スーパーのパンコーナーの棚に、目を惹く商品が並んでいました。
フジパンの商品で『おうちで焼きたて CRAFT BAKERY』のシリーズです。
『そのままでも食べられますが、トーストしてお召し上がりください。』のコメント付きです。
これからの技術として、これまでにもリベイクするパーベイク製品については、複数回、記事に取り上げてきました。
ですが、今回はリベイク(?トースト)することを推奨した常温保存のパンということで、新たなカテゴリーのパンとしても、とても注目しています。
【 目次 】
焼き立てパンを流通する技術
特に欧州ではメジャーな生産方式であるパーベイク(Part Bake)技術は、80%程度まで焼成が進んだパンを一旦冷凍して、流通・保管後にリベイクすることで、焼き立ての食感・風味を楽しむものです。
また、比較的最近のトレンドとして、焼成後冷凍のパンが注目されるようになりました。
これは、京都のベーカリーがホテル向けに対応したシステム・商品で、品質の高さはホテルに提供していることからも確認することができると思います。
上記の製法に対して、今回紹介しますフジパンの『おうちで焼きたて』シリーズのパンは、基本的にリベイクを推奨していながら、冷凍することではなく、一般的なパンと同様に常温流通で展開している商品です。
なお、焼成後冷凍のパンは別にして、パーベイク製品と『おうちで焼きたて』シリーズの製品は、焼成を2度行うことから、必然的にクーリングロス(パン冷却時の水分蒸発)が2回生じます。
今後は、この対応についてもレベルが上がってきてくれれば、と願うところです。
久しく技術的な製法絡みの新製品が(あくまで個人的に)見られなかったホールセールベーカリーの商品において、久し振りに心が躍った気がしています。
おうちでプチフランス(128円 税別)
プチフランスパンが4本入りの包装となっています。
フランス(パン)というネーミングですが、砂糖、油脂、卵が配合されています。
包装紙の裏面には、家庭での焼き方(リベイク?トースト?)方法が記載されており、イメージしている焼き上がりの画像も付けられています。
上面の焼き色はほとんど付いておらず、このままでは見方によって生焼け?と感じる人もいるかもしれませんね。
連続生産ラインで製造されているのでしたら、中央のクープはウォータースプリッターで入れられているものと推測します。
形状は、一般的なロールパンに近く、見辛いですけど側面のホワイトラインが確認できます。
底面を見てみますと、直焼きではなく、天板を使用していることが分かります。
連続生産ラインに置いて、ウォータースプリッターでクープを入れるのであれば、やはり天板が必要になってきます。
そして上面と異なり、底面では通常製品と同等程度の焼色が付いています。
内相は、一般的な歪な気泡が特徴的なバゲットとは異なり、ソフトなロールパンのように細かい気泡が揃っています。
成形時での十分なガス抜きが行われていると推測します。
食べた感じでは、若干の引きは感じますものの、食感は少し硬めのロールパンを食べている感覚です。
それでも、やはり焼きたてのパンを感じられるところは大きく、これまでにない商品であることに間違いはないと思います。
カリじゅわ塩パン(148円 税別)
人気の塩パンが3本入った包装となっています。
いずれの商品も同様なのですが、下火は通常の商品と同程度の焼き色になっていますものの、上面の焼き色はほとんど付けられていません。
おそらく表面の裂け目が開いている部分はイレギュラーと思いますが、それであれば最終発酵のタイミング等を検討されてみては、と思います。
内相では、折り込まれたバターの部分が確認できます。
リベイク後、この部分から漂ってきますバターの風味が特徴的です。
クロワッサン(148円 税別)
ネーミングに『パリパリ』と食感をアピールしたクロワッサンが3本入った包装となっています。
ホールセールベーカリーの商品として、どうしてもリテイルベーカリーに適わないアイテム群のひとつにデニッシュ等のペット類が挙げられます。
袋包装をして流通させている過程で、どうしても生地内での水分移行が進行して、表面のサクサク感が損なわれるためです。
しかしながら、そのビハインドもリベイクという操作によって打ち消すことが可能です。
再加熱する際に生じます水分蒸発は当然表面において生じますので、ここで生じました乾燥の操作が生地にサクサク感を供与する結果となります。
つまり、この『おうちで焼きたて』シリーズは、これまでホールセールベーカリーが対応できなかったパン表面のサクサク感に対応できた商品と言えるのではないでしょうか。
さくさくアップルパイ
こちらも生地の食感にサクサク感が求められますアップルパイです。(大したことではないのですが、クロワッサンのパリパリと、アップルパイのサクサクは、意図された表現なのでしょうか。)
最近は、パイと表示されていながら原材料にパン酵母が含まれている商品を見掛けますが、こちらのアップルパイにはパン酵母の記載はありません。
ですから、名称も菓子パンではなく、洋菓子になっているのですね。
上から見てみますと、長方形の生地に切れ込みが入っていて、そこからカスタード風味のフィリングが覗いています。
ベルトコンベア上をシート生地が流れている工程でロータリーカッターで中央の切り込みを入れ、その生地を折って片側で閉じています。
ところで、内相を見てみますと、フィリングに接していた部分の生地の層が密着して、詰んだ状態になっています。
さきほど、パイと記載されていながらパン酵母を使用している商品がある旨を記述しましたが、基本の製法に則って規定の品質が得られない場合、それを補う意味で本来の定義から外れること(ここでは、パイの製品にパン酵母を使用)も選択肢としてあり、と思います。
あとがき
明日から3日間の日程で、第42回日本熱物性シンポジウム(日本熱物性学会主催)が(元々は北海道で開催予定だったものが)オンラインで開催されます。
個人事業では大学や企業のように十分な設備が整っている訳ではありませんので、なかなか革新的な研究成果を発表することは困難なのですが、それでもこれまでにない技術や現象の検証結果を発表する予定です。
もちろん、研究テーマはパン作りに関する内容(今回は食パン焼成時の熱移動)です。
そして、毎年、このような機会に他の研究者の方々の発表からは、いい刺激を頂いています(還暦を迎えても、まだまだ精進しなければ、と)。