黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

レモンパイとクロッカンバー ~ パイとデニッシュの膨張

 季節柄、レモン関連の商品が市場に多く出回っていましたので、たまたまスーパーで見かけましたパイとデニッシュをご紹介と思いながら、実はずいぶん日にちが経ってしまい、暑さから大雨の心配が先行しています今日この頃です。

 

 各パンメーカーも季節戦略がありますので、そのような意味ではパンのシリーズにも旬があるのかもしれません。

 

 今回は、この季節のレモンを感じる商品3品の紹介と、パイ&デニッシュが膨らんでいくメカニズムについて解説していきます。

 

【 目次 】

 

パイが膨らむ、デニッシュが膨らむ

 以前の記事でもパイとデニッシュ(デニッシュペーストリー)の焼成の違いに関しましては解説していたつもりだったのですが、改めて読み直してみますと、まだまだ言葉足らずのところが気になります。

 

www.santa-baking.work

 

 シンプルに生地膨張といった観点から見ますと、パイにはパン酵母が入っていませんので発酵はしませんし、当然このような工程も存在しません。

 

 つまり、膨張のほぼすべてが焼成工程で行われます。

 

 一方、デニッシュは成形後の最終発酵で2.5~4倍程度に膨張して最終製品の形状に近づきます。

 

パンの焼成

 

 一般的な食パンでは38℃程度で最終発酵をさせますが、バター等の油脂をロールインで折り込んでいるデニッシュでは発酵中に油脂が生地に溶け込まない様に、(油脂の融点-5℃) 27℃程度で温度調整されます。

 

 焼成工程では、デニッシュの場合、生地中のでんぷんが糊化する60~90℃の前に、炭酸ガスの溶出(40℃~)やアルコールの蒸発(60℃~)が起こりますので、生地に伸展性が残っている時点で体積が膨張します。

 

 結果、表面はサクサクしていてもクラムの部分はしっとりとソフトな食感になる訳です。

 

 改めまして、パイは ベイパーアクション(vapor action)と呼ばれます水蒸気による膨張で膨らみます。

 

 当然、温度は100℃程度ですから、生地が固まって伸展性がなくなった後に体積膨張が始まる訳です。

 

 この温度帯ではデンプンは糊化して生地自体が伸びることができませんので、膨張した蒸気によって一枚一枚の層が剥がれるように膨れ上がっていきます。

 

 結果として、内部までサクサクした歯切れの生地となりますし、この層を形成させるために如何に成形時の折込み温度が大切なのかが理解できます。(連続式の製造ラインでは特に。)

 

レモンパイ(105円 税込)

 包材に『愛知県、静岡県の国産小麦使用』と書かれていることろを見ますと、まず間違いなく地域限定の商品と思われます。

 

レモンパイ

 

 商品は神戸屋ブランドのようですが、印刷にはマルト神戸屋と記載されています。

 

 調べてみますと、神戸屋ブランドのパンを製造し、静岡県と愛知県・岐阜県で販売しているグループ企業でした。

 

 私は知りませんでしたが、静岡県には以前にマルトパンというベーカリー企業があったそうです。

 

レモンパイ

 

 

 原材料には、発酵をさせるパン酵母が含まれていません。

 

レモンパイ

 

 生地はスクエア形状で、ザラメ砂糖がトッピングされています。

 

 成形方法は比較的容易で、コンベア上を流れてくるシート生地をサーキュラーカッターで細長くカットし、その後、隔列毎の生地に一定間隔でフラワーペーストをデポジット(絞り)します。

 

 あとは、隣の列の生地を重ねて、一定間隔でカットすれば、成形完了です。

 

レモンパイ

 

 断面を見てみますと、残念ながら生地の層が密着してしまって、大きな空洞と厚い膜が形成されています。

 

 レモン風味のフラワーペーストは、厚めの層と一体化しています。

 

 こうなりますと、層を嚙み切るサクサクした食感は期待できません。

 

セブンプレミアム・レモンパイ(138円 税込)

 こちらは、セブンプレミアムの三角レモンパイです。

 

レモンパイ

 

 こちらも生地のカッティングはスクエア形状です。

 

 その生地にフィリングを絞って、その後に対角線で折りますが、この三角に折る作業は機械では難しく、おそらく手作業ではないでしょうか。

 

レモンパイ

 

 生地の上面には、ガス抜き用の穴開け:ピケが行われています。

 

 すみません、原材料表示の撮影を失念してしまいましたが、生地表面にピケをされているということはパン酵母が配合されていないパイ生地と推測します。

 

レモンパイ

 

 底面の焼き色はしっかりついています。

 

 パイは、蒸気で体積膨張をさせなければいけませんので、必然的に下火はしっかりかけることが求められます。

 

レモンパイ

 

 生地の断面は、カット面がやや決着しています。

 

 連続生産で、カッターの切れ味が落ちてきた?

 

レモンパイ

 

 そして、ほぼ中央の高さにホイップクリームを充填した際の跡が残っています。

 

レモンパイ

 

 生地の層はしっかり残っていますね。

 

 実際に食べた時のパイのサクサク感は、レモン風味のクリームのマッチングと併せて、しっかりと楽しむことができました。

 

クロッカンバー(105円 税込)

 レモンクリームをサンドした、山崎製パンのデニッシュで、底にはグラノーラ入りのビスケット生地が、トッピングにはマカロン生地が使用されています。

 

クロッカンバー

 

 『クロッカン』とは『カリカリとした』という意味のフランス語で、その言葉が、そのまま名前となりました南仏・プロヴァンス地方の郷土菓子です。

 

 なお、正式なクロッカンは中身には主にアーモンドが使用されているため、正式には『Croquants aux amandes/クロッカン・オ・ザマンド』という名前が付いています。(Amande= アーモンド )

 

 身体にやさしく、加えておいしく食べられるヘルシースイーツです。

 

クロッカンバー

 

 さて、クロッカンバーに話を戻しますと、フィリングにはレモンフラワーペーストが使用されていますものの、別途レモンジュースが、こちらは生地の方に使用されていると思われます。

 

クロッカンバー

 

 トッピングのマカロン生地で、外観の見栄えも増しています。

 

クロッカンバー

 

 ところで、側面のマカロン生地にはカッティングの形跡が見られませんので、ビスケット生地+デニッシュ生地のシート生地のカッティングの後に、マカロン生地はトッピングされていると推測します。

 

クロッカンバー

 

  底面のグラノーラ入りのビスケット生地には、穀物加工品のみならず、粒状の穀物がそのまま含まれているようです。

 

クロッカンバー

 

 サクッとしたデニッシュ+マカロンとモチモチのビスケット生地を同時に噛みしめます。

 

 食感が楽しめる商品でした、もちろんレモンの風味も、です。

 

 

今日のanopan

 最近は、ついに予約をしないと買えない程の人気商品になってしまいました、anopanのデニッシュです。

 

 使用されるフルーツは日替わりで、この日はキウイフルーツでした。

 

 いつみても、デニッシュ生地のきれいな層に食指が動きます。

 

anopan

 

 我が家が足繁く通っています anopan ですが、9月に1ヶ月のお休みを取られるようです。

 

 その1か月間、anopan のパンが食べられないのは少々辛いですが、オープンから1年半の間、ずっとご夫婦で営まれてきていましたので、ここで一度リフレッシュして頂き、また再開の日には確実に通いたいと思っています。

 

あとがき

 ・・・ 最近、投稿が滞り気味で、本来この記事は1ヶ月前に上げるべきものでした。

 

 もしかしますと現時点では、今回ご初回の商品が既に販売されていないかもしれません。(その際は、どうかご容赦ください。)