黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

ロールパンのカット・腹割りと背割り ~ コッペパンとサンドロール

 コッペパンとサンドロールは、長期に渡ってホールセールベーカリーの大きな収入源となっている定番商品のひとつであり、近年では専門店までも見られるようになりました。

 

www.santa-baking.work

 

 ドッグロールの一回り~二回り長いサイズで、パンの側面をカットして(これを『腹割り』と言います)フィリングを充填するコッペパンに対し、パンの上部をカットする(こちらは『背割り』と言います)スタイルのサンドロール。

 

 今回はロールパンのカットの違いによります、製法や製品品質の違いについて解説していきたいと思います。

 

【 目次 】

 

サンド充填機

 下の写真はコッペパンにサンドされているフィリングを充填している様子です。

 

コッペパン

        (出典:㈱マスダック)

 

 ロールパンは写真左から右へコンベア上を0.数秒に1個というスピードで流れてきて、腹割りのカット⇒パンを開いて⇒フィリング①を充填⇒フィリング②を充填、といった作業をこなしていきます。

 

 近年は、充填するフィリングも下図のような多彩な絞り方が要求されていますし、商品によってはこの後にチョコレート(銀チョコロールといった商品とか)やアイシングを上掛けする工程が入ることもあります。

 

サンドロール

 

 一見、シンプルな作業に見えますが、これがなかなかどうしてパンの端から端までフィリングを絞ることは結構大変です。

 

 例えば、粒あんとクリームでは流動性がまったく違うことで注入のタイミングを調整しなくてはなりませんし、ホイップクリームのように空気を含んでいるものは圧縮性がありますので、心太(ところてん)式のように素直には注入ノズルから出てきてくれません。

 

 ところで、このようなサンド充填機にも時代によって移り変わりがありました。

 

 その辺りは、実際の商品を見ながら解説していきましょう。

 

コッペパン

 コッペパンの名の由来は、フランスのクッペに形が似ているからという説がありますが、リーンな配合のクッペに対して、コッペパンは、砂糖、油脂、乳製品が使用されていて、食感・食味共に大きく異なります。

 

 山梨県の老舗ベーカリー:丸十製パンによりますと、1919年に日本陸軍へ納入するために開発した、食パン生地を使った小型パンをもってコッペパンの元祖としたとか。

 

 この丸十製パンですが、日本で初めてパン酵母による製パン技術を開発したベーカリーとのことで、丸十の『十』にちなんで毎月10日が『コッペパンの日』となっているそうです。

 

あずきコッペ(フジパン

 ただ、コッペパンに対して個人的には学校給食で出されていたことや懐古的な感覚しかもっていませんでしたので、今のホールセールベーカリーの商品にはどちらかと言いますとリバイバル感を強く感じています。(下写真にあります『富士的懐古ISM』とは、特に掛け合わせてはいません)

 

コッペパン

 

外観

 焼色はやや薄めで、表面にはややシワが目立ちます。

 

 後述しますが、このシワは最終発酵や焼成条件によるものでは、と推測します。

 

コッペパン

 

  コッペパンは腹割りをしますので、外観形状としましてはフィリングをサンドし易いように幅広の形状に設計されています。

 

コッペパン

 

 横方向から形状とカット位置を見てみますと、最も断面を広く取れる高さでスライスの刃(”は”です、”やいば”ではありません)が入っていることが分かります。

 

コッペパン

 

 そして、パンの底面は平らな形状になっていますので、平天版を使って最終発酵と焼成を行っていることが分かります。

 

 横幅を出すために、例えば最終発酵を少し長めにとるとか、オーブンの入口ゾーンの上火及び下火の設定を少し下げるとかの調整をしているかもしれません。

 

 表面にできましたシワは、最終発酵と焼成で大きく伸ばした、その反動で冷却時に生じた収縮の影響と考えられます。

 

断面

 カットされた断面には、ミルク風味のクリームが平口金を使って絞られています。

 

コッペパン

 

風味・食感・食味

 ミルクの甘い風味と噛んだ時の生地・小豆かのこ・クリームの甘さが相まって、まさに菓子パンといったイメージです。

 

 生地の食感は、もっちりさはあまり感じられず、ふんわりしたソフトさが強く伝わってきます。(外観から予想される通りの食感でした)

 

サンド充填機の推移

 私が知る限りでは、c) 横切り(腹割り) のサンド充填機が開発されたのは、a) 縦切り(背割り) の装置が世に出た後と記憶しています。

 

(再び、こちらのイラスト)

サンドロール

 

 ロールパンにカットを入れる場合、腹割りよりもはるかに背割りの方が装置の構造上、容易だからです。

 

 縦方向のカットでは製品底面が基準となりますので高さがずれませんし、製品を送り出すパドルもカッターの部分だけ外せば普通に使えます。

 

 しかし、横方向のカットではコンベアでの搬送時にカット面より下の部分で製品を押さえる必要がありますので、切れの悪いカッターではスムーズにパンが流れてくれません。

 

 ですから、横切りのサンド機ができる前には、パンを90℃起こして(縦流し) b) 縦切り を行い、腹割りのサンド充填を行っていた、と記憶しています。

 

サンドロール

 サンドロールの起源は、かつてパン菓子店の店頭で、お客さんの注文に応じ、ジャムやマーガリンを塗って売っていたコッペパンだと言われています。

 

 これを工場で量産化したのがサンドロールの原型であり、装置化はより現実的な背割りに落ち着いたものと推測します。

 

 ところで山崎製パンからの情報によりますと、静岡県浜松市を境界として、東はコッペパン、西はサンドロールが人気の市場だとか。

 

サンドロール つぶピーナッツ(パスコ)

 袋包装されたサンドロールは、私が幼い頃から慣れ親しんでいた商品でもあります。

 

サンドロール

 

外観

 焼色は先述のコッペパンと同様にやや薄く、表面にはややシワがあるものの、コッペパンのような大きなシワではありません。

 

 サンドロールは背割りをしますので、製品の中心を通るようにカットを入れますが、この作業は搬送コンベアの両サイドをガイドで揃えれば、比較的容易に行うことができます。

 

サンドロール

 

 そして、背割りの場合、フィリングが充填後はみ出さないように製品の高さが必要になってきます。

 

サンドロール

 

 横から見てみますと、横幅に対して十分な高さが出ていることが分かります。

 

 そして、パンのソフトさの象徴とも言えますホワイトラインが、側面の半分ほどの部分に見られます。

 

www.santa-baking.work

 

 以前に惣菜パンでホワイトラインについての記述をしましたので、ご参考まで。

 

サンドロール

 

 底面を見てみますと、くっきりと横方向の線が確認できます。(パンを側面から見た写真で底部に見える焼色の濃い部分が天板のプレス部分で段差のできた個所です)

 

 製品の高さを出すために、プレス天板を使用しているためと推測します。

 

断面

 カットされた断面には、粒入りのピーナッツクリームが丸口金を使って絞られています。(もう少し、左端の方までピーナッツクリームが充填されていればよかったですね)

 

サンドロール

 

風味・食感・食味

 ほんのり甘い風味と噛んだ時の生地・ピーナッツクリームの甘さが、良好なマッチングです。

 

 もっちり・しっとりした生地のソフトな食感に粒状ピーナッツのカリカリ感がアクセントとなって、楽しませてくれます。