製パン機械設備の仕様を考えていますと、往々にして人の手の絶妙な技術に感嘆する機会に出くわします。
それは、当たり前のように流れていきます基本的な製パンの作業の中にあったりするものなのですが。
今回は、食パンの分割・丸目・成形の工程から、なんてことはない人手の作業を装置化した事象の紹介と共に、連続生産ラインで最もポピュラーな製法で製造されているであろう、山崎製パンのロイヤルブレッドについてリポートします。
【 目次 】
成形工程の製パン設備
最初にお断りしておきますが、ここでは高性能の最新制御技術を解説する訳ではなく、ほんの些細な手作業を装置化した案件の紹介となります。
分割・丸目後の手粉付け
食パンなどの製パン工程では一定重量の玉生地を丸めた後、中間発酵で休ませるため、事前に手粉を生地全体に付けます。
手作業では生地に粉を振って、成形前に生地をキャンバス上で軽く転がす等で終わる作業です。
それを装置化しますと、例えばラウンダー(丸目機)で丸め終わった生地(赤→)の上から粉を散布して、シューターを転がして全面に付けようとします。
ところが、実際には完全に手粉が付けられていることは極めて稀で、ほとんどのケースで付いていない部分が残ってしまい、後工程の中間発酵でパケット(生地用の籠)にべた付いてしまいます。
そこで、より確実に手粉が付けられるよう、シューターを円筒型にして回転させながら通すような機械まで開発されました。
もっとも、この作業は地味ながら、非常に大事な操作ですので。
ロール成形時のカーリングネット
休ませた玉生地は、次にモルダー(成形機)で圧延して、薄い煎餅のような形状に加工されます。
しかし、そのままでは上部の展圧ベルトに生地が掛かりませんので、カーリングネットと呼ばれます(一般的にはステンレス製の)網を使って、コンベアを流れてくる生地の先端を持ち上げてあげます(軽く巻いてあげます)。
人手であれば、軽く巻く程度の作業はどのようなサイズの生地にも対応できますが、装置化する場合には生地によってネットの仕様を選定する必要があります。
機械設備の場合、確かに一度仕様を確立させてしまえば、あとはそれをルール化するだけなのですが、その仕様を確立させるまでには随分な試行錯誤が繰り返されているものです。
ロイヤルブレッド
以前にも少しこぼしていたと記憶しているのですが、最近のスーパーやコンビニのホールセールのパンにときめくような技術の進化が見られていないことに物足りなさを感じています。
毎月スーパーのパンコーナーでは新商品が棚に並びます中、買って品質にまず間違いがないと安心できるのは、やはり実績に裏付けされたブランドの商品ではないでしょうか。
久し振りに山崎製パンのロイヤルブレッドを買ってきました。
最近は一般的になってきました湯種製法でもなく、オーソドックスな中種製法の食パンです。
外観
教科書のようにきれいなホワイトラインが出ていて、焼色の質感・バランスも申し分ありません。
鬼滅の刃で雷の呼吸の使い手の剣士が、『壱ノ型しか使えないのなら、それを極め抜け』と師匠に手解きを受けたかのような品質です(すみません、例えが今ひとつでした)。
ところで、もし上部の凹みが気になるようでしたら、私なら焼成時間と焼成後のクーリングへの移りの箇所をチェックすると思います。
さて、側面を見てみますと、成形方法がM字成形であることが分かります。
こちらはM字の上部側ですので(下図、参照ください)、1斤に最終発酵時のふくらみの跡がふたつ見られます。
ちなみにM字成形と言いますのは、3斤用の食型であれば上図のような生地の詰め方となります。
そして、反対側の側面はM字成形の下部側ですので、一般的にはろうそくの炎のような三角の生地の跡がふたつ見られます。
ところで、赤の点線で示されたラインが実は山崎製パン独自の成形方法の跡なの(かも)ですが、お分かりでしょうか。
一般的にM字成形を採用した場合、成形下部側の中央近辺(上写真の赤の点線近辺)が最も腰折れが発生し易くなります。
(山崎製パンのHPの動画にも出ていますが)そこで山崎製パンでは成形時に成形下部側に切り込みを入れて型詰めし、腰折れし易い側面の強化を図っていると推測します。
側面の写真からも確認することができるのですが、底面には食型のガス抜きの穴の跡がくっきりと見られます。
食型の底に付けられていますガス抜きの穴の効果に関しては、こちらの記事をご参考に。
大手の製パンメーカーでは諸事情から食型は穴なしの仕様のものを採用しているところが多いと思っていたのですが、山崎製パンでは安定した焼成条件にこだわりを持って製品作りをしているのでしょう。
もっとも、この型を連続製パンラインで流していくためには製パン機械設備のメンテナンスを考えますと、離型油の塗布や型洗浄等にも配慮しているであろうことが推測されます。
内相
まず、最初に内相面の白い色が目に飛び込んできます。
これは、膜が薄く、よく伸びていて、細やかな気泡で形成されていることを意味しています。
そして、大きなカギ穴や底詰み、スジシマもなく、とてもきれいな内相です。
風味・食感
食べてみますと、最近のトレンドにあります甘さや乳製品の風味ではなく、程よい発酵臭と小麦の香りが口の中に広がります。
しっとりしたソフトな食感は、内相からからイメージされた通り、高いレベルと思います。
包装紙
類にもれず、ロイヤルブレッドの包装紙も上部には虫混入防止を主目的としましたライトシールが施されています。
ただし、山崎製パンでは独自にマチを付けた形状でライトシールを行っていますので、クロージャーを外しますと包装紙の幅はそのまま製品巾と同程度にしか開きません。
包装紙がマチで重なっている部分は4枚の包装紙をシールする訳ですが、2枚の部分と4枚の部分が混在していてもライトシールをきれいにはがすことができる技術は山崎製パンの独自技術かと思います。
オーソドックスな製法ながら、そこへの技術を極め抜いた商品がロイヤルブレッドなのではないでしょうか。