黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

角形食パンを焼いている時でも、パン生地は動いてる?

クラストは、どのようにしてできていくのか

 『焼く工程でパン生地が動く』このテーマを掲げると、概ね『オーブンキックで生地が膨張するのだから』とご指摘を受けそうな気がします。

 では、外形が確定している角形食パンの場合はどうでしょう。

 ここで話題として取り上げたいのは、外形が決まった後の生地内部についてです。

 角形食パンを焼く過程では、外形が確定した後も継続してパンの内側から外方向に向けて膨張する力が作用し続けています。

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 すると、どのような現象が起こるのでしょうか。

 圧力は基本的に位置に関係なく等しい力が加わります。

 それであれば、パン生地の内側と外側で条件は同じ…、と思いたいところですが、焼成が進んでくると生地温度が上がってきた外側からデンプンの糊化が始まり、生地の伸展性が損なわれてきます。

 つまり、伸びなくなった生地が力を受けて気泡が破裂してしまいます。

 実際に食パンのスライス面を見ても分かるのですが、外側のクラストに近付くに連れて、気泡が密になっています。

 クラストは、気泡が破損して生地が密になり、水分が蒸発して乾燥し、そして褐変化して着色することで形成されていきます。

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 その過程で、焼成前は均一に配列していた気泡も破損することで潰され、隣接している生地が寄ってくることで、結果、内側の生地が外方向へ移動する現象が起きてきます。

 上のグラフは、実際に食パンの外側から1mm厚でスライスして充填率(=1-空隙率)を求めた結果です。

 点線は平均の充填率(=0.215)で、中央のクラム部分の充填率(=0.169)は更に低い値になっています(クラムの およそ5/6 は空気ということになりますね)。

 しかし、クラスト部は逆に 3/4 程度が生地となっていて、この密度差が生地の移動の結果となる訳です。

 測定した充填率から元々あったパン生地の位置を推測しますと、大きく移動しているところでは実に10mm程度も離れていることが推測できます。

 最後に、こんな面倒な話、パン作りに必要? と思われる方も少なからずいることでしょう。

 頭を楽にして、楽しんでパンを作りたいと思われる方もいるでしょう。

 でも、これが製パンラインで規格通りの品質の製品を焼かなくてはならないベーカリーでは、焼成条件を設定する上で考慮すべき項目の一つとなってきます。

 ご飯でも『始めちょろちょろ、中パッパッ…』て、ありますよね。

 パンも焼き方で品質が変わってくることを知っていればこその項目です。

 では、焼き方を変えるとどんなパンになるの? の質問が当然、出てくると思いますが、それは次の機会に…。