業界用語? 専門用語?
パン屋さんに、そちらの食パンの比容積は?とシンプルに尋ねた場合、もし答えてくれるところがあるとすれば、おそらく使用している食型の容積に対する生地重量の比率の数値を示してくれると思います。
より正確な表現をするのであれば、型生地比容積となります。
この(型生地)比容積という言葉は、一般的にはあまり聞き慣れない単位なのですが、単位重量当たりの容積を示し、密度の逆数となります。
一般的な食パンの型生地比容積は、3.8~4.0(cm3/g)程度であり、本来この値は当然のことながら焼き上がった食パンの(体積/重量)ではなく、製パンする際の生地重量を求める場合に利用される数値です。
つまり、使用する食型に対して、何グラムのパン生地を何個詰めればいいかと考える際に用いられるものです。
値が低くなれば、分割する生地重量が重くなって、密な内相になりますし、逆に高くなれば生地重量は軽くなって、空隙率の高い内相になりますし、クラストが薄くなることで腰折れの心配も出てきます。
例えば、3斤サイズの食型があったとして、縦:L=365mm, 横:W=120mm, 高さ:H=125mm だった場合、型生地比容積=4.0(cm3/g) の食パンを作る場合には、
365×120×125/1000/4.0 = 1368.75g
の生地が必要となります。
それであれば、M字成形で3玉なら (1368.75/3=) 456.25gで分割することになりますし、U字成形で6玉なら (1368.75/6=) 228.125g となります。
ちなみに逆数の密度と間違えやすい物理量に比重がありますが、これはある物質の密度(単位体積当たり質量)と、 基準となる標準物質(一般的には水)の密度との比を示し、単位は無次元[ - ]となります。
ところで、この生地重量で製パンしました角形食パンの比容積はどの程度になるのでしょう。
焼減率を11%(Baking Loss = 9% + Cooling Loss = 2%) としますと、焼成・冷却後の生地重量が、
1368.75×(1.0-0.11) = 1218.1875g
となりますので、食型の内面まできれいに伸びたとして、
365×120×125/1000/1218.19 = 4.494 (cm3/g)
と求められます。
実際には、ホワイトラインの部分や若干収縮する分を見込んで、もう少し低い値になります。
(少し話が横道に逸れますが、日本パン工業会では1斤が340g以上と定められていますので、この場合、
1218g / 3 = 406g > 340g
と、基準をクリアできていることが分かります。)
仮に、独自の食型で1斤の食パンを製造したい場合には、これと逆の計算を行うことで、生地重量と食型サイズを求めることができます。
なお、菓子パン類は種類にもよりますが、一般的なロールパンの類ですと4.3~4.8(cm3/g)辺りかと思いますので、やはり周囲を固定の形で抑え込まれている角形食パンは比容積も低い値となることが推測されます。