロッテの『パイの実』です。

 

パイの実みたいなデニッシュ

 

 本家のパイの実と比較して重量比で17倍とのことですので、形状が相似形でしたら、縦・横・高さの寸法は各2.57倍になって、体積も17倍となるところですが、おそらく生地中の水分は多めに残っていると思いますので、体積はそこまで大きくなっていないと推測します。

 

パイの実みたいなデニッシュ

 

 そして今回は、商品名にパイという名称が含まれていますものの、『・・・みたいなデニッシュ』ですから、配合にパン酵母が含まれていても問題はありません。

 

外観

  外観の六角形は、シート生地の成形ラインではロータリーカッターを通すだけですので、比較的容易に成形することができます。

 

パイの実みたいなデニッシュ

 

 ただし、フィリングのチョコレートが生地付近と中心付近で(上下面近傍で溶けている?)状態が変わっているところから、おそらく充填後に最終発酵・焼成を行っていると思うのですが、そうなりますと成形のコンベア上でチョコレートフィリングを絞るためには、絞り口を2列用意するか、もしくは1列毎に横方向の位置をずらさなければなりません。

 

パイの実みたいなデニッシュ

 

 実際の製造ラインの仕様は、山崎製パンの方しか分からない訳ですが、しっかり製造コストを下げるべく対応してくるところは、さすがトップ企業です。

 

食感・食味・風味

 やはり、パイではなくデニッシュですので、食感に本家のサックリ感は望めません。

 

 ただ、口を大きく開けて、あのパイの実に思い切りかぶりつく爽快感は、この商品ならでは楽しみ方かと思っています。

 

カントリーマアムパン

 こちらは、不二家のカントリーマアムをモデルにイメージしたパンです。

 

カントリーマアムパン

 

 不二家は、山崎製パンのグループ会社ですので、商品化にはそれほど高いハードルではなかったかと思います。

 

カントリーマアムパン

 

 原材料名にありますチョコチップ入りビスケット粉末が、外側に被っています生地と思いますが、この外観形状から推測して、メロンパンのラインで流しているのではないでしょうか。(以前のTV番組で、山崎製パンはメロンパン専用の製造ラインを持っていることが放送されていました)

 

外観

カントリーマアムパン

 

 パン自体の高さがあまり高くなく、横に伸ばした形状となっています。

 

カントリーマアムパン

 

 生地の底面を見てみますと、平たい形状にビス生地が回り込んでいる状態が見て取れます。

 

 製品高さが抑えられたためでしょうか、生地中央の綴じた部分がそのままの浮いた状態で焼き上げられています。

 

 通常、メロンの製造には腰(高さ)を出すために下写真(大きなメロンパン:山崎製パン)のようにプレス天板が使われることが多いのですが、この商品の底面にはそのような跡がありません。

 

メロンパン

 

 おそらく、あえて平天板を使用してパンの高さを抑え、形状を本家の商品に調整しているものと推測します。

 

カントリーマアムパン

 

 スライス面のチョコレートフィリングを見てみますと、おそらく連続式の充填機で絞られたのでしょう、幅広の口金を使用して直線的にフィリングを吐出しますと、このような四角の形状で充填されることになります。

 

 仮にタクト式(連続バッチ式)の充填方法であれば、若干時間は掛かりますが、手絞りのような円形の充填も可能かもしれません。

 

食感・食味・風味

 本家のカントリーマアムが、ややしっとりした食感の生地ですので、このメロンパン様の製造方法はイメージとして合っている、と感じました。

 

 そしてパンを嚙んだ時点で、カントリーマアムのような甘くチョコレートの風味が口の中に広がって、次にチョコチップの食感が伝わってきます。

 

 包装紙を見て、思わず笑みがこぼれてしまうような商品でした。

 

私毎ですが・・・

 還暦を迎えました。

 

 企業勤めをしていたとしても、定年退職となります。

 

 波乱万丈とは言いませんが、それなりの変化に富んだ60年でした。

 

www.satonofrower.tokyo

 

 さて、そのような折、いちご (id:malmaltan)さんの記事を読ませて頂いて、ネコ(その時は、そのように思い込んでいました)のイラストのチリワイン:サンタ バイ サンタ カロリーナを知りました。

 

 背景が黒い猫のサンタワインです。

 

 ところが猫と思い込んでいましたイラストの動物は実際には、現地でチリアンライオンとも呼ばれます、アンデス高原のピューマがデザインされていることが分かりました。(まあ、同じネコ科ですので。)

 

サンタ ワイン

 

 紹介頂きましたワインは赤でしたが、自分の好みで白(辛口)を購入して、久し振りに少しだけアルコール補給です。

 

 この特別な日に、乾杯!

 

クロワッサンB.C.・デイジイ ~ 電波振動技術を応用したドーナツフライヤー

 時は経ってしまいましたが、東京では桜が満開の頃、東京麹町にありますパンの原材料メーカーへ足を運ぶ機会があり、そこでの担当者の方から歩いて数分のところにありますリテイルベーカリー:デイジイ麴町店を紹介して頂きました。

 

DAISY

 

 埼玉県川口市に本店を構えます同店は、商品のクロワッサンがコンクールで賞を受賞する等、人気のお店です。

 

 そして、後日に分かったことなのですが、デイジイではドーナツフライヤーに電波振動装置を組み込んで商品を揚げていることを知りました。

 

 今回は、デイジイの商品と共に新たな食品加工技術について紹介をしていきたいと思います。

 

【 目次 】

 

電波振動技術

 あまり聞き慣れない言葉ですが、古くは浅川効果という名称で食品の加工や保存への効果について、(高圧の)電場を利用する研究が行われてきました。

 

 その効果は、熱効率の向上、鮮度維持、酸化の抑制等を謳っているのですが、現在、この技術がいまだ十分に波及していない最大の要因は、メカニズムの未解明と再現性の低さと個人的には思っています。

 

電波振動

 

 デイジイでは電波振動技術(おそらく交流電場)を応用しましたドーナツフライヤーを導入して、カレーパンやドーナツ、コロッケなどを揚げており、お店側の評価としては油の吸収を抑えられてカリッとヘルシーに仕上がっているとのことです。

 

 対象商品は、ドーナツ・揚げパン類で、ホテルカレーパン、昔ながらのコッペパン、といったところになります。

 

 事前に知っていれば、確実にドーナツ製品を購入したのですが、非常に残念です。(次回の東京出張の折に時間を作って、再度、確かめてみます)

 

 なお、この電波振動技術の装置は、ガイアの夜明けがっちりマンデー、林先生が驚く初耳学、その他の多数のメディアでも取り上げられたそうです。

 

デイジイ 麴町店

 お店の外観は、コバルトブルーを基調とした、とても清潔感のある整った店構えです。

 

DAISY

 

 デイジイは、埼玉県川口市内に5店舗、蕨市に1店舗、そして東京に3店舗を展開するベーカリー&パティスリーで、オーナーの倉田博和氏は、ドイツ・IBA CUP2006で世界第3位入賞された技術の持ち主です。

 

 ところで、店名のデイジイとはひな菊のことで、踏まれても負けない強い花のように、失敗してもくじけずに自分で納得のいくパン作りを心がける気持ちから命名されたそうです。

 

 創業以来ずっと守られてきました粉から作るオールスクラッチという伝統的製法の一方で、最先端の技術に意欲的に取り組む姿勢には、個人的にとても共感が持てます。

 

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 店内に入りますと、1Fには商品棚とレジがあり、木とレンガの温もりが感じられるとても明るい店内が印象的です。(店員さんに許可を頂いて、写真を撮らせて頂きました)

 

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 そして、レジの左わきには2Fのカフェに上がる階段があるのですが、その手前には同店オリジナルのトートバッグも販売されています。

 

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 購入したパンと少し大きめの仕事のバッグを持って2Fに上がり、ドリンクは別途こちらで受け取ります。

 

デイジイ

 
 雰囲気のあるテラス席もあったのですが、商品の写真のことも考えて窓際の席を陣取りました。

 

 昼食を兼ねていましたので、パンは3品、そしてドリンクはいつものカフェラテ(ノンシュガー)です。

 

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クロワッサン B.C. (250円 税別)

 デイジイの売れ筋ランキングの第1位が、クロワッサンB.C.です。

 

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 すみません、コンテスト名を調べることを失念してしまいましたが、農林水産大臣賞受賞の商品で、入口を入ってすぐの棚にのぼりのような目立つPOPで陳列されていました。

 

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 クロワッサンB.C.は、アーモンドケーキをクロワッサン生地で包み、上にクッキー生地をソボロ状にしたものと、砕いたアーモンドをトッピングして焼き上げられています。

 

 なお、B.C.のBはバター、Cはクロワッサン、クッキー、ケーキを意味しているとか。

 

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 外観からはよく分かりませんでしたが、断面を見てみますと、クロワッサン生地で包まれたケーキ生地がはっきりと分かります。

 

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 なお、クロワッサンと称しながらカヌレのような形状の型に詰めて焼成しているのは、流動性の高いバッター生地であるケーキ生地を内包している為と思われます。

 

野菜のタルティーヌ(220円 税別)

 スライスしたパンドカンパーニュに自家製ホワイトソースを塗り、野菜とチーズをのせ、塩をふって焼いた商品で、仕上げにオリーブオイルを塗っています。

 

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 先述の通り、昼食を兼ねていましたので、店員さんに総菜パン系の商品でお奨めを聞いてセレクトしました。

 

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 ただ、実を言いますとズッキーニは少々苦手だったのですが、こちらから尋ねておいてお奨めを無視する訳にもいかず、ここは折角ですので、謹んで食べさせて頂きました。

 

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 使用されていますパンドカンパーニュの内相も、申し分ありません。

 

 歯応えがあって、トッピングの野菜類やチーズによく合います。

 

 ガーリックバゲット(160円 税別)

 こちらの商品も、同店の人気BEST10に名を連ねる商品です。

 

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 この日の仕事は午前中に既に終わっていましたので、気兼ねなくガーリックのパンを食べることができます。

 

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 クープは縦に1本入れられていて、ガーリックバターが浸みこみやすい様に背割りのカットと横方向の浅いカットが施されています。

 

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 底面を見てみますと、ハースブレッド特有の直焼きの跡が見られますが、底面全体に油脂が浸みわたっています。

 

 おそらく、元の小振りのバゲットを焼き上げてから背割りのカット部分にガーリックバターを塗り、再度焼成していると思われます。

 

 若干焦げたバターの風味も相まって、おいしく頂きました。

 

 翌日は、西葛西にあります日本パン技術研究所でパン学校第218期の授業が予定されていましたので、この日は足早にホテルへ向かい、身体を休めていた次第です。