黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

蒸気を使ってパンを焼く

蒸気を使う意味とは?

 パンの焼成に蒸気を使用するケースは、さほど珍しいことではありません。

 ハード系のパンには多くの製品で焼成の冒頭に蒸気を使用しますし、その使用量もフランスパンとドイツパンでは大きく異なってきます。

 焼成の初期に蒸気を使用しますと、パン生地の表面ではどのような現象が起こるのでしょうか。

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 一般的に、オーブン炉内は100℃を超えた状態にありますので、この空間に噴き込まれた蒸気は過熱蒸気となって存在します。

 これは、炉内で水を蒸発させて作った蒸気に関しても同様です。

 よく炉内で蒸発させた蒸気を生蒸気と呼ぶ方もいるようですが、たとえ飽和蒸気の状態で入ってきた蒸気であっても、その温度が100℃を超えた時点で、その蒸気は過熱蒸気になります。

 少し前に『水で焼くオーブン』が注目を浴びていましたが、その目的にも使用できる蒸気です。

 その過熱蒸気も、温度が低いパン生地の近傍に来ますと急速に温度が低下して、気体として存在できる最低温度:露点まで下がってきますと、遂には凝縮して液体となり、生地表面に接していた蒸気は付着して、その凝縮熱をパン生地に伝えることになります。

 その凝縮熱は非常に大きく、パン生地の表面が濡れると同時に急激な温度上昇が起こります。

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 ところで、パン生地近傍で凝縮した蒸気が、どうして都合よく生地表面に付着するかといいますと、それは体積が収縮するからです。

 気体の蒸気が液体の水になると、その体積は1/1000以下になります。

 つまり、パン生地の表面近くでは蒸気が引っ張られる流れができるためです。

 ところで、前述の露点を温度と蒸気圧との関係で示したものが、飽和蒸気圧曲線です。

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 このグラフは、非常に興味深いことを示してくれます。

 例えば、70℃での飽和蒸気圧は312hPa(ヘクトパスカル:天気予報で使用されている単位です)で、100℃のそれからしますと、30.8%に相当します。

 すると、例えば固定式オーブンの焼成室に炉内の30.8%を蒸気で満たせば、その蒸気でパン生地を70℃まで加熱することができることを意味しています。

 つまり、このパンは蒸気で何度まで加熱したい、と考えた時、必要な蒸気量は計算で求めることができるということを示しているんです。

 別の言い方をしますと、もしあるパンの表面を蒸気で80℃まで加熱したいと考えた時、その空間の半分近く(46.8%)の体積の蒸気を入れて、その状態を保持すればいいことになります。

 ところで、蒸気による加熱は水分を付着させますので、表面が乾燥するまでは(たとえデンプンが糊化したとしても)オーブンキックで伸びる程度には伸展性がありまます。

 ですから、大量の蒸気を使用するドイツパンでは表面のクープがのっぺりしています反面、それよりは使用する蒸気量が少ないフランスパンでは、生地表面が乾燥してからもボリュームアップ関係でクープが割れることになります。

 最後に食感に関してですが、蒸気を使用しますと、蒸気が付着して加熱された表面は引きが強い食感となる傾向があります。

 ある程度の歯ごたえを求めるハード系製品に対して、しっとりソフトな食感を求めるアンパンやコッペパン等の菓子パン類に蒸気を使用しない背景には、このような理由もあります。