前回の記事ではトースターのヒーターに着目して、良好なトーストの条件を探ってきました。
ところで、現在のトースター市場を2分するもうひとつの人気トースターがBALMUDA The Toaster(以下バルミューダ)です。
高価格帯(22,900円 税別)ながら圧倒的な支持を得ている、この機種にはどのような機能が付与されているのでしょうか。
トースターの検証第2弾です。
【 目次 】
バルミューダというスチームトースター
今では、バルミューダという呼名が一般化してしまっていますが、それ程、このトースターの登場は衝撃的だったのだと思います。(ちなみにバルミューダというのは実は会社名で、今回紹介していますのは、そこで製造販売されていますトースターとなります)
バルミューダは、食パンをトーストする際に蒸気を出して加熱する方式を採用しています。
私が知る限りでは、蒸気が出せるトースターはこの機種以外にはありません。
製造会社であるバルミューダは、ユーザーに新たな体験を提供する姿勢で装置開発に取り組んでいる印象があり、私の中ではドイツ・ダイソン社とイメージが重なります。
使用方法
そのスチームトースターは、どのように使用するのでしょうか。
調理のモードとしては、トーストモードの他、チーズトースト、フランスパン、クロワッサン、の各モードがあり、独自のスチームテクノロジーとヒーターバランスを駆使して、これまでに体験できなかった焼き加減を再現しています。
調理をする時は、給水口に専用のカップで5ccの水を入れ、運転が始まるとスチームが庫内に充満して、パンの表面は薄い水分の膜で覆われるとのことです。
蒸気加熱とヒーターに因ります輻射加熱を複合的に作用させているということなのでしょう。
食パンをトーストするメカニズム
少し、前回のおさらいをしておきたいと思います。
食パンをトーストしますと、表面温度の上昇に伴って水分の蒸発、パン表面の乾燥、焼色の着色といった現象が生じます。
私が測定したデータでは、パン表面が70~90℃の温度帯で水分の蒸発が確認されています。
それは、パンがどのように変化していることを示唆しているのかを、下記のモデル図で解説します。
水は常圧ですと100℃で沸騰しますので、一般的なトースターの場合、それ以下の温度帯では相対湿度に従います空気と蒸気の比率でパンから水分が蒸発します。
トースト時のグラフでは、パンの表面温度が90℃以上の時間帯で大きくトレンドを逸している傾向は見られませんので、80~90℃程度のところでは既にパン表面に乾燥した層ができていることが推測されます(①)。
さらに加熱を続けますと、パンの表面は100℃を超え、それと同時にパンの内部にはおよそ100℃の温度境界層が形成されます(②)。
この100℃の温度境界層からは、表面から入ってくる熱エネルギーとパン内部へ移動する熱エネルギーの差でのみ、水分が蒸発しますのでトースター内の蒸気の存在はほぼ関与しません。
この現象は着色反応が生じます③まで継続されます。
つまり、バルミューダが蒸気加熱によってトースト条件を変えるのであれば、①❜のようにパン表面が100℃に到達するまで、乾燥した層を作らない、といった操作がされていることが推測されます。
なお、この際、一度に大量の蒸気を発生させる必要はなく、上図の飽和蒸気圧曲線(中学か高校の理科の授業で見られていますよね?)からパン表面温度と等しい飽和蒸気圧を維持する分だけ、徐々に出していけば大丈夫です。
蒸気の可能性
今回、私はあえて蒸気に因ります湿潤という作用には触れませんでした。
もしかしますと、バルミューダでもオーブンのように蒸気の凝縮潜熱での加熱を行っているのかもしれません。
しかし、それはオーブンとトースターとの構造上及び使用方法の違いによるところが大きく、実際にバルミューダを測定調査しなければ正確なことは分かりません、といったところが正直な見解です。
それと、こんな計算をしてみました。
食パン2枚をトーストできます一般的なトースターの内部サイズ(幅:268mm、奥行:168mm、高さ:138mm)を想定して、この空間を蒸気で満たすためにはどれだけの水を蒸発させる必要があるのでしょう。
簡単に結果だけを言ってしまいますと、答えは『5cc』です。
⇒ (18(g/mol)/(22.414×10^6(mm3/mol)/(268mm×168mm×138mm)=4.99g)
あれっ、どこかでこの数値を見ませんでしたか?
新たな体験
いつもの朝ご飯にワンランク上のちょっとした贅沢。
これを体験させてくれる技術の進歩に拍手を送りたいです!
(追記) つい、おもしろくなって、オーブンでの加熱を再現させるための熱量計算とかもしてしまいました。(まったくの興味本位です!)