黒猫サンタさんのパン作りブログ

プロのベーカリーと製パン企業のみなさまへ

ショコラシュトーレン・パスコ(ゴディバとのコラボ) ~ 中種を仕込む

 パスコから11月17日に発売されたゴディバとのコラボ商品2品種(ショコラブレッド&テリーヌショコラ)を先月リポートしました。

 

 その際にアナウンスがありました、もうひとつのコラボ商品:ショコラシュトーレンが、今日12月15日に発売開始されましたので、早速購入していきました。

 

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 シュトーレンは、その製造工程におきまして、中種とか前生地とか表現されます生地を、本捏ね生地とは別に前段階で仕込みます。

 

 今回は、そこに関連付けて中種のミキシングにも解説を入れていこうと思っています。

 

【 目次 】

 

中種のミキシング

 製パンにおけます本捏ねミキシングが生地物性のタイミングを見計らいながら混捏することと比較しますと、中種ミキシングの目的は均一に混合する、規定の温度で降ろす、ことに主眼が置かれます。

 

中種 ミキシング

 

 ミキシング後の中種生地は、ほとんど伸展性がなく、感覚的には玩具の粘土に近いものがあります。

 

 ところが、この中種生地を降ろす温度には非常にシビアな、例えば目標温度±0.数℃といった規定が掲げられているケースも見受けられます。

 

 そして、それはバッチ毎のバラツキに収まらず、1バッチ全体が均一な温度でまとまっていることも求められます。

 

中種 ミキシング

 

 従いまして、ミキサーの機能にある壁面冷却は通常中種ミキシングでは使用されません。

 

 ミキシング終了時に壁面に接触していた部分が局所的に冷やされてしまうからです。

 

 結果として、生地温度の調整は、仕込み時の吸水の水温で対応することになります。

 

 ただし、夏場のように気温が高く、粉温度が想定以上に上昇してしまっているような状況の時には、融解潜熱を考慮して、水を氷に置き換えて仕込むときも出てきます。

 

 このように製パンの工程を管理する人達は、熟成の過不足に関して非常に神経を使っていることが分かります。

 

 近年では、ミキシング中の摩擦熱による温度上昇も考慮して捏ね上げ時のエンタルピーを計算し、ミキシング開始時の壁面温度を冷却させる技術も開発されています。

 

 ミキシングが始まりますと壁面冷却はストップしますので、終了時には生地温度と同程度になっているという訳です。(この技術は特許になっていますが、公開されている内容以外のことはお伝えできませんので、ご容赦ください)

 

ショコラシュトーレン

シュトーレンとは

 シュトーレンは、ドイツやオランダでクリスマスに食べられる伝統的な食品で、その名前はトンネル型の外観形状から、ドイツ語の坑道に由来しているそうです。

 

 酵母の入った生地にレーズンとレモンピール、オレンジピールやナッツが練りこまれていて、焼き上げた生地の上には真っ白になるまで粉糖が振りかけられます。

 

 一説では、その形が幼子のイエスを産着で包んでいるように見えるとも言われているそうです。

 

 ドイツでは、クリスマスを待つ4週間のアドヴェント(待降節)の期間に少しずつスライスして食べる習慣があって、この間にフルーツの風味は時間の経過と共にパンへ移っていくとのこと。

 

 その変化もシュトーレンの楽しみ方のひとつなのではないでしょうか。

 

ショコラシュトーレン包装

 配送のタイミングのせいかもしれませんが、今回はコンビニ2軒(ローソン、ファミリーマート)では売られていませんでした。

 

 結局、イオンへ足を運んで購入です(火曜朝市で、午前8時から開店していました)。

 

パスコ ショコラシュトーレン

 

 ずいぶん重厚なイメージの箱入りです、袋包装ではありません。

 

 そして、前面には大きく『GODIVA』の文字が・・・、パスコの桜マークは左下にちょこんと見えますものの、もうこれはゴディバのショコラシュトーレンです。

 

パスコ ショコラシュトーレン

 

 原材料表示を見てみますと、小麦(国内製造)、バター、チョコレート、ミックスフルーツの順に並んでいます。

 

 表中に小麦粉、塩、パン酵母、水が含まれていますから、名称に記載の通り、菓子パンです。

 

パスコ ゴディバ

 

 では、箱から取り出して見てみましょう。

 

外観

 形状は平たいカンパーニュのようで、ラフな形状からは素朴さも伝わってきますが、最終的に箱に入れることを想定しますと、型は使用して発酵・焼成を行っていると推測します。

 

パスコ ゴディバ

 

 紙トレーは汚れていませんので、この紙トレーを使用して焼成したのではなく、製品は焼成・冷却後、包装前に紙トレーに載せられたのでしょう。

 

 また、粉糖をまぶすタイミングは冷却後~トレー載せの間の工程と思われます。

 

内相

 カットしてみますと、下の写真の通り、ほとんど気泡が確認できません。

 

パスコ ゴディバ

 

 言い換えてみれば、断面を見た目にはほとんどチョコレートとミックスフルーツといった感じです。

 

 考えようによりましては、量的に小麦粉がもっとも多く使われているにもかかわらず、これほどのチョコレート感が出ていることも新しい発見だったのかと思えてしまいます。

 

食感・風味・食味

 包装紙を切った時点から、芳醇なチョコレートと洋酒の香りが漂ってきます。

 

 食べてみますと、パンというよりはミックスフルーツ入りの濃厚なチョコレートといったイメージです。

 

 噛んで食べるというよりも、ミックスフルーツを噛みながらチョコレートを口の中で溶かして食べている感覚でした。

 

あとがき

 今回購入しましたショコラシュトーレンですが、価格は2000円(税別)です。

 

 今回もパスコがゴディバとコラボした商品ですが、先行した2品種(ショコラブレッド:248円 税込、テリーヌショコラ:204円 税込)がお値打ち価格でしたことと比較しますと、桁がひとつ上がっていますし、少々構えてしまいそうです。

 

パスコ ショコラシュトーレン

 

 それでいて、サイズは私がイメージしていたものよりけっこう小さいんですね。(重量:230g 包装紙含)

 

 最初に商品を見た時には、このサイズでこの価格・・・。

 

 たしかに最近は小さいサイズのシュトーレンも市場に出回っているようですが、それでもベーカリーが出すシュトーレンなら、と勝手に想像(期待も)していましたので。

 

 今回の商品は食べた感覚もチョコレートでしたし、表示上は菓子パンでも高級なパスコのシュトーレン(パン)というよりは、ほぼゴディバのチョコレートと理解しました。

 

食パンの比容積の話・リベンジの100食パン ~ クリスマス・クリスピークリームドーナツとanopan

 先日、ESPRESSO D WORKSの生地吸水が100%のワンハンドレッド食パンについて紹介しました。

 

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 その時『重量が重い(比容積が低い)わけでもありません。』と記載しましたものの、形状が細長いと言っておきながら、実際に形状の測定をしたわけでもなく、その状況の中で比容積が低くないと断言してよかったものか・・・、一抹の不安を抱えていました。

 

 今回改めて、その不安を解消すべく、再度調べてみましたので、ご報告します。

 

 それと、やっぱり気分はクリスマス的なリポートも少々。

 

【 目次 】

 

ワンハンドレッド食パンの比容積

 改めて100食パンの調査を行うにあたり、またまた(家族に頼んで)この食パンを購入しました。(・・・何度も何度も、家族には本当に感謝と謝罪です)

 

外寸法

 100食パンの外寸法は下写真の通り、233(縦)×107(横)×111(高さ)[mm]で、体積は2767cm3 となります。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 焼成・冷却後に収縮していることは承知していますが、あえてこの寸法を使用しました。

 

 1斤あたりですと1384cm3ですので、後で出てくる一般的な食型(1斤あたり1825cm3)と比較しますと、実に3/4程度の大きさしかありません

 

重量と比容積

 重量は6gの包装紙+クロージャーを含めて707gですので、701gとなります。

 

 ここから焼成前の型生地比容積を推算しますと、Baking Loss(焼成時の水分蒸発率) : 9.5%、Cooling Loss(冷却時の水分蒸発率) : 2.5% と仮定して、

 1384÷(701/(1-0.095-0.025)/2) = 3.47

 

 えっ、型生地比容積が 3.47!

 

 これがどれだけ低い数字かと言いますと、一般的な食パンが3.8~4.0ですので、通常より10%程度は重く生地を分割していることになります。

 

 食型の形状が細長いのも、潰れ難くするための対策だったのではないでしょうか。

 

まとめ

 吸水を100%で仕込むことは生地の扱い難さだけではなく、最終発酵や焼成工程での生地の伸びと形状の保持も期待し辛いことが推測されました。

 

 ここまで苦労して小麦粉(おそらく)、食型、生地重量や焼成条件を確立されたことは、すごい企業努力と思っています。

 

 なお、上記の計算等は、あくまで私的な推測によるものです。

 

型生地比容積とは

 通常、パン屋さんが食パンを製造する際、生地重量に対して、使用している食型の容積の比率:型生地比容積の数値を基準にして、生地の分割重量を算出します。

 

 この(型生地)比容積という言葉は、一般的にはあまり聞き慣れない単位なのですが、単位重量当たりの容積を示し、密度の逆数となります。

 

 一般的な食パンの型生地比容積は、3.8~4.0(cm3/g)程度であり、本来この値は当然のことながら焼き上がった食パンの(体積/重量)ではなく、製パンする際の生地重量を求める場合に利用される数値です。

 

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 つまり、使用する食型に対して、何グラムのパン生地を何個詰めればいいかと考える際に用いられるものです。

 

 値が低くなれば、分割する生地重量が重くなって、密な内相になりますので、製品の外観形状は保持し易くなります。

 

 逆に高くなれば生地重量は軽くなって、空隙率の高い内相になりますので、クラストが薄くなることで腰折れの心配も出てきます。

 

 今、私がテストで使用している3斤サイズの食型のサイズが、縦:L=365mm, 横:W=120mm, 高さ:H=125mm ですので、例えば、型生地比容積=4.0(cm3/g) の食パンを作る場合には、

 365×120×125/1000/4.0 = 1368.75g

の生地が必要となります。

 

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 それであれば、M字成形で3玉なら (1368.75/3=) 456.25gで分割することになりますし、U字成形で6玉なら (1368.75/6=) 228.125g となります。

  

 ところで、この生地重量で製パンしました角形食パンの重量はどの程度になるのでしょう。

 

 このサイズの食パンですと、焼減率を11%(Baking Loss = 9% + Cooling Loss = 2%) としますと、焼成・冷却後の生地重量が、

 1368.75×(1.0-0.11) = 1218.1875g

となります。

 

 1斤で市場に出回る時には、両端のクラスト部を切り落としますから、

 1218.1875g/3 = 406.06g

よりは軽くなりますが、日本パン工業会が定めている基準:1斤が340g以上、はクリアできると思われます。

 

クリスマス・・・的な

 12月になりますと、いよいよクリスマスを意識した商品や装飾が目を惹くようになってきます。

 

クリスピークリームドーナツ

 こちらは、ジェイアール名古屋タカシマヤ店限定のクリスピー・クリーム・プレミアム ホリデー ベア(要冷蔵 300円 税別)です。

 

クリスピークリームドーナツ

 

 ケーキのようなドーナツ『クリスピー・クリーム・プレミアム』シリーズの新作で、ドーナツから飛び出したサンタ帽子姿のチョコホイップのベアがかわいいですね。

 

 なお、ドーナツの真ん中には福岡県産あまおういちごのジャムが絞られていました。

 

 クリスピークリームドーナツでは、個人的にオリジナルグレーズドが好物なのですが、今回はイチゴ ミルク サンタ(290円税別)とキャラメル クリスマス ベア(250円 税別)を付けて、購入(してきてもらいました・・・これも家族に)。

 

クリスピークリームドーナツ

 

 イチゴ ミルク サンタにはイチゴミルククリームが、キャラメル クリスマス ベアにはキャラメルクリームがたっぷりと充填されていました。

 

 いずれも、おいしく頂きました、ごちそうさまでした。

 

anopan

 私がリピートしているベーカリーの anopan では、実際のパンをオーナメントにしてツリーを飾られていました。

 

anopan

 

 飾られているパンはどれも乾燥させてドライな状態にしてありますので、衛生上は問題ないと思います。

 

 来店されていた多くのお客さんは、もの珍しいツリーをしっかり撮影されていました。

 

苦味料・あまり見掛けないパンの原材料 ~ TETRA CONTA(テトラコンタ)

 苦味料と書いて『くみりょう』と読むようです(にがみりょう、ではないようです)。

 

 ふと目にしました包装紙の表示から、今回は珍しく原材料について記載することにしました。

 

 そして記事のサムネが奇抜なパンの断面と思われたかもですが、以前( ↓ の記事)に似た感じの画像に対しての『サムネがきもい』とのブクマのコメントに凹みながらも(私、すごく打たれ弱いんです)、また性懲りもせずに似たような画像を上げてしまいました。

 

www.santa-baking.work

 

 今回は、併せて食べログ EAST パン百名店(東京を除く東日本)で51位、愛知県8位に今年初めて掲載されました TETRA CONTA(テトラコンタ)について、リポートします。

 

【 目次 】

 

苦味料

 たまたま、間食用に購入しました菓子パンの原材料表示を見ていましたところ、その中に苦味料といったものが含まれていました。

 

 甘味料、香辛料、酸味料、調味料、香料等々といったものは、よく目にしますが、?苦味料は正直なところ記憶の中になく、いい機会と気になって調べてみました。

 

配合表示 苦味料

 

 ネットで調べてみますと、苦味料はカクテルに使うビターやビール醸造におけるホップなどのほかはまず使用されない、とのことでした。

 

 ですが、一般的に苦味という食味は嫌われるケースが多いものの、ビールやお茶、コーヒーなどでは苦味も重要な味の要素となります。

 

 そして効用では、適度の苦味は胃を刺激して、胃酸や消化酵素の分泌を促す作用を示したりするそうです。

 

 具体的には、コーヒーの種子又はお茶の葉から抽出、精製して製造されるカフェインやグレープフルーツの果皮、果汁又は種子由来のナリンジンといった苦味料があります。

 

購入の菓子パン

 ところで、今回購入しました菓子パンですが、少々残念な感想ですので商品名はあえて伏せることにしました。

 

 包装紙から取り出した時点で、『ホワイトラインが出ていない』『触感が硬い』、

食べた時点で『生地がパサついている』『とにかく甘い』。

 

 食感の硬さや生地のパサつきは、おそらく対流式のラック式オーブンで焼成していると思われ、(ホワイトラインが出ていない)外観通りの品質でした。

 

 食味の甘さに関しては、苦味料は?と、つい思ってしまって・・・もしかしましたら、抹茶の食味調整でしょうか。

 

TETRA CONTA(テトラコンタ)

 さて話題は変わって、名古屋市東区、地元ではお嬢様学校として名高い金城女子中学校と女子高等学校の近くに、このベーカリーショップがあります。

 

テトラコンタ

 

 以前は、この近くをあまりに頻繁に歩いていましたので、今年の食べログ EAST パン百名店に掲載されていることを知った時には、ちょっとした驚きでした。

 

 どうして頻繁に歩いていたか・・・、この場所、敷島製パン(パスコ)本社・テクノコアのご近所なんです。

 

 今回(も家族にお願いして)購入しましたパンは上写真の3品ですので、ひとつずつ見ていきましょう。

 

雑穀カレーパン(210円 税込)

 人気のカレーパンのようです。

 

テトラコンタ

 

 パン粉が塗(まぶ)してあって揚げた感もありますが、フライではなく、BAKEしています。

 

 焼くことで生地への油分の浸透が抑えられていて、その分ヘルシーな製品に仕上げられています。

 

テトラコンタ

 

 生地底面を見てみますと、天板に接している部分がくっきりと濃い焼色に着色されていて、焼いていることがよりはっきりと分かります。

 

 おそらくフライする際の時間ほどは焼成時間が短くないと思いますので、デッキ式オーブンを使用していたとしますと、オーブンの下火は設定温度が200℃程度で、生地温度が底面で170~180℃辺りまでは上昇しているのではないでしょうか。

 

 ちなみにコンベクション式オーブンでも、このような焼色は着色が可能ですので、今の時点ではオーブンの機種の特定までは難しいです。

 

テトラコンタ

 

 そして、雑穀カレーパンのネーミングの通り、断面を見てみますと生地の中にはたっぷりの豆類を主とした雑穀が包餡されています。

 

 食べてみた感想としては、カレーのルー以上に雑穀の存在感があり過ぎです。

 

チーズのパン(210円 税込)

 軽い食感で、やや引きが感じられる生地のハード系製品です。

 

テトラコンタ

 

 表面の光沢やクラストの食感から、焼成時には初期に蒸気を使用していると推測します。

 

 しかも表面にはクロス状にクープが入っているのですが、そのクープの跡が元々表面に出ていた部分と近い状態に仕上がっています。

 

 おそらく、ずいぶん大量の蒸気を使用しているのではないでしょうか(蒸気の加熱で生地表面温度を80℃以上まで加熱していると思われます)。

 

テトラコンタ

 

 そして、生地断面の内相からは縦方向にとても伸びている状況が伺えます。

 

 チーズは生地に練り込まれていて、その粗い面からアンダーなミキシング状態が推測されます。

 

 食べてみた食感としましては、やや弾力のあるクラムとやや引きのあるクラストが心地良い噛み応えと歯切れとなっています。

 

ピーナツクリームサンド(160円 税込)

 こちらもTETRA CONTAの人気商品とのことです。

 

テトラコンタ

 

 白焼きのソフトな食感の生地が、ロールパン形状に成形されています。

 

テトラコンタ

 

 ピーナツクリームは、ピーナツの粒々が確認できます(個人的に食べた時の食感も好きです)。

 

 この商品は、注文を受けてから生地を腹割りカットして充填する方式を採っていて、そのフレッシュ感もいいですね。

 

生地吸水の常識を考える ~ 100(ワンハンドレッド)食パン・ESPRESSO D WORKS

 今年の10月、名古屋・久屋大通にESPRESSO D WORKS 名古屋がオープンしました。

 

 この店舗では、100(ワンハンドレッド)食パンという食パン(プレーン&純生 2斤 800円 税別)が販売されているのですが、その特徴は商品名の通り、生地吸水が100%との事。

 

 パン業界の常識に囚われていると、この吸水100%がどれほどとんでもないことかといった解説をしていきたいと思っています。

 

【 目次 】

 

生地吸水について

 製パンする際の吸水は、作業性や製品品質を検討するうえで非常に重要な項目となります。

 

 例えば、これまで湯種法が一般的な製法となりましたのも、理由のひとつに吸水を上げてパンのソフトさを上げ、維持する目的があればこそです。

 

 ここに一般的な中種法によります配合を示します。

 

食パン配合

 

 パン業界では配合を、小麦粉量を100%として(表の赤文字を参照)他の原材料の比率を表示するBakery % が一般的に採用されています。(ちなみに中国のあるベーカリーへ行きました折、配合が世間一般的な全量を100%とする表となっており、慣れない対応に苦労したことが思い出されました。)

 

 中種法では一般的な吸水は68~70%が適量と言われています。(ストレート法では、この+1~2%程度)

 

 それとドライイーストを使用する場合は、重量が生イーストのおよそ1/2になります。

 

 ちなみに小麦粉を1kgとすると、最終的に1.85kgの生地ができますので、210gで分割すれば、シリンダーゲージ用の生地100gを取っても、2斤サイズ(210g×4玉)の食パン2本が作れる計算となります。(細かい計算は省略)

 

 ところで、この生地吸水の基準なのですが、これがパン業界の不思議なところで、優先されるのが製パン性というところにあることかと思います。

 

 結果的には製品品質にも関係してくるのですが、吸水を上げ過ぎるとミキシングでの生地のまとまりが遅れ、捏ね上げ時のポイントの見極めが困難になったり、とにかく生地のベタつきは最たるもので、作業性が極端に下がります。

 

 私自身、過去には吸水80%で角形食パンを仕込んだことがありますが、もう作業場は悲惨なものです。

 

 まだまだ、いい足りないところは山ほどあるのですが、文章ばかりでは目も疲れそうですので、そろそろ100(ワンハンドレッド)食パンのリポートとまいりましょう。

 

100(ワンハンドレッド)食パン・プレーン

 愛知と東京で店舗を展開するESPRESSO D WORKSが、世界一ふわふわの食パンと銘打って「100 one hundred (ワンハンドレッド)」という角形食パンを販売しました。

 

 その特徴は、商品のネーミングの通り、生地配合の吸水を100%としたものです。

  

ワンハンドレッド食パン

 

 その店舗が東京の渋谷・池袋に続いて名古屋にオープンしたとの衝撃的なニュースに、いてもたってもいられず、即購入・・・を今回も家族にお願いしました。(いつも、ありがとう! 感謝しています。)

 

外観

 ESPRESSO D WORKS のキャッチコピーでは、パンは水分が多ければ多いほど柔らかくなります、とのことですが、これは理想的な内相ができた前提のものであって、例えば生地吸水の多いイングリッシュマフィンやリュスティックのようなパンの食感をどう捉えるか、といった疑問も持っていました。

 

 前述にもあるように、生地吸水は無理に増やそうとすれば、いくらでも増やせるのですから。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 2斤サイズとしては、やや細長い形状で、濃いめの焼色が付いています。

 

 上部のホワイトラインが潰れていますが、これは上下逆さまにクーリングを取ったからでは、と推測します。

 

 なぜかは、後ほど理由が見えてきます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 成形は俵成形3玉で行っているようですが、側面の生地端の形状が不安なこと、最終発酵の後に膨らみの跡が小さいことから、非常に柔らかい生地であることが推測されます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 そして底面を見てみますと、明らかに焼色が薄くなっています。

 

 おそらくオーブンの下火の設定温度を落として焼成しているのでしょう。

 

 このような焼成の理由は分かりませんが、結果的に食パンの下部のクラストが薄くなり、強度も弱くなりますので、クーリングの際には強く焼いている上部を下に向けて行っているのでは、と推測します。

 

 細長い外観形状も形状を保つため、とも考えられます。

 

内相

 スライスしてみますと、肌目は縦に伸びている訳ではありませんものの、予想に反して(失礼しました)気泡は細かく、膜も薄く感じます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 周辺部にところどころ見えますカギ穴は、柔らかい生地の物性によるところなのでしょう。

 

食感・食味

 食べてみますと、たしかに他の食パンでは経験できないもっちりとしたソフトさが感じられます。

 

 一般的な多加水生地のパンで、肌目を細かくしたイメージの食感です。

 

 きっと好みは分かれると思いますが、この食パンを食べたい人にとっては、ワンハンドレッド食パン以外に、この食感は出せていないと思いますので、差別化という意味では大成功の商品ではないでしょうか。

 

 ところで、ひと通り調べてから、製品重量の測定を忘れていたことに気が付きました。

 

100(ワンハンドレッド)食パン・純生

 言い訳にはなってしまうのですが、このワンハンドレッド食パンを持った際に、普通の重量感だったことから、つい重量から気がそれてしまいまして・・・。

 

 と、いう訳で、改めて別の日に再度ワンハンドレッド食パンの購入・・・をまたまた家族にお願いしました。(何度も何度もすみません。)

 

 今回は、純生という少々甘口の食味のアイテムです。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 6gの包装紙・クロージャー付きで699gですので、2斤で693gとなります。

 

 1斤は340g以上(2斤で680g以上)ですので、表示法上はギリギリセーフです。

 

 やっぱり、重量が重い(比容積が低い)わけでもありません。

 

外観

 糖の量が多いからでしょうか、プレーンと比較して濃い焼色となっています。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 そして、やっぱりホワイトラインは潰れ、角の部分には火膨れも見られます。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 側面を見ましても下部の焼色は薄く、上部が濃くなっています。

 

ワンハンドレッド食パン

 

 もしかしますと、配合を変えても同じ焼成条件で焼いているのかもしれません。

 

内相

 膜は薄いのですが、内相は少々荒れ気味です。

 

ワンハンドレッド食パン

 

食感・食味

 食感は、プレーンと同様独特のもっちりとしたソフトさが前面に感じられます。

 

あとがき

  パンに精通している人がこの食パンを見たら、もしかしますとパンと認めてくれないかも、とも思ってしまう程です。

 

 でも、今のマーケットのヒット商品には他にも、これまでのパン業界の常識を覆すような商品がとても目につきます。

 

 古い常識に縛られてばかりでは、新たなニーズにも応えられない時代になってきているのかと思う次第です。

 

 ちなみに、吸水100%で製パンするためのポイントですが、おそらく小麦粉では、と推測します。

 

 さらに言及しますと、小麦粉の挽き方とか、デンプンの状態とか。(直接は聞けませんので、あくまで個人の私見です。)

 

 改めて、声を大にして言いたいのは、ワンハンドレッド食パン以外に、私はこの食感を経験したことがありません。

 

 好みは分かれると思われますが、唯一無二の商品なのではないでしょうか。

 

予告(パスコのコオロギカフェ)

 先日パスコから食用コオロギパウダーを使ったフィナンシェとバゲットが数量限定で発売される、とのニュースが流れてきました。

 

 予約受付は、2020年12月1日(火)よりPascoのオンラインショップ限定で、「Korogi Cafe(コオロギ カフェ)」シリーズの「コオロギのフィナンシェ(2種)」と「コオロギのバゲット」とのことです。

 

 配送は、12月20日、21日の予定となっており、とりあえず、コオロギのバゲットを1本、20日配送希望で予約しました。(ちなみに家族の反応は・・・あまり芳しくないようで(泣))

 

 でも、こちらも唯一無二?

 

ポケモンドーナツ・ミスタードーナツ ~ 最終発酵の条件と装置

 前回の記事で、西葛西のミスタードーナツの前を通りました際、ポケモンドーナツが発売されていることを発見しました旨、記載しました。

 

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 それで、今回は別の日に東京・日の出イオンへ足を運びました折、またまたミスドを見掛けて近付いてみますと・・・。

 

ポケモンドーナツ

 

 なにやらこの時点でもポケモンドーナツを売っていそうな雰囲気が漂っていて・・・、さらに近付いて。

 

ポケモンドーナツ

 

 全アイテムコンプリート出来るか確認しようと、またまたさらに近付いてみますと・・・。

 

ポケモンドーナツ

 

 ポケモンゲットだぜっ!

 

 という訳で、今回はミスドポケモンドーナツのリポートとイーストドーナツも含めましたパン生地の最終発酵の解説を交えて記載していきます。

 

【 目次 】

 

 今回は、すんなりと全4種類を1回でコンプリートです。

 

ポケモンドーナツ

ポケモンドーナツ

 

 それでは箱を開けて、ひとつずつ見ていきましょう!
 

ピカチュウ ドーナツ(240円 税別)

 毎年定番のピカチュウドーナツです。

 

ポケモンドーナツ

 

 イーストドーナツの生地でフンワリとした食感に、充填されたカスタードホイップの組み合わせがよく合います。

 

 ピカチュウの顔の部分は、今年はプリン風味のチョコを使ってコーティングされています。

 

 赤いほっぺは、これも定番のマーブルチョコレートですね。

 

 私は基本的にオールドファッション等のケーキドーナツよりも、ソフトなイーストドーナツ派ですので、とてもおいしく頂きました。

 

ラッキー ドーナツ(240円 税別)

 私の(20年前の)認識では、ラッキーはナースのポケモンと記憶していたのですが、その愛くるしい表情はドーナツにもしっかりと再現されています。

 

ポケモンドーナツ

 

 こちらも、イーストドーナツの生地を使って、上からストロベリーチョコがコーティングされています。

 

 おなかの中央には、ポン・デ・リングの生地でポケットを表現されています。

 

 そして、仕上げにはピンクのチョコレートで耳がかわいく飾られています。

 

マル de モンスターボール(200円 税別)

 まん丸の形状をした『まるでモンスターボール』のようなドーナツです。

 

ポケモンドーナツ

 

 もちもちシュー生地と説明にはありましたが、食べた感じはフレンチクルーラーのような食感の生地でした。

 

 中にはホイップクリームが充填されていて、上からストロベリー風味のグレーズがコーティングされています。

 

マル de ハイパーボール(200円 税別)

 そして、更に高性能なモンスターボールのハイパーボール。

 

ポケモンドーナツ

 

 外観の形状は、モンスターボーと同様なのですが、このドーナツを真上から見てみますと・・・、

 

ポケモンドーナツ

 

 Hyper Ball の頭文字の『H』がしっかりと見られます。(ただし、海外でハイパーボールの英語名は Ultra Ball なので、英語圏の方々には意味が通じないかもしれませんね。)

 

 チョコレートでコーティングされた上から黄色のアイシングで描いているのでしょうけど、これってきっと手作業ですよね。(お疲れ様です!)

 

 シュー生地とホイップクリームの組み合わせは、まさにスイーツでした。

 

疑問

 このモンスターボールサイズの球形を、一体どうやって作ったのでしょう?

 

 昨年はチェック不足でしたが、少なくとも一昨年(2018年)のモンスターボールのドーナツは球形ではなく、下写真(上段・中央)のように高さのないドーム型のような形状でした。(ピカチュウは、あまり変わってはいませんね。)

 

ポケモンドーナツ

 

 小さなドーナツポップ程のサイズなら問題なく作れそうですが、このサイズとなりますと、少々考えてしまいます(私だけ?)。

 

 もちもちのシュー生地と説明がありましたので、生地は直接フライヤーへ絞り入れると推測するのですが、なにか技術を重ねてきた感があります。

 

 このようなことを考察するのは、・・・実におもしろい! 実に興味深い!

 

最終発酵

一般的な最終発酵の条件

・温度:38℃ 湿度:85% 時間:50~60分 、程度かと思いますが、この他、

・温度:32℃ 湿度:75% 時間:50~60分 乾ホイロ(ハード系製品、メロンパン等)

・温度:27℃ 湿度:75% 時間:50~120分 ペーストリー類(温度は(油脂の融点‐5℃))

・温度:40℃ 湿度:60% 時間:40分 ドーナツ

 

と、製品群によっておおよその条件はありますが、もちろん生地状態を見ながら調整は必須です。

 

装置:ファイナルプルファー

 そして急に話が工場規模の生産ラインへ移ってしまいますが、最終発酵の工程は掛かる時間が比較的長いことから、生地を蓄えておくための広いスペースが必然的に必要となってきます。

 

 飽食の時代と言われて30年以上が過ぎようとしている昨今では、数多くの種類のパンを生産するケースも多々見られますが、最も一般的なライン設備はラック式のホイロではないでしょうか。

 

最終発酵

 (資料:フジサワ・マルゼン提供)

 

 ラックは1車ごとにホイロへ入れられ、先入れ先出しで次工程のオーブンへ移っていきます。

 

 以前は人手で大きな発酵室へ運んでは出したりをしていましたが、最近ではレーンごとに異なる時間でも自動で搬送されるシステムも開発されています。

 

最終発酵

 

 そのラック数十台が大きな発酵室内を移動する連続ラック式のファイナルプルファーは、オートメーション化が進んだ工場で導入されているところを目にすることがあります。(パン工場の見学で見られます)

 

最終発酵

 (資料:オシキリ提供)

 

 しかしラックの上下では温湿度の差が大きいことがあり、食パン系など特に発酵状態に精度が求められるような製品群には、さらに温度や湿度にムラがない装置が採用されています。

 

最終発酵

 

 最後に、空調とは温度と湿度のコントロールを指すのですが、温度や湿度を上げたり下げたりする場合、それらを独立して調整できる操作方法はありません。

 

 つまり、加熱すれば相対湿度が下がったり、加湿をすれば温度が上がったり下がったり、といった具合にです。

 

 ですから、発酵室の空調には『加熱』『冷却』『加湿』『除湿』といったそれぞれの機能が求められることになります。